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62. 閑話 『フレンズ』

〇前回のまとめ

・グリーンウッド商会の協力の下、孤児の食堂を作った。

・ヴィンデックスの一件もひと段落。

・ネストルと遭遇し、エリンたちは街を飛び出した。

「アミー、お疲れさん。お昼の子はもうあがっていいよ」

「うん、わかった」


 わたしがジリーたちと一緒にお皿を洗っていると、マークが声をかけてきた。

 みんなはわたしのことを『アミー』と呼ぶ。でも、昔は違ったんだ。


 アミカス・ブラウンブレッド。

 それが、わたしが生まれた時の名前だった。パパはお店をやってて、ママはいつもおいしいごはんを食べさせてくれた。

 いつも広いお庭でいっしょに遊んで、楽しい毎日だった。


 だけど、わたしが5歳になるちょっと前の日、ぜんぶ変わったの。

 パパのお店が潰れちゃったみたいで、いつも外で働いてたパパがずっと家にいるようになった。

 わたしはずっとパパと遊べるって思ったんだけど、パパはお酒を飲んでばかり。そのうちわたしを叩いたり、おもちゃを投げてきたりするようになったんだ。

 ママはわたしを守ろうとしてくれたけど、そんなことしたらもっと痛いことされるの。

 優しかったパパはいなくなっちゃった。


 最初は怖かった。

 でも、ずっとガマンしてたの。

 もうすぐわたしの誕生日。その日には優しいパパに戻って、また3人でいっしょに遊んでくれるんだ。

 ママがそう言ってくれたから、わたしはがんばったんだよ。


 だけど、そうなる日は来てくれなかった。

 ある日、こわいおじちゃんがたくさんおウチに来たの。お金を返せーって叫んで、おウチの中で暴れて、机とか椅子を壊したんだよ。

 わたしはこわくてこわくて、ベッドの下でお人形さんといっしょに震えてた。おじちゃんたちが疲れて帰るまで、とっても長かったな。


 その日の夜、わたしはパパとママといっしょにお出かけすることになった。じいじのところにみんなで行くんだって。

 いつもは朝から馬車に乗って行くのに、おかしいよね。それに、なんで夜に行くのかその時はわからなかった。いつもは「早く寝なさい」って言われるのに。

 でも、今ならわかるよ。わたしを捨てるためのウソだったんだ。


 お山の麓を歩いてる時に、パパがママにね、「ここならいいだろう」って言ったんだ。

 わたしは遅くまで起きてたことがなかったから、ずっと眠たかったの。そしたら、ママが「アミカス、少し休憩してから行きましょう。少し寝ててもいいわよ」って言ってくれた。

