41. 寮Ⅳ
〇前回のまとめ
・寮で出会った少女・ダーシャとともにゴブリン討伐に行くことになった。
・ダーシャはアーチャーだが、命中率が著しく低かった。
・いつの間にかゴブリンの群れに囲まれていたので、ダーシャを抱えてスケボーに飛び乗った。
ゴブリンが集まっていた地点から離れた小高い丘に、周囲にはモンスターの気配がないことを確認して着陸した。ここなら、半径1キロメートル(推定)にいる動物の存在を知らせるエリンセンサーは反応していない。
「ダーシャ、もう大丈夫だよ」
「う~ん」
「お~い、ダーシャ~?」
「うぅ…………」
ダーシャはすっかり伸びてしまっている。高所恐怖症なのかな。
気絶していても、エリンの腰に回された手はがっちりと固定してある。
「……ま、丁度いっか」
エリンは今のうちにと、離したダーシャを地面に寝かせる。そして、再び自分たちの周囲を氷の壁で囲って、4畳くらいの部屋を作った。
即席の部屋の中で、エリンはバッグからフェケテシティで購入しておいたドラム缶のような物を取り出して、その中に魔法でお湯を溜めた。
「ダーシャ、寝てるよね?」
「ZZZ……」
「…………よし」
ダーシャがまだ起きていないことを確認し、エリンは一糸纏わぬ姿になる。
そして、ドラム缶のような物の中に身を投じた。
「あ゛~。きもぢい~」
お湯に包み込まれ、全身がとろけるように感じる。チーズにでもなった気分だ。ただ、脚を伸ばせないのが難点。
ゴブリン頻出エリアのど真ん中だというのに、エリンはのんびり露天風呂を満喫した。
毎日入浴することが一般的でないため、なかなかお風呂にお目にかかれることはない。
ならば自分で用意してしまえばいいとの発想の下、エリンはこのドラム缶もとい、携帯用のバスタブを購入した。お湯なら自分で出せるから問題ない。魔法ってホント便利。そのうち石鹸とか作りたい。
さすがに寮にある部屋での入浴は躊躇われたんだよ。湿度がエライことになっちゃうし。
ついでにバケツサイズの桶を、湯船につかったまま取り出す。そして、念力と水魔法を駆使して、エリンは自分の衣類を洗濯した。
熱湯で洗えば洗剤などなくても皮脂汚れは落ちるらしい。それに、風魔法で乾燥させれば、お風呂からあがってすぐに着ることができる。
風魔法はドライヤーとしても使えるので、お風呂には必携だ。あと、ちゃんとタオルも買ってある。それもハンターバッグの中に入っていた。
「い~い湯っだーな♪」
長閑な森に、音程の外れた奇妙な歌が響いた。
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「ダーシャ~、起きて~」
「むぅ~。金貨、銀貨、ザックザク」
「ダメだこりゃ」
エリンが入浴を済ませても、ダーシャはまだ起きない。
仕方がないので冷水を顔にかける。
「うわあっ! え? 何?」
「やっと起きたよ」
「え、エリン……?」
「うん。もう大丈夫だよ」
ようやく目覚めたダーシャは、まだ混乱している様子だ。
取り敢えず、今はゴブリンの脅威は去ったことを伝えて安心させる。
「あ、そう。それならよかったわ。ゴブリンに穢されたと思ったけど、あれは夢だったのね」
(いや、君はたしかに汚されたよ)
ダーシャは一息ついたと思うと、エリンの顔をまじまじと見つめた。
「じぃ…………」
「え、何? どしたの?」
「……エリン、アナタって可愛い顔してるのね」
「はい?」
この時のエリンは湯上りということもあってゴーグルを外していた。
自分の部屋で寝る時以外は付けっぱなしだったため、これまでダーシャたちがエリンの素顔を見る機会はなかったのだ。
「そんなに可愛いのに、どうしていつも顔を隠してるの?」
「あー、それね。何かあれを付けてると安心するというか……」
時折年中マスクを着けているマスク依存症の人がいるが、エリンもゴーグル依存症気味になっていた。恐らく、パーヴェル一行との旅が原因。
なんかね、ゴーグル付けないと不安になっちゃうんよ。
「それよりも、なんか綺麗になってない? 気のせいかしら」
「お風呂に入ったからじゃない」
「お、お風呂!?」
そこで初めて、ダーシャはエリンの背後にあるドラム缶の存在に気付いた。
意識を取り戻してからというもの、エリンの容貌に目を奪われ、他のことにまで気が回らなかったのだ。
「ダーシャも入れば?」
「え、いいの?」
「もちろん。その間に服洗っとくよ……って、おわっ」
エリンが言い終わるや否や、ダーシャは服を脱ぎ捨てて湯船に飛び込んだ。
「わ~、すご~い。お風呂だ~!」
「タオル置いとくね」
エリンは地面を見つめながら、タオルをバスタブにかけた。ジロジロ見るのは彼女に悪い気がする。(エリンよりは幾分マシとはいえ、貧相な体なんか見ても感じるものは何もないが)
そして、地面に投げ散らかされたダーシャの服を拾う。せっかく体を綺麗にしたのに、また汚れた服を着ろというのも酷だ。彼女があがるまでに洗っておこう。
「ね、エリンも一緒に入ろ」
「いや、無理だから。それにもう入ったし」
「えー。いいじゃない」
このバスタブは1人用だ。小さい子供なら入れるかもしれないが、ティーンエイジャー2人はさすがにきつい。
ぎゅうぎゅう詰めになって、リラックスするどころではなくなる。
「私、外で洗濯しとくね」
その場から逃れる口実をもうけ、スケボーに乗って壁を越えた。
外から物音が聞こえるし、モンスターが近づいていれば、早めに対処する必要があるかもしれない。
「なんかやかましいなぁ」
エリンは氷壁の上に降り、周囲を見下ろした。
「「あ」」




