27. 命落とすぞスピード落とせ
〇前回のまとめ
・『アドベンチャーズ』の暗号を解読した。
・クロフォードも出立することになり、本日の依頼ができなくなった。
・キャンセル料をきっちり取られた。
折角苦労して採取依頼を達成したのに、報酬の大半を天引きされ、僅かな残りすら掻っ攫われてしまった。
しかし、それでもエリンはへこたれなかった。
理不尽な会社に搾取されることくらい、前世でたっぷり経験してきたんだ。自分からむしり取ろうとするのが、会社かギルドかという程度の違いさ。
意地でも危険なモンスター関係の依頼をこなし、少しでも多く稼ぎたい。そのためには、安全を確保できなきゃいけない。
念力を自分自身にかけ、空中浮遊をすることで敵から逃げることも考えた。だが生憎、自分を念力の対象とすることはできないと分かって終わった。
エリンは、ギルドからしばらく歩いたところにある建物を訪れた。外にかけられている看板には、『ネヴィルの工房』と書かれている。
「すみませ~ん。ここに腕の良い職人さんがいるって聞いてきたんですけど~」
………………………………。
返事はない。人はいる。
明らかに目と目が合っていはずなのだが、その目はエリンを見ていない。
「あのぉ……」
「うぉおいっ! 何でい!?」
エリンが生きた“考える人”の像の肩に触れると、それは急に動き出した。
「えっと、ネヴィルさんですか?」
そのおっちゃんはジロリとエリンを見る。
彼もまた、頭部がフローリングになっている。ただ、ヴェインみたいに日に焼けてはいない。そのせいで尚更光り輝いている。
「…………そうだが」
このネヴィルというおじさんは、ハンター御用達の道具職人なんだとか。
今までにもハンターの要望に応じて、様々なアイテムを作り出してきたんだって。
腕は確からしいのだが、仕事を受けるかどうかは気分次第だとかで、扱いが面倒くさい。他にもワケありらしく、多くのハンターたちから敬遠されている。
ただ、エリンはそんなことを知らない。
「フン、ビギナーじゃないか。ここはお前さんが来るには早いよ。他を当たってくれ」
「え~、できればこちらを見ていただきたいのですが……」
言って、エリンは1通の手紙を差し出す。それはレッセーからの紹介状だ。暗号解読のお礼としてもらっていた。
ネヴィルは最初こそ疲れたような顔で手紙に目を通していたが、読み進める内に目を見開いてきた。
「ほう。お前さん、なかなか面白いみたいじゃないか」
「え……? 一体何が書かれてたんですか?」
「フッ、気にするな。秘密にしてくれだとよ」
(ものすごく気になるんですけど。変なこと書かれているとしか思えない)
「まあいい。お前さん、どんなものがほしいんだ?」
ここでは武器や防具は取り扱っていない。ハンターが自分のスタイルに合わせた探検を行うために必要としている物を、オーダーメイドで作っている。
ここに来るまでに既製品の店を回ったが、エリンが目的としているものがなかったため、この工房にやってきたというわけだ。
「それはですね~」
エリンは自分が望む物について説明する。
「フムフム、そんな物を頼んでくるハンターなど今までいなかった。確かにお前さんは面白いみたいだな」
「それで、できそうですかね?」
「フン、俺を誰だと思っている。俺に作れないものなど何もない」
「ワー、ソレハタノモシイ」
凄腕の職人を認められるだけあって、プライドが高いようだ。
「じゃあ、おいくらになりそうですか?」
日本だと、1万円もあれば十分に良いものが買えたはず。
オーダーメイドになることを考慮しても、銀貨数枚で足りるだろう。
「うん。30万フォートかな」
「………………」
どうやら高いのはプライドだけじゃなかった。
「たかが木を削る程度なのに、なんでそんなにするんですか」
「いやならいいんだぞ。俺は作らなくても」
うわー、露骨に足元見てきやがった。
そうか。エリンがちょっとお高めの装備を身に着けているから、コイツはお金持ってそうだと判断したのか。
「そうですね。他を当たってみます」
別に無理してお願いする必要はない。頑張ればエリン自身でも作れないことはないはずだ。
「わっ、わっ、わっ! ま、待ってくれー!!」
エリンが店を出ようとすると、ネヴィルが腰にしがみついてきた。
キャー変態!
