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50. 旅立ちは恐怖と共に

〇前回のまとめ

・エリン、ダーシャ、ジェイラの3人は、ハンターパーティー『トリコロール』を結成した。

「さあ、アタシたち『トリコロール』の物語がここから始まるのよ。未来へつながる大切な一歩を皆で踏み出そう!!」

「「おぉーー!!」」


 サーモクの家の前で、ダーシャに合わせて新ハンターパーティー『トリコロール』のメンバーが拳を上げた。


「これからフェへールシティに戻ってジェイラさんの装備を揃え、『トリコロール』の初依頼を受けるわよ」

「頑張りましょー!」

「おー」

「ちょ、ちょっと待ってほしいっす」


 3人の少女たちが踏み出そうという時、家の中から出てきたサーモクが慌てて引き留めた。


「どしたのサーちゃん」

「折角の決起集会を邪魔しないでよね。もう少し時間かかるから、お見送りはまだ大丈夫よ」

(え、いつまで続けるの…………?)


 いざ出陣という時に腰を折られたものだから、ダーシャはへそを曲げている。

 そんな一行に対してサーモクは、いささか逡巡(しゅんじゅん)しつつも気になる点を告げた。


「姐御たち、リラの方に用があるからこの森に来たんすよね。フェへールに戻るのはいいっすけど、まだ用事が終わってないんじゃないっすか?」

「「あ」」

「?」


 カブルストーン商会からリラタウンまでの配達依頼のことなど、すっかり失念していたエリンとダーシャ。

 先行き不安である。


「エリン、アンタならすぐ行って戻って来れるでしょ。アタシはジェイラとここで待ってるから、ちょっと行ってきなさいよ」

「えー。あの村長たちがいるところに、私だけで行くのはちょっと……」


 野盗から町を守ったエリンに賠償を請求しておきながら、復興に助力したら掌を返して英雄扱いし出したリラタウンの町長。自己保身ばかり躍起になる人種だ。

 控えめに言って、二度と顔も見たくないと思っている。

 ダーシャが同伴するならということで受注したのに、とてもじゃないが単身で乗り込むなんて考えただけでも胃がむかつく。


「ダーシャ、さすがにそれはあんまりですよ。これは『トリコロール』の依頼なんですよ。私たち皆そろって行くべきじゃないんですか?」


 するとそこへ、まだハンター登録もしていないジェイラがダーシャを諫めようとした。


「だけどジェイラさん、エリンは――」

「言い訳しないでください。ダーシャが来ないんだったら、私が行きますからね」


 だが、ジェイラは知らなかった。エリンのスペックを。


「ならジェイラ、私と一緒に行こうか。心の準備はいい?」

「へ?」


 振り向くと、エリンはいつの間にか取り出したスケボーに乗ってゴーグルを装備していた。

 そして、そのおかしな恰好を怪訝そうに見やるジェイラの脇を抱える。


「レッツらゴー!」

「エリンさん……? え、これは……って、キャーーーーーーーッ!!!」


 そのままエリンはスタートし、巻き込まれたジェイラの悲鳴が森に響き渡るのだった。




   ♦




「あら、おかえり。早かったわね」


 パパっと依頼をこなしてきたにもかかわらず、エリンはげんなりした様子。

 さすがのエリンでも、人を抱えての長距離移動は参ってしまうのか。


「あ~、あんのジジィめ……。街に戻ったら藁人形作らなきゃ……」


 どうやら肉体的な疲労よりも、人間関係の不備による精神的な負担の方が大きいようだ。

 なおリラタウンでは、町長の主導によってエリンの像が作られようとしていたので、事故を装って破壊しておいた。


「スピード上昇、気分は高揚。そして私はみんなの太陽~」

「…………だ、大丈夫?」


 未知の体験に心を揺さぶられ、ラップに目覚めたジェイラ。

 こちらはこちらでショックが大きかった様子。


「アハ、アハハハハ~」

「あ、姐御、おかえりっす。そうそう、アレのご用意ができやした」


 家の裏からひょっこりとサーモクがやってきた。

 そんな彼を見て、エリンは首をかしげる。


「アレって?」

「……忘れたっすか? 姐御の家と野盗のことっすよ!」

「おぉ……! そうだった!!」


 裏手に回ると、そこにはもう一軒の家と、グルグルに縛られた野盗団の姿が。

 デビルウルフが彼らの監視をしているが、野盗たちは皆気を失っているようだ。


「家は姐御の指示次第で出し入れできるっす。試してくだせえ」

