↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/110

30. 変態貴族に注意

〇前回のまとめ

・ビッチ爺さんから魔法の改善策を教えてもらった。

・いつぞやのナンパ野郎に絡まれた。

・ギルドにいた人たちが寄ってたかってナンパ野郎を撃退した。

 エリンはノーマルランクになった。


 まあ、ビギナーランク自体はハンターのチュートリアルのようなものであるから、依頼を2,3クリアするだけで簡単にランクアップできる。

 それでも、天引き率が9割と6割では雲泥の差であろう。


 そして、この日は久々のシュトゥルーツ(ダチョウ)狩りに来ていた。今回は2頭分の皮革収集である。

 図体がかなり大きいシュトゥルーツは、1頭だけでも十分すぎるほどの素材が手に入る。報酬のおまけに食料もゲットできて、まさに一石二鳥だ。


 緑ハンターことクロフォードが旅立って以来、久々の戦闘である。

 この依頼を見つけるまでは、ネヴィルやその仲間からの依頼でずっと麻雀牌を作ってばかりいた。そのせいで街の外に出ることもなかった。

 しかも、原材料費はこちらの負担だった。その結果、報酬としてエリンの手元に残ったお金は、雀の涙どころかむしろマイナスだった。


 ギルドを通さなければ、利益を上げることもできたのは事実である。

 ただ、そのおかげでランクアップができた。長い目で見れば必要な犠牲であったといえよう。




【紫翠の丘】に入って早々、パンチラビットを発見した。

 早速ビッチ爺さんのアドバイスを試すべく、魔法を発動させる。


「そいっ! 〈ファイヤーーー〉!!」


 使うのは火の魔法。具体的な描写は避けるが、エリンが想像しているのは炮烙(ほうらく)の刑。

 火の柱でジワジワと熱を加え、こんがりと焼きあげていく。


 草原を散歩しているところに突然空から炎を落とされたパンチラビットは、一瞬パニックになる。だが、すぐに火が及ばないところを見つけ出し、そこへ飛び込んだ。

 そして、そそくさと走り去っていった。


「う~ん、まだダメか~」


 殺生とは無縁の世界にいたせいもあってか、どうも具体的なイメージが起こらない。

 もっとバトルものの漫画とかアニメを見ておくべきだったと、ちょこっと後悔。


(きっと私が心優しいせいなんだろうな。うん、そうに違いない)


 などという事実とはかけ離れた結論を導き出し、ターゲットを切り替える。

 丁度いいところに、今日の獲物の影が見える。エリンはスケボーを飛ばし、ソイツの頭上へ移動した。


「御用だ御用! 神妙にせいっ!」

ブフォッ!?


 いきなり声だけが聞こえて、その主は見当たらない。

 この辺りにいる生き物で、シュトゥルーツより大きいものはいない。また、鳥のように、空を飛ぶ生き物も生息していない。柔らかい首を回せば後ろまで見渡せるシュトゥルーツにとって、上空からの襲撃者がくるなど、想定外の事態であった。

 だから、エリンがハンターバッグから剣を落としても反応に遅れた。


「とりゃあぁぁぁぁぁ!!」


 刃はシュトゥルーツに突き刺さった。

 エリンが手にしている剣は、鍛冶屋のシャートフが作成したものである。先日のお礼を受け取りに行くと、店の中から好きなものを選ばしてくれた(実際には、ネヴィルと同じ様な目に遭っていた)。

