68. 光あるところに陰はある
〇前回のまとめ
・カフェでケークタウンの料理を堪能した。
・歌姫の美声に聴き惚れた。
・宿代がないため、森で寝泊まりすることになった。
エリンたち3人がケークタウンに来てから数日が過ぎた。
今はたまに依頼を受けたり、生活の拠点としている【疾風の森】でモンスターを倒したりしてお金を稼いでいる。
当面の目標はお金稼ぎと戦闘訓練。それと、できればランクアップ。
スーパーランクになれば、獲得報酬の天引き率が6割から5割に下がる。たかが1割でもその差は大きい。
ランクアップはどれだけ依頼をクリアしたか、どんな依頼をクリアしたかによって決まる。具体的な基準は非公開。そもそもギルド内できちんとした審査基準が設定されているかすら怪しいところ。もっとも、少し前の日本だって似たような状態だったから、それほど驚くことでもないだろう。
ブロンズランク以上への昇格には加えて試験も必要になる。試験は容易でないことから、ブロンズランク以上のハンターは尊敬の的だ。
先日の『ホワイトエンジェル』はエリンたちよりも1年長くハンター稼業をやっていると言うが、未だにノーマルランクに留まっている。
実力や積極性などの要因もあるが、ランクアップはまだまだ先の話だろう。
カランコロン
さてさて、エリンたちは日が暮れる頃にギルドへとやって来た。
今日の成果を提出して、もらったお金で夕飯へと繰り出すのだ。
「こんにちは。今日も1日お疲れ様です。受注された依頼の方はいかがでしたか?」
「なんとか目標に間に合ったわ。はい、これ。証明書よ、確認して」
そう言ってダーシャは、対応した受付嬢のユリヤに1枚の紙きれを渡す。依頼達成の証明書だ。
「すごいですね、今回もS判定なんて。これならランクアップも近いかもしれません」
「当たり前でしょ。そんなことより早く報酬をもらえないかしら? アタシたちはお腹が空いてるの」
ハンターには嫌なヤツだってたくさんいる。ブラックリスト入りするようなものと比べれば、素っ気ない若手なんて可愛いものだ。
ユリヤは不快な色を微塵も見せず、淡々と作業を進めた。
「はい。『トリコロール』さんが今回受けられた依頼の成功報酬が30,000フォート。そこから6割引かせていただくので12,000フォートとなります。こちらですね、ご確認ください」
「…………相変わらずショボいわね」
「ホントに超ブラックだよ」
「今は我慢するしかありません。ランクアップまでの辛抱です」
報酬はパーティーメンバーで均等に分けるから、1人当たり4,000フォート。
この日受けた以来の内容はオーク討伐だった。飲食店からの依頼で、1体あたり6000フォート。5体倒したのでトータルで30,000フォートだ。
1体倒すだけでも苦労するため、かなりの時間を要した。
まあ、討伐証明部位だけならこの半額になっていたことを考えれば、まだマシと思える。
「ジェイラの言う通りね。さあ、夕飯に行きましょ!」
稼いだお金のほとんどは食費として消える。
ケークタウンに来てからというもの、エリンたちは食事に妥協しなくなった。そのせいで一向に貯金が増えないのだが……。
「もう、すっかりお腹ペコペコです。今日はどのお店に行きますか?」
「そうだね、この前のところとかいいんじゃない。ほら――」
「あ、そうそう。忘れてた」
「「「うん?」」」
受け取ったお金をバッグにしまい、ギルドを後にしようとする3人。ところが、ユリヤから声をかけられて踏み出しかけた一歩をしまう。
「どうかしましたか、ユリヤさん?」
「実は、最近この町で小さなお子さんが誘拐される事件が多発しているんです。成人間近のお子さんも被害に遭っているみたいなので、皆さんも気を付けてくださいね。特にエリンさん」
一見平和そうな町に見えるが、まったくトラブルがないわけではない。現にエリンたちだって、町に到着して早々『ブラックネイル』とかいうクレイジードッグに絡まれた。
どこにだって迷惑な人種というものは存在する。日本だって、いつ事件や事故に巻き込まれて命を落とすか分からない。
ましてや、ここは文明レベルが劣る異世界だ。油断は死のリスクを高めるばかり。
ただ、どうしても最後の一言が引っ掛かる。
ユリヤとしては善意としての発言だったが、かえって機嫌を損ねてしまうことに。
「失礼ね。エリンはこう見えても17歳、アタシたちの中で一番年上なのよ」
「えぇっ!? ど、どう見てもじゅぅs…………。い、いえ、何でもありません!」
呆れたようなダーシャの言葉に、ユリヤは驚きを露わにした。
彼女の口の中で発せられた「こんなに小さいのに……」という呟きは聞かなかったことにしよう。……何が小さいかまでは知らないよ!
はじめて見た自分の姿は中高生くらいと思った。ただ、あの時はやつれていたし、きちんとご飯を食べて肌のツヤも改善した今では、いっそう若く(というか幼く)見えてしまうのか。
…………あと、やっぱり体形のせいでもあるんだろうな。
「いっそ鯖を読もうかな…………」
「一緒にいれば大人だって分かるんですけどね。むしろ17歳じゃ若いくらいに思えます」
「そうね。妙に達観してたり色んなことを知ってたり、本当に同世代なのか疑わしい時もあるわね」
(うっ)
見た目は子供、心は大人。実際この小さな体にアラサー男性の精神が宿っているわけだから、そう思われても仕方がない。
ダーシャやジェイラに言わせれば、それがエリンという女の子。たまの奇妙な言動も、仲間たちからは個性として受け止められていた。
ちょっぴり変な自分たちの仲間。それがエリンだった。




