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64. 気付けなかった過ち

2章のまとめ

・2人の仲間と出会い、ハンターパーティー『トリコロール』を結成した。

・世間を騒がせる怪盗と渡り合い、孤児問題の解決に当たった。

・ストーカーから逃れるため、次なる町を目指して旅立った。←今ココ!




第3章『時が過ぎるのが早いなら、君が光になればいい』

「「「着いたー!!」」」


 ノーマルランクのハンターパーティー『トリコロール』のエリン、ダーシャ、ジェイラは、次なる町【ケークタウン】へとやって来た。

 人呼んで “のどかな時間が流れる町”。【フェヘールシティ】の北東方面に位置しており、自然に囲まれた穏やかな町だ。


 2つの町を移動するには、一般的に14日ほど要すると言われている。ところが、エリンたちが費やしたのはわずかに8日であった。

 この世界で、人々の主な移動手段は徒歩である。しかし、エリンはスケボー、ダーシャとジェイラはデビルウルフのチェレンに乗って高速で移動する。所要時間が短いのは当たり前であろう。

 もっとも、早馬で運ばれる速達が7日以内に到着することを考えれば、驚くほどのことではない。

 まあ、3人は寄り道しながらの移動であったから仕方ないとも言えるが。


「さあ、まずはギルドに行って、道中で狩った獲物を換金するわよ!」

「たくさんありますからね。きっと一気に大金持ちです!」

「久しぶりのホテルだぁ~」


 そう。エリンたちはケークタウンに来るまで、モンスターを倒しながら移動していた。

 アーチャーでありながら、まともに的へ当てることすらできなかったダーシャ。商家のひとり娘として育ち、ロクな戦闘手段を持たなかったジェイラ。そして、見た目こそ派手な魔法を使えるが、火力に欠けるエリン。

 強力な敵と闘うこともあるハンターでありながら、これは致命的な欠陥であった。


 そこで、ただ移動するだけではもったいない、レベルアップには絶好の機会だと、遭遇するモンスターと闘って己を鍛えてきたのだ。

 たった数日ではあったが、3人がかりでならオーガにも負けないくらいに強くなった。ダーシャは弓のコツをつかみ、ジェイラは従魔のチェレンへ状況に応じた適切な命令をすることができるようになっていた。


 エリン? 強いて言えば、チェレンへの恐怖心が多少とはいえ軽減した。半径2メートル以内に来なければ平気。それくらい。…………動物恐怖症にとっては大きな前進なんだよ!

 あ、あとジェイラから読み書きを教わった。…………って、これは寮にいた時からか。


「この5日間、ずっとトリコハウスでしたもんね」

「そりゃあ、そこらへんの家よりは立派かもしれないけど、やっぱりちゃんとした宿で寝泊まりしたいわよね。フェヘールにいた時だってずっと寮だったし。狩ったモンスターを換金すれば、高級な宿にだって泊まれるわ!」

「美味しいご飯が待ち遠しいです!」


 トリコハウスとは、エリンが魔族のサーモクからもらった携帯式の家のことだ。トリコロールハウス、略してトリコハウス。

 エリンのハンターバッグに収納できるようになっており、外観はあまり目立たない小屋だが、中の間取りは5LDK。さらにはお風呂やトイレ、キッチンまでも備え付けられている。


 フェヘールシティからの数日間、エリンたちだって野宿していたわけではない。夜はヴァンパイア特製の頑丈な建物に籠って安全を確保し、清潔を保っていた。

 そこらへんのハンターからすれば夢のようなことだが、これがハンターとして初の旅となる『トリコロール』にとっては、トリコハウスでの寝泊まりが基準となってしまった。


「これもエリンさんのハンターバッグにたくさん入ってくれたおかげですね。トリコハウスを入れても容量が十分余るなんてスゴイです!」

「ホントにそうね。他のハンターにバレたら無理矢理奪われるんじゃないの、エリン」

「それは嫌だなぁ…………」


 エリンが心底嫌そうな顔をしてみせると、ダーシャたちは思わずクスっと笑った。


「それならバレないよう気を付けることね。大丈夫よ、アタシたちだって言いふらして仲間を売るようなマネはしないんだから」

「そもそも、狩った数は多くないから大丈夫なんじゃない? トリコハウスを出し入れするところを見られない限りは」

「「アハハ…………」」


 エリンの言葉に2人は何かを思い出し、乾いた笑い声をあげた。

 実は、道中で他のハンターパーティーにトリコハウスを目撃されたことがあったのだ。

 何も無いはずの場所にポツンと1軒の小屋。3人は最近建てた家と言ってごまかそうとしたが、男性ハンターたちはどうしても泊めてくれと言って譲らなかった。


 年頃の女の子3人が住む家に、おっさんが上がり込もうとする時点で犯罪者予備軍確定だ。しかし、エリンたちが懸念した問題はそこではない。

 トリコハウスは外観と実際の間取りが一致しない。中を見られたら即アウトだ。

 エリンが催眠魔法の〈スリープ〉で彼らを眠らせ、トリコハウスを収納して撤収した。彼らが目覚めた時にはきっと、パーティーそろって同じ夢を見たと思ってくれることだろう。


