23. モンスター狩り
〇前回のまとめ
・『アドベンチャーズ』は緊急依頼に向かった。
・クロフォードは取り残されていた。
・クロフォードと共に依頼を受けることになった。
「……エリン、威力小さい」
「うっ、……存じております」
エリンは魔法使いのクロフォードに、実演を交えて魔法をレクチャーしてもらっていた。
彼は土と光が使えるらしい。雰囲気からして、光っていうよりは闇っぽい印象だからちょっと意外だった。
そして色々と魔法の呪文の仕組みとか、発動に際してのコツとかを指導してもらった結果――
「…………なんで? 教えれば教えるほど、エリンがダメになる。先輩失格。才能ない…………」
長ったらしい呪文を唱えるより、「えいっ」と叫んで発動する魔法の方が見応えあるものになった。
呪文の方だと、文言に気をとらわれてしっかりとしたイメージができなくなるため失敗するのではないかとエリンは考察する。
ただ、彼の指導が全く意味のないものだったわけではない。土・光属性の魔法のイメージがつかめるようになったのは大きい。こればかりは、実際に見てみることより良い経験はないからね。
それにあんな呪文を唱えるのは恥ずかしい。精神的にはとっくに20歳を過ぎているため、中学生が嬉々として口にするようなセリフを毎回言う必要がないのはありがたい。
「あー、クロフォードさん?」
「うぅ……」
メンドクセー、と心の中で呟いてエリンは肩を落とす。
ドドドドドドド
「ん、何この音?」
地響きと共に、だんだんとドドドという音が大きくなってくる。
「……来る。気を付けて」
立ち直ったクロフォードが警戒を促す。
ただ、その顔には心なしか悲壮感が浮いている気がする。
ブホォッ!!
という鳴き声と共にソイツは現れた。
『シュトゥルーツ3頭分の皮革採集』。これが今回エリンが受けた依頼である。
シュトゥルーツというのがどんな生き物なのか、全く想像つかなかったが、エリンはクロフォードが選んだ獲物なら大丈夫だろうという安易な発想で、その依頼を受注した。
黒い毛で覆われた丸っこい体からは、2本の長い脚と長い首が生えており、こちらはいずれも白い。そして、小さな頭からは嘴が付いている。
「ダチョウじゃん」と思わず声に出した。
シュトゥルーツという立派な名前が付けられているが、その姿はまさしくダチョウそのものであった。体を覆っているのは毛ではなく羽だろう。
地球だとアフリカとかに生息していたはずなのに、なんでこんな那須高原みたいな場所で出てくるんだよと文句を言いたくなるが、いるものはいるのである。
そして、ターゲットの形態から、依頼がお手頃価格になっている理由を悟るのであった。
「えっと、…………デカくね?」
“ダチョウ”は体高2.3メートルほどだが(ウ〇キペディア参照)、“シュトゥルーツ”は優に3メートルを超えている。
シュトゥルーツの嘴がエリンを捕らえようとしたところに、クロフォードの土弾が頭部に炸裂した。
(一撃ですね。さすがです)
「……シュトゥルーツ、頭弱い。角度付けて狙って」
(それって大抵の生物に共通しませんかね。むしろ頭撃たれて無事とか、そんな奴いたら真っ先に逃げますよ、私なら)
クロフォードは、倒したばかりのシュトゥルーツを念力で動かし、ナイフを突き立てる。
「え、何やってるんですか?」
「…………解体。バッグ入らない」
シュトゥルーツはエリン2,3人分ほどの身の丈がある。さすがにこれほどまで大きな物は、いくら圧縮空間といえども収納しきれないのだろう。
(アレ? でも四次元ポ〇ットって、おっきな電話ボックスとか普通に入れてるよね。ひょっとしたらイケるんじゃね?)
