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51. スリにご注意

 野盗は城門で憲兵に引渡し、受け取った用紙をギルドに提出すれば報酬がもらえる。

 今回の報酬は、野盗1人当たり金貨10枚(10万フォート)。リラタウンを襲撃した重罪人ということで一応かなり高めの設定。まあ、いつぞやのお尋ね者・バドラーと比べたら物足りなさを感じるが、相場を考えるとお得なんだよ。

 さらにはカブルストーン商会に行って依頼完了の報告。相変わらずの琴瑟(きんしつ)ぶりを見せつけられた。


 そして、ギルドでもらったお金を利用して、ダーシャとジェイラの装備を購入。もらった金貨は全て消え去った。トホホ…………。

 それでもやはり、安全には代えがたい。命の保障と思えば安い物だ。




「フッフッフ、良い買い物をしてしまったわ」

「お買い物なんて久しぶりだったから、すっごく楽しかったです!」


 ショッピングを終え、『トリコロール』の3人はギルドを目指して大通りを歩いている。ギルドに行ったのは朝だったのに、このころにはもう日が沈み始めていた。往来は仕事を終えた人々でごった返している。


「…………」


 歩きながら談笑するダーシャをジェイラ。他方、エリンはぐったりとした顔。

 そんなエリンをダーシャが咎めてきた。


「……何よエリン、そんな疲れ切った顔しちゃって。ちょっと予定よりズレただけじゃないの」

「いや、ちょっとどころじゃないよ。まさかこんなに長くなるとは…………」


 前世でまともに買い物デートなんてしたこともなく、女の子とのショッピングを楽観視していたエリン。

 神崎麟太郎時代に自分の服を買いに行く時だって、予め買うべきものを絞り込み、ネットで目星を付けてから店舗へ足を運ぶ。入店から会計まで10分もかからない。大きめのショッピングモールだって、滞在時間が30分を超えることはまずなかった。

 だというのに、ジェイラたちは何周も複数の店を回り、結局は最初の店にあった商品を購入したのだ。ただただ振り回されっぱなしのエリン、ご愁傷様です。


「そんなにイヤなら、先に帰れば良かったじゃない」

「そうは言ったって――」


ドンっ


「――おっと」


 愚痴の1つや2つをぶつけてやろうと思った矢先、人ごみの中を駆ける少女とぶつかった。


「ゴメンなさ~い」


 小柄なエリンの胸元に顔が当たった少女は、振り向きざまに謝りつつ、そのまま走り去っていった。

 それを見たダーシャがため息ひとつ。


「はぁ~。……ホント、気を付けなさいよね」

「え、何? どしたの」


 キョトンとするエリンの前に、ダーシャがある物を見せつけてきた。


「はいこれ」


 それはエリンの財布だった。詰め込まれたお釣りの銀貨で、パッと見ただけでも重量感が伝わってくる。だというのに、本人はなくなったことにも気づいていなかった。


「えぇっ!? いつの間に…………!?」


 慌ててポケットを確かめると、パンパンだったはずのポケットは軽くなっている。

 動揺するエリンに、ダーシャは顎で後方を示しながら教えてくれた。


「……さっきの子よ。エリン、隙だらけだったから」

「ほえ~」

「ちゃんとハンターバッグにしまっておいた方がいいですよ、エリンさん」

「そうするよ……」


 これまで犯罪とは無縁の人生だった。そうしたこともあってか、まさか道端でスリ、しかも子供にやられるとは思いもしなかった。

 金貨こそハンターバッグの中だが、小銭は取り出しやすいようにとズボンのポケットに財布を入れていたのだ。

 人が多いということは、それだけ犯罪も多いということ。注意散漫なヤツほど狙われる。


(これからはジェイラの忠告に従おう)


