66. 『ホワイトエンジェル』
〇前回のまとめ
・多額の制裁金を支払って意気消沈。
・『ブラック・ネイル』にナンパされた。
・受付嬢のユリヤが一喝して助けられた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
エリンたちがギルドを出ていこうとすると、1人の少女が出口を塞いだ。
白っぽい金髪は屋内でも輝きを放っており、整った顔立ちは大人びた印象。背は高くてスタイルも良く、一見すれば端正かつ上品な女性なのに、今は腕を組んで立ちはだかっている。
後方にはその仲間が4人。胸元にはそれぞれ青色のバッジが。
挟まれてしまったエリンたちはげんなりするも、ジェイラが3人を代表して問いかけてみた。
「あの、何か私たちに用ですか?」
「用ですか、って…………。せっかくアイツらから助けてあげたハンナたちにお礼の一言もなしに行こうとするなんて、いい度胸してるじゃないのっ」
「「「えー」」」
『トリコロール』の3人は面倒くさそうな色を隠そうともせず、異口同音に声を発した。
その反応は、金髪の少女の感情を逆撫でした。大人びているという第一印象は早くも崩れ去る。
「何よ、その反応は!?」
「だって、アタシたちを助けてくれたのはギルドのオバサンじゃないの」
「オ、オバ…………!?」
ふと、どこからか沈痛な声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
「さすがはベテランって感じのすごい勢いでしたね」
「私、まだ24なのに……。バリバリの若手なのに…………」
どうしてだろう。
ギルドの奥から禍々しいオーラが発せられているような。封印されし悪魔が解き放たれたのかな?
「と、ともかく! ハンナたちは先輩として助けようとしてあげたのっ! アンタたちは後輩らしくハンナを敬いなさいっ」
「まあまあハンナ、落ち着きなよ。この子たちが無事だったんだからそれでいいじゃないか」
「そ、そうです。えっと、後輩の無事が、先輩の本望というものですよっ」
駄々をこねる子供みたいに喚く金髪を、仲間の赤毛と紺色がなだめた。
金髪が落ち着いたとみるや、今度はその赤毛がエリンたちに話しかけてくる。
「ボクの仲間が失礼。ボクたちはこの町でハンターをやってる『ホワイト・エンジェル』っていうパーティーのメンバーなんだ。あ、ボクはメイリ。よろしくね。
同い年くらいの女の子パーティーを見かけて、声をかけてみたくなったんだよ。まあ、『ブラック・ネイル』に先を越されちゃったけどね」
赤毛のメイリは一瞬だけ顔を曇らせるが、すぐ元の表情に戻して続ける。
「ここでボクたちが出会ったのも何かの縁。どうだろう。もしよかったら、これから一緒に食事にでも行かないかい? おすすめのお店を紹介するよ」
「結構よ。アタシたちは自分で――」
メイリの提案もダーシャは断ろうとした。『ホワイトエンジェル』の多くが豊かな果実を持っている。とりわけメイリは抜きんでて大きかった。
無情な体形格差が、薄いダーシャには癪だったのだろう。
しかし、
ぐぐぅ~
あろうことか、それはお腹が鳴る音で遮られた、エリンの。
「ちょっとエリン! 空気を読みなさいよ!」
「えー。これは仕方ないじゃん」
食事に行こうとしていた矢先でドタバタに巻き込まれ、今に至るのだ。空腹は限界に近づいていた。
ダーシャは呆れ顔になってため息ひとつ。
「ハァ。仕方ないって、アンタねぇ…………」
「キャーッ!! この子超カワイイんですけど! 真っ白で天使みたい!」
「え!? あの、ちょっと……」
突然、エリンは背後からグラマーなギャルに抱き着かれた。
精神は26歳男性。前世ではほとんど女性と接触する機会はなかった。今でこそダーシャやジェイラとパーティーを結成しているが、所詮はまだ子供。ロリコンでも貧乳フェチでもないエリンが、貧相な体に感じるものは何も無かった。(ジェイラは着やせするタイプ)
ところがなんと、背中に2つの豊満な感触が襲い掛かってくるではないか!
