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54. 眠れない夜

〇前回のまとめ

・巡回中の憲兵から職務質問された。

・なんでも怪盗ヴィンデックスというのが世間を騒がせているらしい。

・ま、自分たちには関係ないか~。

 フェヘールシティのギルドは、もうすっかり夜中になったというのに、ハンターの姿がちらほら見られる。

 依頼が長引いたり、夜間にしかできない依頼があったりするのだろうか。酒を持ちこんでいる者も見られるが、居酒屋のサラリーマンみたいにギャーギャー騒いだりはしていない。そのエリアだけ、バーのような落ち着いた空間になっている。


「そういえばさ、憲兵がお尋ね者を捕まえた場合って、懸賞金はどうなるの?」


 掲示板に並べられた依頼書を見比べるダーシャたちの後ろから、エリンはふと沸き起こった疑問をぶつけてみた。


「基本的には、その人が所属する部隊に支払われます。捕まえた人には、部隊からボーナスとして贈られるところが多いみたいですね」

(私たちみたいなノーマルランクのハンターと比べたら、どっちがお得なんだろう?)


 その質問は、エリン自身の欠伸によって妨げられた。

 この世界に来てからというもの、すっかり早寝遅起きが定着しているだけに、夜間の活動は控えめにしたいところだった。


「…………どう、ダーシャ。何か良いのあった?」


 目をこすりながら問いかけると、ダーシャは苦虫を嚙み潰したように答えた。

 意気込んでやって来ただけに、出鼻をくじかれたように感じているのか。


「う~ん。ノーマルランク向けとなると、どれも微妙なのよね…………」


 依頼書は、ギルドがクライアントから受け取り、準備ができ次第張り出される。

 フェケテシティのように規模が大きくないところでは随時行われているようだが、ここフェヘールシティのギルドでは、時間を置いてまとめて張り出されることになっている。

 どんな依頼に出会えるか。それは最早、運命と呼ぶにふさわしい。


「クッ、せっかく新しい装備まで買ったというのに…………」

「まあ、そんなもんだよねぇ」

「ねえ、アレなんかどう――」


 それは、ジェイラが1枚の依頼書を指そうとした時だった。


 突然、ギルド内の照明が消え失せた。

 電気なんてない世界。夜のギルドは、壁にかけられた松明で灯りをともしていたのだが、それが一斉に消え失せたのだ。


「「「わっ」」」

「「「きゃっ」」」

「ア゛ーーー」


 暗闇に包まれたギルドの中で、ハンターたちが動揺する。

 エリンは暗さに目をならそうと、その場で目を閉じた。


「っ!?」


 すると、なにか体に衝撃を感じた。


「しぃっ! アタシよ、エリン。驚かないで」


 その衝撃は、エリンの前にいたダーシャが自分の腕をつかんだことによるものだった。

 暗闇の中で仲間とはぐれないようにと、咄嗟の行動だったのだろう。…………にしては、少々力が強い気がするが。


「あ、あぁ。ダーシャか…………。ジェイラは?」

「ここにいますよ」

「ぅおっ」


 エリンが見渡そうとすると、すぐそこにジェイラが現れた。


「…………みんな落ち着いてるね」

「べ、別に、これくらい何でもないんだからねっ!」

「まあ、暗闇には慣れてますから」


 …………ダーシャはともかく、平然と言ってのけるジェイラからは闇を感じる。


 混乱して暴れ出すハンターが出てくるかもしれない。闇に紛れて盗みを働こうとする輩も現れるかもしれない。

 3人は固まり、集中して周囲に気を配った。


「おい。誰か光魔法が使えるヤツはいないか!? こう暗いんじゃ何もできねえ。どうにかしてくれ!」


 やがて、闇の向こうから男性ハンターの声が聞こえてきた。


「あ、私使えるんだった」


 かつて、モヴィーと共に真っ暗な洞窟を探検した際、エリンは照明の魔法を使っていた。

 想えば、あれから結構な月日が過ぎていた。すっかり忘れちゃったとしても仕方がないよ!


「エリン、使えるんだったら、もっと早く使いなさいよ」


 ダーシャの冷たい視線は、真っ暗な中でも感じられた。

 エリンはそれを適当に笑い流して魔法を発動させる。


「ハハハ…………。えっと、〈フラッシュ〉!!」

「「「「「うわーーーっ!?」」」」」


 ようやく暗がりに目が慣れてきたというところに、強烈な光が差し込む。

 おかげで、ギルドにいたハンターたちは光の変化で目を抑える羽目に。


「馬鹿じゃないの!! エリン、ちょっとは抑えなさいよ!」

「あー、ゴメンゴメン」

「エリンさんって、本当に何でもできますね!」

「うんそうだねー」


 再び灯りが戻ったギルド。いくらドアが解放されているとはいえ、松明(たいまつ)が一斉に消えることなんて、まずあり得ない。

 一体どうしてこんなことが起こったのだろうか。

 誰もが疑問に思っているところへ、壁際から大きな声が発せられた。


「おい、なんだアレは!?」


 そう叫んだのは、『トリコロール』の隣で依頼書を物色していたノーマルランクのハンターだった。

 見上げてみると、モンスター討伐系の依頼書が掲示してある区画の中に、ひときわ目立つ紙切れが張り付けられていた。




『ヴィンデックス

 オーク スル チョウダイ ゴブリン ザイホウ 

 スライム ウッドノ コボルト グリーン ワイバーン

 パンチラビット ヨル オーガ ゴノ ゴーレム ミッカ 』




 それは、怪盗ヴィンデックスから、フェヘールシティのハンターや憲兵たちに宛てられた挑戦状だった。

 まだまだ今夜は眠れない。




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