 そう思いつつ、エリンはダーシャから財布を受け取った。




   ♦




「フフン、いいカモだったね♪」


 少女はひとっ走り終えると、路地裏へ回り込んだ。

 そこで一息ついて、先程の成果を確認しようと懐を確かめる。

 だが――


「ああっ! な、ないっ!?」


 たしかに布の袋をつかんだ感触はあった。しかし、しまい込んだはずの物は、どこにも見当たらない。

 慌てた少女は、セルフでボディチェックをして全身くまなく探してみる。それでも見つかるはずはなかった。


「ど、どうして…………?」


 肩を落とす少女。

 するとそこへ――


「お探し物はこれかな、お嬢さん?」

「っ!?」


 声が聞こえた方を向くと、そこにはさっき財布を取った銀髪の女が構えていた。その手の中には、自分が獲ったはずの財布が収まっている。

 自分を捕まえに来たのだと判断した少女は、咄嗟に反対方向へ逃げ出す。


「……あ!」

「こんなことして……。ホント馬鹿じゃないの?」


 しかし、行く手の先には女の悪友2人が現れた。

 挟まれた少女は歯を食いしばる。

 徐々に間合いを詰められ、泥棒少女の命運もこれまでか。そう思われた時だった。


「おらーっ!!」

「「エリン(さん)、危ない!」」

「え? …………あたっ!?」


 突如エリンの背後に緑色の髪を持つ少年が現れ、木の棒でエリンに殴りかかった。

 不意打ちを喰らい、後頭部を殴られたエリンは地面に倒れこむ。


「アミー! 今の内に!」

「うんっ」


 エリンよりも背丈の大きな少年は、そのまま少女の手を取って走り去った。


「エリンさん、大丈夫ですか?」

「ちょっとエリ――」

「あんにゃろー! ちゃっかりまた盗りやがった!!」


 ジェイラたちが駆け寄ってくると、エリンは自ら跳び起きた。少女を追い詰める際、財布を手にしたままでいたもんだから、さっきの少年に奪われてしまったのだ。

 そして、ハンターバッグからスケボーを取り出して飛び乗った。


「落ち着きなさい、エリン!」

「逃がすもんかーっ!!」

「うわっ」「きゃっ」


 ダーシャの制止も聞かず、エリンはスタートした。

 そのまま人が密集している大通りへ飛び込んでいく。


「うおっ!」「なんだ!?」「あんぎゃ!」


 エリンは一気に大空へ上昇。夕日を背景に、高いところから町全体を見渡した。


「チクショウ。どこ行った?」


 緑の髪は特徴的だが、様々な人がいるこの町では、同じような色の人は決して少なくない。

 人ごみをかき分けて逃走しているはずの子供2人を、エリンは血眼になって探した。


「あ、見つけた!」


 スリの少年たちはさっきの路地裏から離れるため、必死になって走っていた。しかし、それが仇となった。人々が歩いている中を走っていたせいで、空から見た時に目立ってしまったのだ。

 エリンはターゲットめがけて急降下。


「待てコラァァァーーーー!!!」

「チッ、見つかった」

「と、飛んでる!?」


 エリンは地上2,3メートルくらいを突っ走っているので、通行人にぶつかる心配はない。

 ただ、かなり注目を集めてはいる。あまりにも高速なので顔を覚えられることはないと願いたいが、他人の視線なんて、エリンは全く気にもならなかった。


「アミー、もっと早く!」

「無理だよ〜」


 所詮は子供の足。

 エリンに追いつかれるのは時間の問題だった。


 緑髪の少年の背に迫ったエリンは、スケボーから飛び降りて襲い掛かる。

 少年が持っていた財布は手から抜け落ち、地面を回った。


「うわっ!」

「へっへっへ。つーかまーえたー」

「クソゥ!!」

「これは返してもらうよ♪」


 地面に倒れた少年の背に乗り、転がった財布を回収しようと手を伸ばす。

 ところが、エリンの指が財布に触れることはなかった。


「……………………ん?」


 見ると、3歳くらいの子供、おそらくウサギの獣人が両腕で財布を抱え、エリンから守ろうとしていた。

 子供に気付いた緑髪は、エリンがその子を襲うと判断して声を上げた。


「ダメだファーミン!! それから手を放せっ!」

「…………やだ」


 そのままファーミンと呼ばれた幼子は走っていった。


(ファーミンが危ないっ!)


 緑髪は、のしかかるエリンを睨みつける。

 しかし、エリンは動こうとする気配を見せなかった。目を見開き、言葉を失っていた。恐る恐るといった具合に、緑髪はエリンに話しかけようとする。


「お、おい……。お前…………」

「マークをいじめるなー!」

「痛っ」


 すると、緑髪の上に座ったままのエリンに、どこからか石が飛んできた。


「っ!?」


 気付くと、エリンは周囲を小さな子供たちに包囲されていた。

 ただ、エリンを驚かせたのはそのことではない。


「…………どうして?」


 そこにいた子供たちは、スリの子を含めてボロボロの恰好をしている。

 ロクに食事もとれていないのだろう。まだ幼い子達ばかりだというのに、少し前までのエリンと同じように痩せ細っていた。




 緑髪たちが逃げ込んだ先、エリンが迷い込んだところは、栄えた街の外れにある孤児の住処だった。





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