「食事に行くにも宿をとるにも、まずはお金を手に入れることが先決ね。さあ、ギルドに行くわよ!」

「「おぉーっ!!」」




   ♦




 ケークタウンをしばらく散策してみると、ギルドの建物を発見することができた。

 大都市にあるフェヘールシティ支部ほど大きくないが、フェケテシティの建物を一回り小さくしたくらいの規模だ。


カランコロン

 ドアを開けて中に入ってみると、まだ夕方になる前だというにもかかわらず、ハンターらしき人の姿がチラホラと見られる。

 ただ、幸いにも窓口の利用者は少ない。ダーシャを中心に適当な窓口へと進んだ。


「こんにちは!! シネック王国ハンターギルド・ケークタウン支部へようこそ! 皆さん、この町ははじめてですよね?」

「ええ、そうよ。ここに来るまでにモンスターを倒してきたの。たくさん持ってきたから換金してちょうだい」


 『トリコロール』の対応に当たったのは20代半ばくらいの若い女性で、亜麻色のボブカットがトレードマークだ。胸元のネームプレートには『ユリヤ』と書かれている。

 いつぞやの受付嬢よりずっと丁寧で、第一印象は良好。

 ダーシャの言葉にも営業スマイルを輝かせ、にこやかに応じた。


「分かりました。それでは、こちらのカゴにご提出ください」


 モンスターは人々の安全・平穏な生活を脅かす存在であり、常に討伐依頼が出された状態になっている。そのため、いちいち依頼を受注しなくても提出することができるのだ。

 わざわざ倒したモンスターそのものを持ってくるのは手間がかかるため、その一部を討伐証明部位として持参すれば対応してくれる。ゴブリンやオークなどであれば耳のように。


 なお、モンスターの死体を放置すれば腐敗してしまうため、ハンターにはその焼却処分が努力義務として課せられる。

 ただしこれは守らないハンターも少なくなく、エリンたちも道中で耳のないモンスターの死体を見かけることがあった。現代で言うと、道端にゴミを捨てるような感覚だろう。


 もちろん、マナーの悪いハンターも少なくない。そうしたこともあり、ギルドはモンスターの死体の買取も行っている。モンスターによっては食用や装備品などの素材にもできるため、購入を申し出る者はある程度いるのだ。

 討伐証明部位だけより本体を持ちこんだ方が高値になるので、街道でモンスターの死体を引きづるハンターを目にすることもある。たいていは町の入り口で獲物を預ければ、あとはギルド職員の方で何とかしてくれる。




 話を戻そう。

 エリンたちはユリヤに従って、持ってきたモンスターをハンターバッグから取り出した。

 せいぜい2,3体分の耳が出てくると思っていたところへ10を超えるのモンスターの耳、そして死体が出てきたもんだから、ユリヤは目を見開く。しかし、大袈裟に驚くことなく平静を保った。

 ランクと実力は必ずしも比例するものではない。新米でノーマルランクの少女3人と思えば多いが、ハイパーランクにもなれば妥当な数だった。


「わあ! これはスゴイ量ですね。たしかに受け取りました。確認いたしますので、しばらくお待ちください」


 そう言って、ユリヤはたくさんの耳が乗ったカゴを奥にいる職員に渡した。


「そういえば、皆さんはどちらからいらっしゃったのですか?」

「フェヘールよ」

「……え?」

「「「え?」」」


 ユリヤからすれば、さりげない日常会話のつもりで尋ねただけだった。

 しかし、ダーシャの答えを聞いて動いていた手が止まる。そして何やら口の中で呟きだした。


「フェヘールシティから来た赤、白、青の3人娘…………」

「……あの、どうかされましたか?」

「ハッ!」


 ジェイラから声をかけられると、ユリヤは我を取り戻した。

 そして、『トリコロール』の3人に向き直る。しかし、その視線は先ほどまでとは異なり、やや鋭いものになっていた。


「アナタたちね、フェヘールシティのド真ん中でデビルウルフを連れまわして暴れたというのは?」

「「「…………あ」」」


 思い当たる節がある3人の表情が固まった。

 彼女たちはフェヘールシティを出る直前に、因縁のある『BB団』と出くわした。変態(ネストル)から慌てて逃げようとし、ジェイラがチェレンを呼び出したのだ。


 シネック王国では、基本的に街の中へモンスターを連れて入ることが禁止されている。従魔は指定の場所に預けることになっていた。凶暴性が低いモンスターであれば許可を得て例外的に連れ込むこともできるが、デビルウルフなんて見ただけで一般人は泡を吹いて卒倒する。

 それを破って連れ込めば、相応の違反金が街から徴収される。ハンターであれば、さらに制裁金がギルドから取られることに。

 モンスターの連れ込みは多くの人々へ危険をもたらしかねない行為とされ、違反金はそこそこ高めに設定されている。


「違反金、さっきの討伐報酬で足りるといいですね」


 フェヘールシティから速達便で、周辺地域のギルドなどに連絡が届けられていたのだろう。

 微笑むユリヤから宣告され、一気に絶望の淵へと追いやられる3人。


「「「やらかしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 少女たちの悲鳴が、ギルドの中に響き渡った。





「シティ」が「街」、「タウン」が「町」と字を使い分けています。誤用ではないので悪しからず。

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