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45. 番人再び

〇前回のまとめ

・発狂したネストルに襲われかけた。

・寮に戻り、ダーシャと今後のことについて話し合った。

・ドアを開けると、そこにはネストルが待ち構えていた。

「…………ねえ、エリン。今からでも遅くないわ。やっぱり遠回りしましょ。ね?」


 もうすぐ【リラの森】だというのに、ダーシャはまた怖気づいてしまった。

 エリンはもう魔族なんかいないと信じ込んでいるため、ダーシャのチキンが鬱陶しくなりつつある。


「大丈夫だって。魔族とかいないし、いたとしても逃げれば問題ないよ」

「馬鹿じゃないの! 問題大アリよ!! ......どうせエリンはまた空飛ぶつもりなんでしょうけど」

「素直に怖いって言えばいいのに」

「べべ別にこっこここ、怖くなんかないんだからぁ……」

「ニワトリ?」


 依頼主であるカブルストーン商会のラモンが、エリンたちにテント一式などを安く売ってくれた。鍋や食材も用意したし、キャンプの準備はバッチリだ。

 とはいえ、エリンにとっては、夜は屋内で過ごすに越したことはない。

 たしかに、横になって眠ることができるだけ社畜時代よりはマシかもしれない。それに、魔法で火を起こせば温かいご飯だってある。

 エリンは前世での自分の生活と比較して、とある疑問が沸き起こった。


(……あれ、日本って文明国だよね?)






 【リラの森】の入り口には、エリンの言葉通り、魔族らしき姿はなかった。

 エリンは怯えるダーシャの先を歩き、森の中に入っていった。


ザワザワザワ……


 心なしか、木の葉が揺れる音が大きくなる。


「ヒイィ!!」

「大丈夫だよ、ダーシャ」

「何言ってんのよアンタ! その言葉が一番大丈夫じゃないのよ!!」


 ダーシャをなだめるエリンだったが、ふとその歩みを止める。

 うつむき気味に歩いていたダーシャは、その背に当たった。


「フフフフフ、ハーハッハッハッハー!!」


 突如、森の静寂を破る、奇妙な笑い声が2人を包んだ。

 エリンの背後からは、ダーシャの悲鳴が響く。


 そして、どこからか声が聞こえる。


「汝ら、余が守りしこの森を通らんとする者か」

「ヒィ! や、やっぱりいたじゃないのぉ……。エリンのバカぁ……」

「おっかしいなぁ」


 エリンは自分にしがみついてくるダーシャの背中と、ポンポンを優しく叩く。

 精神的には20代の男性だが、今のエリンは幼い妹をなだめる兄のようなものだった。


「フフハハハハハ。ここを通りたくば余の問題に……って、姐御じゃないですかー!!」

「「…………アネゴ?」」




   ♦




 エリン&ダーシャは今、【リラの森】の奥にある木の家にいた。

 切妻屋根が特徴的な、大きなウッドハウスである。中は心地よい木の香りで満たされている。

 内装は至ってシンプルで、余計なものは置かれていない。きちんと整理整頓ができる人は好感が持てるね。


「…………どうしてこうなったのよ」


 腑に落ちないといった顔でダーシャがボソッと呟く。

 そうしているところへ、森の番人・サーモクがトレイをもってやって来た。


「すいやせん。大したもてなしもできず」

「お構いなく~」


 そう言って、エリンはサーモクが出したお茶をズズズとすする。

 飲んだ瞬間、爽やかな風が体内を吹き抜けるようなハーブティーだ。


「エリン、飲んで大丈夫なの……?」

「ダーシャも飲みなよ。美味しいよ」

「姐御の言う通りでさぁ。ぜひぜひ!」


 サーモクには猜疑(さいぎ)の目を向けるが、エリンに促されてダーシャもカップに口を付けた。

 その瞬間、雷に打たれたかのような衝撃が走った。


「……っ! 美味しい!?」

「ね」

「そうでしょう、そうでしょう。このハーブは、わてが森の中で育てたんでさぁ」

「え、アンタが作ったの!?」

「へい! 丹念込めて作りやした」

「……ふぅん、やるじゃない」


 サーモクは、ハーブティーでダーシャのハートをガッチリとつかんでしまった。


「しかしまぁ、よく生きてたね、“サーちゃん”」

「へへっ。あれから7日は寝込みましたよ」


 文字通り雷に打たれた上、高い場所から真っ逆さまに落下した。

 それなのに生きていることだけで不思議なくらいだが、サーモクは7日で治ったという。これも魔族ゆえなのか。


「……てかアンタ、何でエリンが“姐御”なのよ?」


 すっかり警戒心を解いていたダーシャは、ふと疑問を投げかけた。


「あーそれ、気になってた」

「へい。わてはこの森を通る人たちに難しい問題を出して、悩み苦しむ顔を見るのが唯一の生きがいでした」


 急にサーモクが語り始めた。

 エリンはそれを咎めることなく、「悪趣味ね」と、ダーシャがこぼす。


「うっす。そんな時、わての渾身の力作を、ちぃっとも考える間もなく答えを導き出した御仁がいたのです」

「それがエリンだったと」

「へい。……いつの間にか、わては傲慢になってやした。姐御はそんなわてのプライドを、いとも簡単にぶち壊しちまったんでさぁ。おかげで目が覚めやした」

「でも殺そうとしたよね」


 エリンが放った言葉に、場が一瞬固まった。その顔に表情はない。ダーシャに至っては、今にもサーモクを呪うかのような目を向けている。

 ハーブティー効果は呆気なく潰えた。


「しかも支離滅裂な言いがかり付けて」

「いやいや、殺すなんて滅相もない! ……ちぃとばっかしムキになってしまいやした。あの時はホントすいやせんっした!」


 サーモクが椅子から飛び降り、綺麗に土下座した。頭が床にぶつかり、ゴンと大きな音がする。

 人と関わる機会が少ないから、尊敬できる人(笑)と出会ってどう接していいか分からなかったんだね。


「そもそもわては、人を傷つけたことなんてありやせん」

「そんなの信じられるワケないじゃない!」

「皆、ちょっと脅かすだけで逃げてくっす。ホントっすよ!」


 たしかに、ヴァンパイアのような外見からあの禍々しいオーラ、加えて凶暴そうなデビルウルフを見たら、誰だって逃げ出してしまうだろう。

 恐ろしい魔族が【リラの森】にいるという話ばかりが広まり、警戒されるようになってしまったらしい。


「ん? 野盗たちはどうしたの? ワンちゃんたちに襲われてたと思うけど」


 サーモクに追いかけられた際、エリンは馬車の速度をあげようと、野盗たちを繋いでいたロープを切り捨てた。哀れな男たちは、デビルウルフの(にえ)にされたように見えたのだったが。


「逃がしたっす」

「馬鹿じゃないの!?」

「今すぐ捕まえてこい!」

「かしこまり~!」


 サーモクが外へ出て、デビルウルフたちに指示を出した。

 (じき)にお金の種、ゲフンゲフン…………犯罪者たちと一緒に戻ってくるだろう。


(これも全て市民の平和のため。別にお金が欲しいなんて思ってないんだからねっ)




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