↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/110

63. 閑話 とある厨房にて

【フェヘールシティ】某所




「おい、“ぷりん”の作り方は分かったか?」


「はい、料理長。なんでも卵とミルクと砂糖を混ぜたものを器に入れて、それを温めればできるそうです」


「何、それだけでいいのか? 孤児の店に絶品の菓子があるとかで、それと同じものをつくれってお貴族サマがうるさいんだ」


「ええ。僕も一度食べてみましたが、あの衝撃は今でも忘れられません。一体どうやったらあんなものを思いつくのか…………」


「俺も料理人の端くれだからな。子供が作れるものくらい簡単にできると思ってたが、如何せんレシピが分からなかった…………」


「でも、レシピさえ分かればこっちのものです。それに、僕たちは料理のプロなんですよ。孤児が作るものよりよほど美味しいものができるに違いありません」


「そうだな。よし、早速やってみるぞ!」




・・・




「…………なんだこれは。全然固まらないじゃないか。本当にレシピは合っているのか?」


「ドロドロしたままです。おかしいですね」


「どうやったら固まるというのだ…………?」


「あ! 分かりました、料理長!」


「おう、どうした?」


「卵ですよ。卵は温めれば固まります。“ぷりん”はその仕組みを利用しているんです」


「いや、それくらい俺にも分かってるぞ」


「しかしですね、料理長。考えてみてください。オムレツを作るとき、卵に牛乳を入れ過ぎてしまったら…………」


「そんなことしたら、いつまでも液卵のままじゃないか。…………なるほど、俺たちは牛乳を入れ過ぎていたのか。それは盲点だった」


「次は牛乳を減らしてみましょう」




・・・




「固まるには固まったが…………」


「卵感がものすごいですね。砂糖も少なくしたせいで、微妙な甘さになってしまいました。お菓子というよりおかずですよ。これじゃ、コップに入れた玉子焼きです」


「こんな玉子焼きがあってたまるか。どうせレシピを間違えたんだろ。何か足りないものは無いのか?」


「…………そういえば、“ぷりん”はヒンヤリとしてました。恐らく、しっかり冷やせば牛乳を増やしても固まるのではないかと」


「ええい! 氷の魔法が使えるヤツを連れてこい!」




・・・




「冷やしたのはいいんだが…………」


「やりすぎました。カチンコチンですね。全然まろやかじゃありません。まあ、ちょっとシャキシャキしてて、これはこれでアリな気もしますが…………」


「いやダメだろ。これは“ぷりん”じゃない。せっかく高い金で魔法使いを雇ったというのに…………。そもそも、たった3つの材料でできるはずがないんだ。本当に材料は正しいんだろうな?」


「言われて見ると確かに変ですね。ちょっと調べ直してきます」


「どうせガセをつかまされたんだろ。今度こそちゃんとした情報を持ってこい」




・・・




「料理長、ただいま戻りました」


「おう。それで、ちゃんと作り方は分かったのか? 何か足りない材料があるはずだ」


「それが、材料はあの3つで合っているようです」


「本当なんだろうな? だったら、どうして固まらないんだ?」


「どうも加熱が足りないようです。孤児たちが“ぷりん”を作る時に厨房の外から聞き耳をたてていたのですが、かなり長い時間火をかけていました」


「なるほど。ゆで卵は時間をかけるほど固くなるからな。それと同じってことか。俺としたことが迂闊だった…………」


「大丈夫ですよ、料理長。まだこれからでも挽回できます。すぐに試してみましょう!」




・・・




「固まったのは固まったのだが…………」


「それだけでも1歩前進です。とは言ったものの、なんだかすごくザラザラしてますね。甘さを加えても、この違和感はちょっと…………」


「お前、本当に作ってるところを確認したんだろうな」


「そ、それが、孤児はなかなかスキを見せなくて…………。音だけだとどうしても限界があります」


「…………おい、“ぷりん”の上には甘いソースがかけられていたな。あれで誤魔化しているんじゃないのか?」


「もしそうだとしても、表面のザラザラしか誤魔化せません。中のまろやかさをどうやって説明するんですか? あれは、まさに赤ちゃんの頬っぺたでした」


「ぐぬぬ。何か他にも秘密があるはずだ。もっと調べてこい!」


「分かりました!」




・・・




「どうも、液を器に入れる前に手を加えているみたいなんです」


「それがザラザラを滑らかにする秘密なんだろうな」


「なんでも、『かす』とか」


「……………………どういう意味だ、それは?」


「分かりません」


「貸す…………。貸本屋でもするというのか?」


「さすがにそれは違うと思います。…………料理長、卵白を取り除いてみたらどうでしょうか?」


「いいかもな。たしかに、液を見ても卵白のブツブツ感が気になる」


「これがザラザラした食感の原因なんだと思います」


「卵は卵でも、卵黄のことだったのかもしれん。それで作ってみるぞ!」


「はい!」




・・・




「おい、また固まらなくなったぞ」


「振り出しに戻ってしまいました。ザラザラを取るのに必要なのは、卵白じゃなかったんですね」


「材料だけは分かってるってのに…………。せめて『かす』の意味さえ分かれば」


「…………ハァ。全然上手くいきませんね、“ぷりん”。さすがにボクも疲れてきました」


「もうワケが分かんねーよ」


「きっと、そういう特殊な魔法でも使ってるんじゃないですか? だとしたら、ウチみたいな“ちょっと腕の良い料理人がいる程度の店”じゃ作るのは無理ですよ」


「ええい、“ぷりん”は止めだ! ウチはウチでオリジナルの菓子を作ってやる! 見てろよ『フレンズ』!!」


「ついていきます、料理長!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。