「オッケー。…………あらよっと」


 エリンがサーモクの言う通りにやってみると、瞬く間に家が消えた。バッグの中を確認してみると、それらしきものがあることを感じる。

 背後からダーシャたちの拍手が聞こえ、鼻が高くなった。


「あとは野盗たちっすね」

「いくらになるかな~」

「…………まさか初仕事が野盗の連行だなんて。しかも他人が捕まえた…………」

「大事なお仕事ですよ。野放しにしてたら困る人が出るんですから」


 ダーシャはどうも腑に落ちないようだ。

 どんな仕事にも価値を見出そうとするジェイラを見習ってほしい。


 何はともあれ。


「じゃ、サーちゃん。色々とありがとね」

「いえいえ。また来てくだせえ」

「ハーブティーを飲ませてくれるならいいわよ」

「お世話になりました」

「ガウッ」


 3人と1匹はサーモクに別れを告げ、リラの森を去っていくのだった。


「…………え? 何かいるんですけど」


 野盗をしばるロープを持つエリンは3人の最後尾を歩いていたが、前を行くジェイラとの間に、何やら黒い物体が動いている。

 大型犬というよりは、ビッグライトを当てられた狼だ。エリンが知っているそれと比べて、少なくとも5倍の大きさはある。

 長い毛の隙間からぎょろぎょろとした目が光っており、エリンはさりげなくダーシャの背後に隠れていた。


「ああ、この子ですか? 可愛いでしょ。真っ黒だから“チェレン”って名前にしました」

「そ、の…………どうしたの?」

「サーちゃんさんから預かったんです。護衛にどうぞって」


 「ブサ可愛い」なんて言葉があるほど、女の子の感性は理解しがたい。

 ジェイラが自分の体より大きなデビルウルフの頭を撫でてじゃれ合うのを見るだけで、鳥肌が立ちそうになる。


「……どうしたのエリン? チェレンが怖いの?」

「ソソソソンナコトナイヨー」


 この世界ではのんびり過ごしたいと思っていたのに、恐怖と隣り合わせに生きることが決まった。絶望は大きい。


「…………でも、その子を連れて街に入れるの?」

「たしかに。街の人からすれば危険だと思ってる魔族のペットだったわけだし、門番が通してくれないかも」

「あ、それなら大丈夫ですよ。チェレン、ハウス!」

「ガウッ」


 ジェイラが命じると、突如真下に黒い円が現れ、デビルウルフのチェレンはその中に入っていった。

 チェレンが完全に消えたのを確認すると、ジェイラは再び命ずる。


「チェレン、カム!」

「ガウガッ!」


 すると、先程の円が再び現れ、そこからチェレンが浮かび上がってきた。

 そのままジェイラの元へ入り込み、彼女も嬉しそうに抱きつく。


「エヘヘ、よくできました~」

「クゥ~ン」

「スゴイじゃない、ジェイラ!!」

(怖い! いつどこから出てくるかも分からないんじゃ、毎日怯えっぱなしだよ!)


 3人がチェレンを囲んで色々と話していると、野盗の1人が隙を見て手元のロープを解いて逃亡を試みた。

 野盗のことなんて全く意識していなかったエリンたちは気付くのが遅れた。しかし、チェレンはそれを見逃さず、すぐさま駆けだした。


「ちょっと、チェレン!?」

「野盗が逃げたわ! エリン!」

「あ、大丈夫みたい」


 エリンが魔法を使うまでもなく、チェレンが野盗を捕まえて戻ってきた。半殺しにして。


「「…………」」

「わー! チェレン、よくできました〜」


 そして、これを平然と受け入れるジェイラ。まだ年端も行かぬ少女だというのに、闇の深さを感じる。


「(小声で)ねえダーシャ。大丈夫なの、あれ」

「(小声で)あ、アタシに聞かないでよ。……まあ、貴重な戦力よ。ジェイラが闘えるのか不安だったから、丁度良いわ」




 それから門が見えてくるまでの間、野盗たちの周りをずっとチェレンが回っていた。

 あの惨劇を見たばかりでは、ヒモがほどけようと誰も逃げようなんて考えることはなかったのだが。


 かくして、『トリコロール』の一行はフェヘールシティに舞い戻ってきた。





 遂に50話! 意外と早いものですね。書き溜めがものすごい勢いで減っていき、戦々恐々とする日々です……。100話までは何とか続けて投稿していきたいと思っています。

 さて、いよいよ2章も後半に突入です。これからもどうか本作をよろしくお願いします♪ヽ(´▽`)/

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