ということでやってみようと試みたが、如何せんエリンには力が足りなかった。
ならば自分も念力を使ってやろうではないか! と思っていると、クロフォードが声をかけてきた。
「…………解体やる。見てた方がいい」
新米ハンターとしては彼の言葉に従うべきなんだろうが、エリンはまだバッグへの希望を捨てきれなかった。
「先輩、バッグに入りきらなかったらどうなるんですか?」
「……やってみたら?」
そう言うと、クロフォードは作業の手を止めた。
じゃあお言葉に甘えてということで、シュトゥルーツの頭を念力を使って(エリンにとっては、たとえ死骸だったとしても、手袋付けてたとしても、直接触るとか無理。これでも頑張ったと自負できる)自分のバッグの口に持ってくる。
途端、先程まで地面に横たわっていたシュトゥルーツが消えた。
「アレ? 入っちゃった」
「………………あ、あり得ない」
クロフォードはキツネにつままれたような顔をしている。
バッグの中を覗いてみると、歪んだような空間の中にシュトゥルーツが浮かんでいた。
見た感じまだ容量に余裕がありそうなんですけど。ただ、このことは言わない方がよさそうだなと、クロフォードの反応からそう悟った。
「…………でも、解体しないと、出せない」
確かに依頼内容は、シュトゥルーツ本体ではなく、その皮革とされていた。
ということは、皮革を取り分けるのもハンターの仕事なのだろう。
エリンはバッグからシュトゥルーツを取り出して、その解体方法をクロフォードから教わった。
なかなかグロデスクな光景に、エリンは何度も目を逸らしかけた。だけど、これも生きるために避けては通れない道だ。
胃の中身がこみ上げてきそうになる感覚を覚えながらも、エリンはクロフォードの作業を見届けた。
(なんで涼しい顔してできるんだよ。慣れか? 慣れればみんなできるのか…………!?)
「…………終わった」
「お、お疲れ様です…………」
クロフォードはものの2,3分でやってのけたが、エリンにはその何倍にも長く感じられた。
素手でやったせいで手は赤く染まっており、何も知らない人が目撃したら間違いなく殺人犯だと断定される。
「…………お昼」
クロフォードが何か言ったが、衝撃が残っているエリンは即座にその意味を理解できなかった。
「…………」
ジィとエリンを見つめ、無言の圧力をかけてきた。
「あ、そうですね。丁度良い頃合いなんで、ご飯食べましょう」
エリンの言葉に、クロフォードはコクリと頷いた。
どうやら正解だったらしい。
小高い丘に腰を下ろし、シュトゥルーツの肉を焼いて食べてみた。幸いクロフォードが塩を持っていたため、軽く振って味付けだ。
最早、完全にピクニック気分である。
「おぉ~!」
クセが無くて食べやすい。そして何といっても普通の味付け。これが実に素晴らしい。ファンタスティック!
フェケテシティでは味が濃いものばかりだったため、塩だけというシンプルな調理に感動を覚えた。
(なんで美味しいんだよォ。あぁ、こうして生き物は生きていくんだなぁ…………)
生々しい解体現場を目の当たりにした直後なだけに、エリンは複雑な心境だった。
そして、これからは食べる前にきちんと「いただきます」と言うことを誓った。
「お、おいしいですね。なんだか久々にまともなものを食べた気がします」
「…………ん、フェケテのご飯、みんな変」
その点については、やっぱりこの人は共感者だった。
「他のところはマトモなんですか?」
「…………ケークとか、美味しい」
おそらくケークとはどこかの地名だろう。
自立する際の拠点の候補にしようと、エリンはその名を心に刻んだ。
「そういえば、ハンターって朝晩の1日2食だと思ってたんですけど、昼も食べるんですね」
ヴェインが1日3食は貴族くらいということを言ったのに、クロフォードが当たり前のように昼食をとっていたため、感じた疑問をぶつけてみる。
「…………朝食べて、あとは、お腹空いた時食べる」
(動物かよっ)
いくらシュトゥルーツの肉が絶品とはいえ、所詮2人が一度の食事で消費しきれる量には限界がある。チームメイトのバッグの空きに余裕があれば、持って帰って肉屋に売ることもあるが、そうでないときは捨ててしまうこともしばしばだとか。
エリンのハンターバッグの容量は他の人のソレを大きく超えているようなので、今回は持って帰ることにした。
凍らせておけば、ある程度保存できるだろう。明日以降のお昼にでも食べようと思う。
さて、シュトゥルーツは探してみると何頭か見つかるものである。当然のことながら、次はエリンが狩ってみようということになった。
離れた少し高い位置から、エリンがどんな魔法を使って倒そうかと考えていると、
「…………バドラー倒したの、見たい」
と、先輩からの要望があったので、今日のお礼の意味もかねてやってみることにする。
(でも、あれを一から再現するのって結構メンドーなんだよね。
…………あ、そうだ! 手の中に小さな雲を作って、そこから雷を落とせばいいんじゃね?)