 もちろんタダだよ。何てったって“お礼”なんだから。


 もっとも、如何せん小柄なエリンに重量のある剣を使いこなすだけの筋力が備わっているはずもない。

 そこで、シュトゥルーツの真上でバッグから剣を取り出し、下へ落とした。

 素手では剣を引き抜くのも難しいので、念力で回収する。


「コレ重たいなぁ。やっぱりもっと軽いのにしておくんだった」


 念力でなら持ち上げられないこともないが、スケボーみたいに自在に操ることは難しい。刃物にビビってしまっているせいだろうか。


 シャートフの店でエリンが何となくこの剣に触れた時に、シャートフは「それだけはっ!」と動揺した。それがこの剣を選んだ理由である。


 エリンが「シャートフとかいう鍛冶屋が子爵様の悪口言ってたって報告しないとね」と呟いたがために、シャートフは泣く泣く秘蔵の剣を譲渡させられることになったのである。


 この剣を売ったら金貨がたくさん手に入るのだが、エリンは当然そんなことを存じ上げていない。せいぜい数万円くらいの価値だろうと考えていた。

 猫に小判、豚に真珠とはまさにこのこと。


 倒したシュトゥルーツを回収し、エリンは次の獲物を探す。

 2頭目も、前回と同様に足元を凍らせて、身動きが取れなくなったところを貫いた。


 ちょっと残酷かもしれないが、生きるためには仕方ない。

 叙〇苑の焼き肉だって、元をたどれば牛を殺している人間がいるんだ。

 普段人々はバラバラにされた動物の肉片を喜んで口の中に放るにもかかわらず、動物愛護とか生命尊厳とか、クジラを守れ等々、滑稽なことを平気で言ってのける。

 綱吉様もビックリだね。


 …………一部の人間を除いて、すべての動物を嫌悪するエリンならではの持論である。

 はじめてクロフォードの解体現場を見た時は吐きそうになっていたくせに、なれてしまえば調子のよいものである。




 結局、シュトゥルーツは2頭とも剣で倒した。

 エリンの魔法は、バリエーションこそ豊富かもしれないが、いまいちインパクトに欠ける。敵に致命傷を与えるためには、物理的に攻撃しなきゃいけない。

 氷漬けにすることもできなくはないが、シュトゥルーツの巨体をすべて固めるのには時間がかかるし、何より無駄に疲れるので遠慮したいところだ。

 足元だけ狙って氷を放ち、あとは頭をちょんちょんってやる方が手っ取り早い。


 氷漬けにした場合には、シュトゥルーツの皮革が損傷する恐れもある。だが仮にそうなったとしても、提出物への評価が下がるだけで報酬に影響するほどではない。

 エリンの知ったこっちゃないのだ。


 作業も終わったので、もう用はないとばかりにさっさと帰ることにする。

 これも、サラリーマン時代に染み付いた性質の名残だろうか。




   ♦




「ん?」


 エリンがスケボーで空を走っていると、付近に馬車があるのを目撃した。

 ただそれだけならば、特に気をとられることもなく通り抜けただろう。だが、この時ばかりは事情が違った。


 その馬車はモンスターの群れに囲まれている。

 あれは確か、コボルトと言っただろうか。シデラを助けるために入った【鮮緑の山】でも目撃したことがある。

 コボルトは大型犬のような姿をしている。


 エリンが最も恐れをなす動物、それが犬だ。できれば近寄りたくない。


(でも、窮地にある人を見捨てることなんてできないじゃないか!)


 本心は、その馬車が豪華に見えたことから中にいるのは恐らく貴族と思われ、助けたらそれなりにお礼がもらえるに違いない、という打算が働いたからだったりする。


 成り行きで男爵家の次男坊・シデラを助けた時は、かなりお礼をもらった。

 あれは、オルティス男爵が特別と言えるほど良心的であったためなのだが、エリンにとっては彼が基準となっている。

 実際には、大抵の貴族なんて欲望の権化みたいなものだ。


 ただ、お金のことばかり考えていたエリンは、そんなことにまで頭が回らなかった。


(う~ん、できれば犬には近づきたくないんだよねぇ)


 エリンが犬に触るよりも、世界中の紛争を解決させる方が容易いもの。それほどエリンの動物恐怖症は深刻だった。


(…………お、そうだ! ここから地面を焼き上げればいいじゃん。ドーナツみたいにすれば、馬車は平気っしょ)


「ファイヤー」


 エリンが魔法を発動させると、地面に向かって炎の柱が下りていった。

 いきなり周囲に炎が起こったため、コボルトたちは仰天して逃げ去っていく。御者は、寝起きに水をかけられたような顔をした。


「大丈夫ですか?」

「なっ!?」


 そんなところへ空から女の子が降りてきたもんだから、もう一度驚かされた。


「い、今のは君がやったのか……?」

「ええ、そうですよ」


 彼は状況を理解するので精一杯って感じだ。

 その御者の思うところは他にもあったのだが、それに気付けというのは酷と言えよう。


「おお! 見事、見事」


 中に乗っていた貴族が、馬車の窓から顔を覗かせてきた。

 晩年の今川義元ってこんな感じだったんだろうなと思わせる、白豚のようなおっさんだ。


 白ぶ……おっさんは、ゴーグルを外したエリンの姿を見て目を丸くする。


「ほう。かわゆいオナゴじゃのぉ。ホレ、中へ来ぬか。麿と楽しく話すでおじゃる」

(おおっ! すぐにお礼の話とは、なんて気前の良い人なんだろう)


 貴族の言葉を受けて、表情を殺した御者がエリンを馬車へ迎え入れようとする。エリンも言われるがままに豚野郎の元へ向かいかけるが、ふと思い出した。


 エリンは今、依頼の実行中である。その提出期限は当日以内。

 もし今日中に達成の報告に行かなければ報酬が出ず、むしろ違約金を要求されることもある。

 最悪の場合、正規報酬の3倍を支払わなければいけないこともあるとか。エリンだってちゃんと学習しているのだ。


「ほれ、何をしておる? 早く来ぬか」

「いやー、行きたいのはやまやまですが、ちょっと用事がありまして……」

「何じゃ? 麿より大事な用事かの? そんなことより麿と話す方が楽しいでおじゃるよ」

「あー、でも今日の成果をギルドに持っていかなきゃいけないんですよね」


 ギルドを持ち出され、貴族が渋い顔をする。ギルドと言えば貴族も引き下がるというのは本当みたい――


「ムムム……。うるしゃい! 麿は貴族なんじゃ。ギルドなんかより偉いんじゃー!!」


 なんて思ってたら、白豚貴族がエリンの手首をつかんできた。そのまま馬車の中へ引きづりこもうとする。不用意に接近したのが仇となった。

 助けを求めようと御者を振り返るも、気まずそうに顔を背けていた。主人には逆らえないのか、日常茶飯事なのか。恐らくその両方か。


 このままいけばどうなるか。 

 全身を白豚にペタペタ触られたり、レロレロと嘗め回されたりするのだろうか。


「ファ、〈ファイヤー〉!!!」


 不潔な未来を想像してしまった時、エリンは叫び出していた。


ゴオオオオオオオッ

「おじゃああああーーーーー!!!」


 エリンが炎の魔法を発動させると、美しい草原に似つかぬ白豚貴族の絶叫が響き渡った。


「……………………え?」


 エリンは恐る恐る目を開けて、何が起こったのを確認してみる。


「あっ!?」


 見ると、目の前にあったハズの馬車は跡形もなくなり、こんがりと焼き上がった白豚が倒れていた。

 華美な服だけでなく頭髪までも燃え尽きてしまったが、本体だけは無事なようだ。


「ご、ごめんなさーい!!」


 逃げよう。

 咄嗟にそう判断したエリンは、スケボーを加速させて【紫翠の丘】から飛び去った。


 なお、御者は難から逃れることに成功し、逃亡するエリンの背に向かって合掌していた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。