42. 独善的な少年
〇前回のまとめ
・ゴブリンの集団から逃れ、安全地帯にまで飛んできた。
・ダーシャが気絶している間に即席露天風呂を堪能した。
・浴室の外に、お呼びでない来訪者がいた。
話は少し前に遡る。
「もうやめるでやんす。エリンさんにも嫌われるでやんすよ」
「こーゆーの、ストーカーっていうんだよー」
「うるさいっ。イヤならお前らだけ帰れ! 俺はひとりでもアイツらを守る!!」
【暗闇の森】のなかで、少年ハンター3人は密かに進んでいた。
先頭を行く少年の視線の先には、談笑しながら道を歩く2人の少女の姿がある。
3人の少年はそれぞれネストル、スタース、エフィム。
ノーマルランクのハンターチーム『BB団』のメンバーである。
この少年たちは、北方の民族であるウルトス族だ。2年ほど前に都会でビッグになるべく村を出てきた。
3人とも大柄でヒグマみたいな容姿をしているため、初見では兄弟かと間違われることもしばしばだが、それはウルトス族の特徴だ。
彼らはフェヘールシティという街の寮で生活しているが、最近新メンバーがやってきた。
彼女は17歳と言っていたが、ハンターになってたったの1月しか経っていないらしい。まだノーマルランクに上がったばかりだろう。
そんな彼女が、今日は寮の友人の誘いでモンスター退治に行くとか。
ビギナーランクではモンスター退治の依頼は禁止されているため、ノーマルランクになって間もない彼女はその経験が無いバズだ。
彼女の友人だってモンスター退治なんかやったこともないクセに、ゴブリンは初心者でも簡単に倒せると舐め腐っている。
(危険だ)
ネストルという少年は彼女たちの予定を聞いて、そう考えていた。
確かにゴブリンは初心者向けであるが、それは3対1なら容易に倒せるレベルということである。まともに戦闘の訓練すらやったことのない素人だと、重傷を負わされて命からがら戻ってくることだってあり得る。
それに、奴らは集団で人間を襲ってくることだってある。
そんなモンスターに、少女2人で太刀打ちできるとは到底思えない。
そこでネストルは自分が同行しようと申し出たのだが、新人にあっさり断られてしまった。
こうなったらこっそり後からついていき、ピンチの時には助太刀してやろう。彼はそう思い至って仲間にも提案してみた。
ところが、ネストルの2人の仲間は彼の提案に消極的だった。
スタースはまともに女の子と話したこともなく、ちょっと近くに行くことすら躊躇うほどのシャイボーイだ。
もう1人のエフィムの方は、「超」が付くほどの怠け者。基本的に何を誘ってもめんどくさがるミスターサボタージュ。
だがなんやかんや言っても、この2人はいつもネストルに付いてきた。今日だって、ネストルが少女たちをこっそり護衛すると聞いて同行している。
自分たちは一心同体。ネストルはそう考えていた。
実際には家庭の事情とか村のしがらみとかがあったりするのだが、独善的なネストルは、仲間たちが自分を慕っていると思い込んでいる。
「早速出てきたな。危なくなったら行くぞ」
「ほーい」
「はぁ。分かったでやんす」
少女の1人は、離れたところにいるゴブリンに矢を放っている。
もう1人の銀髪は、その横でただ突っ立っているだけだ。
「……にしてもダーシャのヤツ、下手すぎじゃねぇか?」
「あれは酷いねー」
「エリンは何してるでやんすか?」
茶髪の少女は夢中でゴブリン相手に矢の練習をしている。
そのせいか、近づきつつある脅威に気付けていない。
「…………ちょっとヤバくない?」
さすがにこのままだと2人が窮地に陥ると悟ったエフィム。
すると、すかさずネストルは立ち上がる。
「……おい、行くぞ。準備はいいか?」
「ちょっと待ってほしいでやんす」
「早くしろっ!」
前方では、少女たちに向かってゴブリンが武器を振りかざそうとしている。
「くそっ。何やってんだ!」
少年はそれぞれ武器を手に、草陰から飛び出そうとした。
ところが、3人の少年の意識はそこで途絶えた。
♦
気が付くと、3人は茂みの中で倒れていた。
「あれ、俺は…………。寝てたのか。睡眠薬でも流れてきたんじゃねーの?」
まだ茂みから出ていなかったから、幸いにも命拾いした。もし飛び出した後に意識を失っていたら、自分たちがゴブリンたちの餌食になっていただろう。
「……エフィム、スタース。おい、起きろ」
「あん?」
「ネストル、おはようでやんす……」
周囲の状況を確認してみると、すでに2人の少女もゴブリンの姿もなかった。
血痕はないが、地面が湿っている。心なしか、異臭が漂っている気がする。ゴブリンどもの体臭だろうか。
その傍にはダーシャのものらしき弓矢が落ちていた。2人はここから逃げたものと思われる。
「 ……あの2人はどこ行ったでやんすか?」
「ゴブリンに連れてかれたとか?」
エフィムの言葉に、ネストルの表情が深刻な物になる。
「行くぞ。アイツらを助けないと……!」
言って、ネストルは駆け出した。2人の仲間たちも後に続く。
『BB団』の3人が森をさらに奥へ奥へと進むと、見渡しの良い丘に出た。
そこには氷で覆われた大きな物体がある。
「なんなんでやんすか、アレは?」
「おっきい氷みたいだねー」
エフィムたちは怪訝な顔をしているが、好奇心に負けたネストルは歩き出した。
「ネストル!?」
「危ないでやんす。戻ってくるやんすー!」
「なーに、ちょっと見てみるだけだって。お前らも行ってみようぜ!」
仲間の制止を無視し、ネストルは丘を駆けあがった。
そして、目の前にある物体を見上げた。
「何なんだ、コレは……?」
魔法使いなら氷を出せなくもないだろう。だが、こんなに大きな氷を出して、しかもそれを維持できるほどの実力者がこんな初心者向けの魔境に来ることはない。
ネストルが厚い氷に耳を近づけると、中から少女の声が聞こえてきた。
「ね、……も……に、いろ」
「いや無理……。それ、……たし」
「え、…………ない」
声の主は、ネストルも知っている人のものだった。
「中に閉じ込められているのか!? 待ってろ。今出してやる!」
「ちょっ、何してるでやんすか、ネストル!?」
反射的にネストルは持っていた剣で、氷の壁を叩き始めた。
ゆっくりを彼の後を追っていた仲間たちが、ネストルの凶行を見て仰天する。
「なんかやかましいなぁ」
空の方から間延びした声が聞こえ、ネストルは顔を上げた。
「「あ」」
ネストルの目には、地上に舞い降りた天使の姿が写っていた。
そして、ネストルの中の何かが壊れた。




