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24. 思わぬ落とし穴

〇前回のまとめ

・【紫水の丘】でクロフォードと共にモンスター狩り。

・今回のターゲットであるシュトゥルーツというモンスターが現れた。

・クロフォードから回復魔法を教わった。


 採取依頼を達成した場合は、ギルドの隣にある別館の方へ持ち込み、それが条件に合ったものかを担当者に確認してもらう。

 そして、提出物に不備がなければ証明書を発行してもらい、それを本館の受付に渡して報奨金を受け取れば依頼完了となる。(小規模のギルドであれば、受付で直接提出することもあるとか)

 中立機関であるギルドが介在することで、依頼者がハンターの提出物にケチをつけて報奨金の支払金を渋るというなどのトラブルが起こるのを防ぐためだという。


「ほう、これはまた上物じゃないか。これなら依頼主も大満足だろうよ」


 エリンたちは、その担当者であるおっちゃんに、シュトゥルーツの皮革を鑑定してもらっていた。

 きっとこのシュトゥルーツの皮革は、貴族向けのバッグなどに変身するのだろう。オーストリッチは地球でも高級品だったし。


「これだけ綺麗な状態で持ってくる奴なんざぁ滅多にいねぇ。これはお嬢ちゃんがやったのかい?」

「いえいえ、ほとんどクロフォードさんですよ」


 ほとんどというか、クロフォードが倒したのは最初の1頭だけである。

 エリンはその後に2頭、自分の知恵と勇気を振り絞って打ち勝つことに成功した。


 最後の一頭は、土魔法で作った落とし穴に落ちて動けなくなったところを、念力で操ったナイフを何度もチクリとやった。

 ちょっと凍らせただけだとすぐに逃げ出すもんだから、新しい方法を考えることになった。


 まあ、解体の方は結局全部クロフォードがやったのだが。そういった意味では「ほとんど」という言い方もあながち間違いではない。

 最後の最後までビビって触れなかったのは、2人だけの秘密である。


「そりゃそうか。新米のひよっこがこんなカンペキな仕事できるわけねえや。アンタも先輩なら、もうちっとお嬢ちゃんの練習になるようにしとかねぇと」

「いや~、私なんてパンチラビット躱すのがせいぜいですよ」

「ハッハッハッ。それもそうか」


 何か言いたげなクロフォードに発言させまいと、適当に返事をしておく。


「でも皆さんこんなもんじゃないんですか?」

「そんなこたぁねぇよ。雑魚連中なんかは倒すときに体中にバンバン攻撃当てっから、ボロボロになったのを持ってきやがるんだ」

「あ~納得です」

「そこの先輩の腕がいいからこんなんなってんだ。コイツを基準にすると、お嬢ちゃんも後が辛いぜ」

「ソウデスネ。気を付けます」


 新米にアドバイスをして、おっちゃんは紙にペンを走らせた。


「ほれ、合格だ。早く受付まで持ってきな。これからも腐らずに頑張れよ!」

「はい。ありがとうございます」


 受け取った証明書には「S」と大きく書かれていた。

 評価は合格の場合は「S・A・B・C」の4段階で、不合格だと「×」となっている。評価の差でもらえる報奨金も変動し、ランクアップにも関わってくるのだとか。


「…………なんで?」


 別館の建物を出ると、クロフォードがエリンに問いかけてきた。自分がやったと言わなかったことが気にかかったらしい。


「えっと、それはアレです。能ある鷹は爪を隠すというヤツですよ」


 本心は、ぽっと出の新人に過ぎない自分が、変に目を付けられたくないというところにある。あとは、下手に賞賛されたり注目されたりすることを嫌がるエリンの性格のせいだろう。

 罵倒なら慣れております。マゾヒストではございません、決して。……多分? いや、ひょっとしたら……。




 夕焼けに紅く染められた本館に移動し、受付に並ぶ。今日はそこそこハンターたちが列を作っており、銀行みたいに番号札なんかあればいいのになと思う。

 今回の担当の受付嬢は、エリンがハンター登録した時にも担当したイリーナだ。


「えっと、依頼をやってきたんですけど……。あ、コレ証明書です」

「はい、確認しました。報奨金を用意するのでしばらくお待ちください」


 受付嬢が作業をする間、そのまま立ちっぱなしで待っているというのも銀行と違うところだ。銀行と言うよりは駅の窓口のスタイルに近い。受付から離れた途端、次のハンターが追しかけてくるんだろう。


(この上の方に緑色の旗とか付ければ、それっぽくなりそうなのに…………)


 そんなことを考えている内に、イリーナが戻ってくる。


「はい、こちらが今回の依頼達成の報奨金になります。依頼報酬が30,000フォート、――」

(よし、これで貯えが増える! カーラさんにお土産でも買って行こうかな)

「――受注者であるエリンさんがビギナーランクということですので、今回は3,000フォートとなります」

「……………………はい?」


 出された銀色の貨幣3枚を見て、エリンは思わず顔を引きつらせた。

 イリーナはきょとんと首をかしげる。


「…………今、何と?」

「ですから、3,000フォートです」


 新手の詐欺かな?