そして実際にやってみました。
「うぎゃあ!」
足元に撃墜しました。当たり前。
ただクロフォードは、エリンの魔法が暴発したのではないかと慌て、声にならない声を発していた。
「…………!? …………!?」
「あー大丈夫ですよ。ちょっとミスっただけですから」
もう一回挑戦してみる。
まず、エリンは再度雲もどきを作った。次に、念力を用いてそれを浮かび上がらせ、シュトゥルーツの真上まで持っていく。
「それっ!」
そして、タイミングを見計らって雷撃を撃ち落とした。
ブホォッ
雷撃はシュトゥルーツの頭に直撃。そして、大きな音と共にシュトゥルーツは崩れ落ちた。
「…………すごい。これならバドラー倒したの、納得」
クロフォード先輩からお褒めの言葉を頂戴しました。
「…………ただ、攻撃まで隙できる。注意した方がいい」
「そうなんですよね~」
手遊びしている間は相手の方を見るわけにもいかず、格好の的になってしまう。バドラーやクロフォードの呪文の方がよっぽど速い。
物陰から不意打ちする場合などを除いては、使わない方が良いだろう。
「…………手、貸して」
「はい?」
一瞬自分の耳を疑って、エリンはクロフォードを見た。
「…………手」
言われるがままに、手を差し出す。
その時になって気付いたが、手袋は焦げてボロボロになっており、手にも枝状の傷ができていた。どうりで違和感があったはずだ。
防具屋でオマケのミトンをもらっておいて良かった。
そんなエリンの手の上に、クロフォードは自分の手をかざした。
ブツブツと呟いた彼の手から柔らかなクリーム色の光が現れ、エリンの手を包み込む。
「おおっ!」
彼が手を離すと、エリンの手は元のように白くて綺麗な状態に戻っていた。
「回復魔法ですか?」
コクリ
その言葉に、クロフォードは静かにうなずく。
危険が伴うハンターの世界において、回復要員は貴重になるだろう。ヴェインたちは、こんな大切な人材を放置していったことになる。
「先輩、私にも回復魔法教えてください」
「…………光、使える?」
「光属性のことですね。照明ならできますよ、ホラ」
エリンはポンッと白い光の塊を出してみた。昼行灯とはこのことか。
クロフォードは呆れたような視線を投げかけてくる。
「…………ちょっと違う。けど、やってみたら?」
彼はバッグからナイフを取り出し、袖を捲って自分の腕に突き刺した。
「うわっ! ちょっ、何してるんですか!?」
エリンの動揺をよそに、クロフォードは血が溢れる腕を差し出してくる。
「……やってみて。皆、こうして練習する」
(ドMじゃん…………!)
エリンはため息を挟んで、先程のクロフォードと同じ様に自らの手を傷口にかざす。
「…………魔力注いで、元に戻す感じ」
言われた通りにイメージを創り上げてやってみる。
フワッと、淡い緑色の光が傷口を照らした。
「できた!」
「……………………」
クロフォードは魚のように口を開けて、エリンの顔を見た。
「…………君は、何者?」
「私ですか? “私”は“私”ですよ」
その顔をしばしジッと見つめ、彼はフッと笑った。
そして、「そうだったね」と小さく呟いたが、その言葉はエリンの耳には届かなかった。