ラッキー? そんな風に思える余裕なんてない。過度な緊張と混乱で、エリンは目を見開きながらもその視界はどんどん狭くなっていった。
「お腹がすいちゃったの? お姉さんが食べさせてあげるね!」
「え、や、そのぉ……」
「ちょっと、何するのよアンタ! エリンが困ってるじゃないの、放しなさい!」
「エリンちゃんっていうのね! 名前もカワイイ!! ねえ、このお面取ってよ。絶対すっぴんもカワイイから!」
「あ、うぅ…………」
女の子になった恩恵のようにも見えるが、大人の女性と接することに慣れていないエリンにとっては逆に苦痛だった。生憎というか、心地よさなんかよりも恐怖しか感じられない。
さらに強く抱きしめられ、エリンの意識はだんだんと遠のいていった。
♦
「……………………はっ!?」
エリンが気付いた時は、2人の仲間と共にで椅子に座っていた。建物の中だが、ギルドではない。
周囲を確認してみると何組かの集団が見られ、それぞれ談笑している様子。人は多いが、気になるほどの喧しさはない。そこへ香ばしい匂いに鼻腔を刺激され、心が和らぐのを感じた。
どうやら飲食店の中にいるようだ。自分が気を失っている間に、ダーシャたちが連れてきてくれたのだろうか。
「あ、気が付いた?」
「げ……」
エリンの真向かいには先ほど抱き着いてきた少女。
失神の直前に取り乱した記憶がよみがえり、反射的に体をこわばらせてしまった。
ああいうナイトプールの年間パスポートを持ち歩き、インスタ映えのことしか頭にないような人種は、エリンのもっとも苦手とするタイプだ。
「あ、大丈夫だって。もうさっきみたいなマネはしないから、そんなに怯えないでよ」
「…………」
「まったく、ジュディは小さくて可愛い女の子を見るとすぐコレなんだから」
エリンがギャルを無視していると見ると、赤毛がため息まじりに言った。
「ホントごめんって。あちきも次から気を付けるからさ。ね、エリンちゃん」
「まぁ、そうしてくれると助かります」
一言謝られた程度で気持ちを切り替えることができるほど、エリンの人格は優れていない。
まだエリンはわだかまりを持ち続けていたが、そこへリーダー格の金髪とコミュ障っぽい紺色が席へやって来た。揺れる胸部に目線を奪われそうになるが、慌てて視線を逸らす。
「お、お料理を注文してきました。みみ皆さん、もうちょっと待っててください」
「あ、お面の子も復活したみたいね。丁度いいわ。料理が来るまで、改めて自己紹介しましょう! ケークタウンのアイドル『ホワイトエンジェル』のリーダー、ハンナよ」
ハンナが自慢するかのように大きな胸を張って宣言すると、両脇から紺色と無口な黒髪がわぁーっと両手をパチパチと叩いた。見た目は上品にも感じるが、どこか大学デビューしたてのような印象があり、背伸びしている感が否めない。
だが、ハンナの言葉を聞いた“お面の子”ことエリンはきょとんとした顔。
「アイドル? 皆さんはステージで踊ったり、握手会を開いたりしてるんですか?」
「エリン。アンタはアイドルを何だと思ってるのよ…………」
「え? アイドルってそういうもんでしょ」
てっきりアイドルと聞けばモーニン〇娘やA〇B48のような存在を思い浮かべ、それが当たり前の感覚だったエリン。
しかし、それは現代日本ならではのもので、この世界において芸能的な意味はない。そもそも芸能人が存在するのかすら疑問だ。あこがれの的や熱狂的なファンをもつ人といった意味で呼ばれている。
「あ、ボクたちがアイドルっていうのはハンナが勝手に言ってるだけだから、あまり気にしないでね」
…………自称でした。
自分からアイドルを名乗るとは…………。見た目は大人っぽいのに、中身は幼い面が強く残っているようだ。
(それに『ホワイトエンジェル』って。パーティー結成の時に私が強く反対してなかったら、今頃この子たちみたいに痛い人と思われてたんだろうな~)
ダーシャとジェイラも、パーティー名を『ホワイトエンジェル』にしなかったことは正解だと思っていた。『トリコロール』もどうかとは思うが、それでもコレよりはマシだとハンナと会って痛感した。
さて、ハンナの次は赤毛のボーイッシュヘア、メイリだ。顔だけ見れば貴公子に見えなくもないが、首から下は明らかに女性。エリンとダーシャにはない宝物を抱えている。
彼女は他のメンバーについても軽く紹介した。
「改めて、ボクはメイリだよ。こっちの物静かな子はソーニャ。あんまりしゃべらないけど、あの『アドベンチャーズ』のクロフォードさんに憧れて真似してるだけだから気にしないでね。ヒーラーだから、怪我した時は遠慮せずに頼ってね」
ソーニャは小柄で黒髪の子のことだった。
メイリからクロフォードへの憧れを明かされると、頬を染めて俯いた。
(まさかクロフォードに憧れる人がいるなんて。しかもこんな女の子が…………。世界は広いもんだね~)
彼女は5人の中で唯一、エリンたちと同類だ。
……何がって? 聞くな、きっと本人にとってはコンプレックスなんだから。
「で、そっちの髪を下ろしてる子がヘレンだよ」
「へ、ヘレンです。よろしくお願いしますっ」
ヘレンが勢いよくお辞儀をすると、結ばれていないロングヘアが宙を舞った。
ネガティブな印象。闇魔法とか使ってきそう。
「まあ、なれてない人は得意じゃないから大目に見てね。これでも魔法はすごいんだよ」
「そ、そそそんなことありましぇん!」
(((あ、噛んだ)))
ヘレンは少し涙目になる。
そんな仲間に微笑みながら、メイリは最後のひとりを示した。
「で、ラスト。その子がジュディ」
「は~い。みんなヨロシクね~!」
(う~む。どうしても膨らみすぎた胸元に視線が向いてしまう。この子ルックスだけは良いから、離れて見る分には目の保養にうってつけなんだよな。
…………てか残酷でしょ、この配分は。ダーシャはまな板どころか抉れてるんじゃないかってくらいなのに、向こうはみんな良いモノ持ってるよ。あ、ソーニャ以外。私はともかく、ちょっと哀れに思えてくるな…………)
「ほら、ハンナたちが名乗ったんだから、次はアンタたちよ」
「むやみに人に名乗るなってエリンさんが…………」
先程の注意をジェイラが忠実に守ろうとしたが、それを言った本人が止めた。
それはあくまでも相手が怪しいおじさんのような場合に限る。互いの名前を知らずして友好を深めることなどできはしない。
「まあまあ。奢ってもらうんだから、挨拶はちゃんとしないと」
「ふぇ! オゴル…………!?」
すると、ずっと自信に満ち溢れていたハンナが素っ頓狂な声を上げた。
そんなハンナに、エリンはどこか残念そうな視線を向ける。
「あれ、違うんですか? 私たちがいたところでは、先輩が後輩に奢るのが暗黙の了解でしたよ。ね?」
「そ、そうね。アタシたちは後輩だったわね」
エリンは日本の古き悪しき伝統を持ち出したのだが、ダーシャは金欠を乗り切るための策略だと思って便乗した。
「ハ、ハンナ…………」
「ぐぬぬぬ…………。わ、分かったわよ! 好きなだけ食べなさいっ!」
「「「ご馳走になりま~す!!」」」