 わたしはママに抱っこされて、そのまま寝ちゃったんだ。

 そして、起きたら誰もいなくなってた。


 起きた時はまだまっくらで、周りがよく見えなかった。

 だけど、遠くでお目目が光ってるのは見えたし、何かがグルグル鳴いてるのが聞こえてきた。

 わたしはすぐにそれがゴブリンだってわかったよ。だって、イタズラした時いつもママが「悪い子はゴブリンに食べられるわよ」って言われてたんだもん。

 わたし、イタズラばかりでいい子にしてなかったから、ゴブリンに食べられちゃうんだって思った。


 こわくてこわくて、ずっと泣いてた。

 ママに会いたかったのに、ゴブリンがどんどん近づいてくる。

 わたしは「もうイタズラなんかしないから助けてー!」って叫んだんだ。

 そしたら、1人のお兄ちゃんが来てくれた。お兄ちゃんはゴブリンの前からわたしをだっこして、助け出してくれたんだ。

 それがマークだったの。


 マークはわたしを“ひみつきち”にまで連れて行ってくれた。

 そして、おなかがすいてたわたしにごはんをくれたんだ。それがね、とってもまずかったの。かたくて苦いものが入ってて、へんな味がした。

 でも、まずいはずなのにおいしかった。ウフフ、変だよね。自分でもわかってるよ。


 それから、わたしの“ひみつきち”での生活が始まった。

 ものすごくビンボーで、最初はとっても苦しかった。パパもママもいないし、おいしいお菓子もおもちゃもない。おウチもお洋服も、みんなボロボロ。

 わたしが“ひみつきち”に来た時に着てたお洋服も、トゥニスっていうお兄ちゃんが「これは売れるぞ」って持っていっちゃった。


 でも、おともだちがたくさんできたの。色んな子がいた。

 頼もしいお兄ちゃんも3人いたんだよ。

 マークはごはんを作ってくれたり、壊れた道具をなおしてくれたりした。優しくてみんなのリーダー。

 トゥニスはちょっぴりイジワルだけど、“ひみつきち”で生きていくためのゴクイを教えてくれた。ビンボーが生きていくために、お金持ちの人からこっそりお金を分けてもらうんだ。

 あと、ネイトっていうお兄ちゃんもいた。不思議な魔法が使えて、よく魔獣を倒しに行ってたよ。オークを倒すくらい強いんだよ。あとね、お空も飛べるんだ。

 “ひみつきち”にいると、毎日がドキドキワクワクして楽しかった。


 だけど、楽しい時間って長くは続かないんだね。

 わたしが“ひみつきち”に来て1年くらいすぎた日、トゥニスとネイトがいなくなったんだ。

 マークは「ネイトのせいでトゥニスが捕まった」って言ってた。

 みんなネイトを裏切り者って呼んだ。


 でも、わたしはそう思ってないよ。

 トゥニスといっしょにお仕事に行ったお友だちがいたのに、帰ってくるのはトゥニスだけってことが時々あったの。トゥニスは「良い仕事を見つけたんだ。それで、ちょいと他の町まで行ってるだけだ」なんて言ってたけど、いつになってもお友だちは帰って来なかった。

 悪い子ばかりだったから、いなくなってもみんなは気にしてなかった。だけど、次はわたしが連れて行かれるんじゃないかって思ったらこわかった。いい子にしなきゃ、って思った。


 トゥニスがいなくなったのは、お友だちに悪いことをしちゃったからなんだ。

 それできっと、イジワルなトゥニスに「コラッ」って怒ったネイトとケンカしちゃったんだ。ちょっとやりすぎちゃって、憲兵さんに捕まったんだ。

 憲兵さんは“ひみつきち”の子供に厳しいから、ネイトは怖くなって逃げ出したんだね。どんなに強いネイトでも、たくさんの憲兵さんには勝てっこないもん。


 トゥニスとネイトがいなくなって、マークはもっと忙しくなった。

 2人が働いてた分まで働かなくちゃいけない。いつ寝てるのか不思議なくらい、マークはずっとわたしたちのために働いてくれたんだよ。

 わたしもマークのために何かやらなきゃって思った。それで、わたしはゴクイをがんばるって決めたの。

 マークにはゴクイを止めるように言われたけど、わたしにできるのはゴクイしかないんだ。


 だけど、ある日おかしなお姉ちゃんにゴクイをやったらバレちゃった。変なお面をつけたお姉ちゃんで、絶対イケるって思ったのに。

 3人がかりで追い込まれて、「もうダメだ」って思ったの。

 でも、マークがまたわたしを助けてくれた。わたしはやっちゃダメって言われてたゴクイをやった悪い子なのに、マークは助けてくれたんだ。

 それから、わたしはマークといっしょにお姉ちゃんから逃げた。一生懸命に走った。


 だけど捕まった。

 お姉ちゃんってズルいんだよ。お空を飛んで追いかけてくるんだもん。お空を飛べるなんて、ネイトにしかできないはずなのに。


 わたしのせいでマークまで捕まって、心の中でずっと「ごめんなさい」って謝ってた。

 わたしのせいでマークが悪い子になっちゃうって思ったら、涙が出てきそうになった。


 でもね、お姉ちゃんはわたしたちを許してくれた。

 しかもね、そのお姉ちゃんはわたしたちのために働く場所をつくってくれたんだよ。

 不思議なお姉ちゃんで、“ぷりん”の作り方も教えてくれた。

最初はずっと失敗してた。牛乳を入れ過ぎたり、おさとうが少なかったり、()すのを忘れてザラザラになったり。ぜんぜん上手にできなかったの。

 でも、何度も練習しておいしい“ぷりん”が作れるようになったんだ! みんなほめてくれて、とってもうれしかった!