 そうか、これが噂の新人への嫌がらせというものか。いやいやいや。


「依頼には30,000フォートとあったハズですが……」

「だってエリンさんはビギナーランクじゃないですか」


 込み入っている時間帯のためか、イリーナはやや苛ついた口調になってきた。

 そこへクロフォードが割って入る。


「…………もしかして、報奨金のシステム聞いてない?」

「は? 何ですか、ソレ?」


 エリンは当然掲示されていた張り紙の通りに報奨金が貰えると思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 クロフォードと顔を見合わせるエリンに、イリーナが嘲笑うかの如く(実際には疲れ気味なだけだが、エリンにはそう感じ取れた)言ってきた。


「ハンターのランクに応じてギルドが手数料を徴収する。こんなの子供でも知ってる常識じゃないですか」

(何ですか、ソレ?)

「ビギナーランクは9割、ノーマルランクからは6割、5割となっていくんですよ。ダイヤモンドランクは5パーセントになりますけど」


 アナタには関係ない話ですけどね、とイリーナは続ける。

 それを聞いて、エリンは呆然と立ちすくんだ。


(どこの芸人事務所だよぉぉぉぉぉぉぉ!)


 まだ吉本興業の方がまだ良心的に思える。あそこは若手にも舞台での機会を与えてくれるというし。

 残念ながら、ここでは日本の民法は適用されない。そもそも、きちんとした法典が整備されているかどうかすら怪しいところだ。


「…………き、聞いてませんよ、そんなの」

「アレ、そうでしたっけ? でも常識ですよ、これくらい」

(自分の常識が世界の全てで通用すると思うなよ!! 7の段とか言えなさそうな顔しやがって!)


 日給3万円だと思っていたのが、実際には3千円。

 依頼のために活動したのが、エリンの体感で6時間ほどであるから、時給500円である。前世で1日17時間労働まで経験したことがあるが、その時ですら時給に換算すると600円に届かない程度だ。


 それほど大差はない気がする。むしろ物価が違うこともあり、必ずしも悪いとは言い難い。

 それに、エリンは今回1日で依頼を終わらせたが、一般的なハンターならば1日1頭狩れたら良い方である。


 ただ、エリンはギルドにやってくるまで頭の中が期待で満ち溢れていただけに、そのショックは大きかった。


(そうですか。このバッジの色は赤字を意味していたんですね)

「おい、用が済んだんなら早く変わってくれないかな」


 後ろに並ぶハンターからクレームを頂いた。

 クロフォードはそんなクレーマーに謝罪し、脚が電柱になっているエリンを引っ張っていった。




「どうしてこうなった………………」

「…………バッグ、貰った」


 エリンは思わず自分のハンターバッグをつかんで睨みつける。

 どうりでおかしいと思いましたよ。こんな高そうなものをハンターになる全員に支給するなんて、どこにそんな財源があるのかと。このギルドの建物も備品も高級感あるものばかりだし。


「これならギルド通さずに個人で依頼受けた方がいいじゃないですか」

「…………でも、トラブル多い。ギルドって言えば、貴族も黙る」


 大方貴族相手に金融の真似事でもやって、頭が上がらないようにしてるんですかね。

 政財界への影響力とか強そうだな。


「…………ウルトラまで、定期的に依頼受けないと制裁金」

「それじゃあバッグ欲しさにハンターなるのも厳しいですね」


 中堅以上の商店とかならば、従業員にハンター登録させて、自分で出した店の手伝いという依頼を受けさせるとかいう自作自演もできなくはなさそうだが。

 それでも“手数料”はある程度は発生するから、ギルドからしても大した問題にはならないと思われる。


「じゃあ、ハンターじゃない人が“たまたま”お尋ね者捕まえちゃったっていう場合とかどうなりますか?」

「…………ハンター登録してから、お金貰う」

「抜け道なんて無かった」


 以前アドベンチャーズから、お尋ね者捕縛の一助となったことで礼金をもらったことがある。

 その時もエリンが受け取ったのは、バドラーに懸けられた報奨金の一割だった。


(今になって分かる。あれは妥当だったんだと)


 報酬が金貨50枚でも、ゴールドランクのアドベンチャーズがクリアしたならば、受け取れるのは、1割が天引きされた45枚となる。

 そこからエリンに5枚寄越してくれたから、アドベンチャーズの取り分を5人で当分すれば、一人当たり金貨8枚である。

 高ランクのアドベンチャーズが、当時ハンターになっていなかったエリンにこれだけくれたのは、破格の待遇だったのではないだろうか。


 どうせエリン自身がバドラーをしょっ引いていったところで、貰える金額は変わらなかったわけであるし。それならあの時の彼らの行動も納得できる。


「せめてノーマルランクになればまだマシなんだろうけど……」


 額に手を当ててぼやく。

 ノーマルランクなら時給が倍近くになっていた。ただ、元の報酬自体が3万円もする依頼なんて、そうそうあるものではない。


「あ~、これから厳しい道のりになりそうだ…………」


 これまで3度の冒険を経験し、必要な物も出てきた。

 アドベンチャーズから金貨を5枚貰ったが、すでにそのうち1枚を消費している。色々と買い揃えている間に、どんどん減っていくだろう。

 オルティス邸で厄介になって寝食に困らない間に、どれだけ貯蓄を作るかが勝負になってくる。


「うひゃ~」


 あれこれ考えても状況が改善されるわけでもなく、憂いてばかりいても仕方ない。

 気持ちを切り替えて前を向くしかないのだが、どうにもやる気が出ないエリンであった。





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