「なんですか。早く離れてください、気持ち悪いんで」
「うぎゃっ」
エリンが変態オヤジの手を振り払うと、ネヴィルは床に倒れこんだ。
その目には涙がにじんでいる。
「お、俺が悪かった。頼む! その仕事をやらせてくれ!」
エリンは、ネヴィルの態度が急変したことを訝しむ。
「いやいや、ぼったくろうとしておいて何言ってるんですか」
お金のことに神経質になっているエリンをカモだと勘違いしたのが、ネヴィルの運の尽きだった。
ぼったくりの上に痴漢。エリンにとって、彼は紛れもない犯罪者になっていた。
「安くするからさぁ~」
職人オーラはどこへやら、ネヴィルはすっかり威厳を失っていた。
それでも、「安くする」という言葉はエリンに響いた。
「そうですね。値段次第では考え直しましょう」
「20万フォート!」
「ふざけんなっ」
「論外」と言い去って、その場を後にしようとした。しかし、またもや変態がエリンのおみ足にしがみついてくる。
もう通報した方がいいんじゃね? その方が世界は平和になる。
「お、お願いだー! もう一度俺にチャンスを!」
理由は知らないが、ものすごく必死になっている。
「このままじゃ……、店もやってけなくなるんだ……」
「なんでそんなにお金が欲しいんですか?」
「うぐっ! それは、その~…………」
エリンに問われ、ネヴィルは挙動不審になる。
怪しい。
「…………最近、サイコロにはまっちゃって、その~」
「…………………………」
どうやらギャンブルで借金まみれらしい。
かなりワケありのおじさんだった。
「バッカじゃないのぉ!?」
♦
「ヒャッホゥー!!」
エリンは今、フェケテシティ近郊の街道を、ものすごいスピードで突き抜けていた。
その足元には、細長い木の板がある。ネヴィルに作らせたスケートボードである。
ただしウィールはなく、デッキだけしかない。
ウィール、車輪はたしかポリウレタンで作られるものだったが、当然この世界にそんな代物はない。
念力で操って地面から浮かせ、その上に乗っかっている状態だ。
これでお値段なんと30,000フォート。
「え? そんな物に3万円も払ったの?」と思ったそこのアナタ。正しい感想です。
最初にその10倍もふっ掛けられていただけに、エリンの感覚がマヒしていたのだろう。ドアインザフェイスとかいう心理学に、まんまと引っかかりました。
それでもエリンが頼んだ翌々日の朝には立派なスケボーが完成していたから、職人としての腕は確かなものだといえよう。
「イェェェェェイ!!!」
スピードはスキーと同じくらいだろうか。顔いっぱいに風を受けて、まともに目を開けていられない。
エリンは、加速の爽快感と、今日の目的地である【紫翠の丘】で食べるつもりのシュトゥルーツの焼き肉への期待とで胸が躍っていた。
単身ではあるが、まさに暴走族だった。
そんな危なっかしい走行をしていたら、道の角を曲がったところで通行人が飛び出してきた。
「うわっ!?」
「ぎゃー!!」
体格の良い男性の背にぶつかり、エリンは宙に投げ出される。ボードと共に地面に転がった。
「いってー。ったくよぉ、何なんだよぉ……」
「あ~、ごめんなさ~い」
「あ、お前は!?」
腰をさする被害者が、エリンが誰だか分かって目を見開いた。
「あ、アナタは!? …………誰でしたっけ?」
見たことあるような、ないような。
すっとぼけたエリンの反応に、ジ〇イアンみたいなおっさんが喚いている。
「ふ、ふざけんなっ! 俺はキーヴァだ!! 覚えとけっ!」
「木場さん?」
「キーヴァだ! このあいだ、大勢の前で俺のことバカにしやがっただろ!! 忘れたのか!?」
「ん? あー、はいはい。そんなこともありましたね」
彼はエリンがバドラーと戦った翌日、カヴェーでナンパしてきたアル中だ。
木場というらしい。日本人みたいな名前だ。ちょっと親近感……は無いな。
典型的ないじめっ子のような方と、分かり合えるとは思えない。
「調子に乗りやがって! お前今から……って、おい!?」
「ほな、さいなら~」
うるさいおじさんの相手なんかやっていられない。
逃げるが勝ちだ。
回収したスケボーに飛び乗り、その場を後にする。
(やっぱりスピード出し過ぎるのは危ないな。下手したら死亡事故だよ)
当たり前である。歩行者天国にオートバイが猛スピードで突っ込んでいくようなものだ。
アクセルとブレーキを踏み間違えました。そんな言い訳は通用しない。一歩間違えれば大惨事。今回の被害者がたまたまキーヴァという頑丈な人物だったから、大した怪我人が出ずに済んだのだ。
そこで、通行人と接触しないように、人の身長より高い位置を進行することにした。
高すぎると、今度は遠くからでも気付かれ、悪目立ちする恐れが出てくる。そういうのは、顔をちぎって子供たちに分け与えるヒーローがやることだ。
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