 お姉ちゃんは魔法使いで、失敗してヤケドしてもすぐに魔法で治してくれたんだよ。「魔法使いだとおじさんみたいでしょ。今の私はJKなんだから魔法少女と呼びなさい」とか、よくわかんないこと言ってたけど……。


 とにかく、ゴクイをしなくても、わたしたちはおいしいごはんを食べられるようになったんだよ。

 みんなと働くのってすごく楽しい!


「あ、ジリーだ。もうすぐジリーも今日のお仕事が終わるはず。それまで待ってよっと」


 手を洗ってから店をのぞいてみると、まだ働いてるジリーがいた。わたしと同じでお昼に働いてて、いつもいっしょに帰ってるんだよ。


「おい、いいから“ぷりん”のレシピを教えやがれ!! こっちは貴族サマの命令で来てるんだ。従わないとどうなるか分かってんだろうな?」


 わたしがお店のすみっこでジリーを待ってると、お店で叫ぶお客さんの声が聞こえた。見ると、ネズミみたいな顔したおじさんがジリーに向かってワーワー言ってる。

 あ、あーゆー人はお客さんじゃないんだった。“くれーまー”って呼ぶんだったね。

 時々いるんだよ、“ぷりん”の作り方を教えろっていう人。


 わたしたちが作ってる時に盗み聞きしてる人もいるけど、絶対に見せないようにしてる。

 魔法使いのお姉ちゃんが、「情報は貴重な財産なんだよ。もしプリンのレシピが流出すれば、ここのプリンの価値は下がっちゃう。あと、私がプリンのレシピを教えたことも内緒。ただでさえ貴族相手にやらかして、ゲフンゲフン…………秘密にしてた方がおもしろいでしょ!」って言ってた。

 だから、絶対にバレないようにしなきゃいけないんだ。


「そこのガキんちょ。さっさとレシピを寄越せ! さもないと――」

「うるせぇな。いい加減にしろよ、テメエ!」


 “くれーまー”がずっと騒いでたら、お客さんの1人がとうとう怒り出した。

 たしか、あの人はウルトラランクのハンターさんだ。お店ができた時から来てくれて、いつも「うまい!」って褒めてくれるの。


「“ぷりん”が食べたいんだったら朝から並べばいいだけだろーが。みんなそうやってるんだ。たとえ貴族サマだろうが、それだけは譲れねーな!」

「そうだそうだ!」

「下っ端のくせに威張り散らしてんじゃねーよ!」


 すると、お店にいた他のお客さんもウルトラハンターさんといっしょに“くれーまー”の人に怒った。

 みんなハンターさんや大工さんたちで、体がオーガみたいに大っきいんだ。

 そんな人たちに囲まれて、“くれーまー”もビックリしたみたい。


「お、お前ら、貴族サマに逆らう意味が分かってるのか…………?」

「ああ、やってみろよ。たとえ王宮の兵士が来たとしても、この街のハンターが総がかりで相手になるぜ」

「お、お、お、覚えてろよーーー!!」


 お客さんたちが“くれーまー”を追い払ってくれた。

 ちょっと前までは“くれーまー”がすごくこわかったの。でも、今は平気だよ。だって、お客さんたちが守ってくれるんだもん。


「おーい、坊主。肉を追加で頼む!」

「こっちもな!」

「俺んとこにはラム酒もくれ!」

「はーい。今日はサービスするぜ。どんどん注文してくれよ!」


 “くれーまー”を追い払ってくれたお客さんたちに、マークがこんなこと言っちゃったから、お店はさらに大忙し。

 …………ジリーがぜんぜんあがれないよ。


「おいジリー。お前は昼の担当だろ。あとは俺たちでやるから、もうあがっていいぜ」


 けど、マークがちゃんと気付いてくれた。

 もう少し待ってると、疲れた顔したジリーがやって来た。


「ハァ、今日もクタクタだよ…………。あ、アミー! 待っててくれたの?」

「そうだよ。いっしょに帰ろ」

「うん!」


 わたし、この街が大好き!





投稿しようか迷ったけど、折角書いたんで……。

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