22. 置いてけ堀のクロフォード
〇前回のまとめ
・この街にマトモな人はいない。
・唯一希望の星だと思っていたカーラもアウトだった。
(はい、晴れました。本日はもう文句なしの晴天なり。こんなにも太陽が恨めしいなんて……)
エリンはそんな愚痴をこぼしつつも、きちんと集合時刻までにギルドにやってくる。
こういうところは、さすが前世で社畜だっただけのことはある。
なんやかんやで、昨日買ったメイルを着てみると、早く探検に行きたいとウキウキしていた。まるで、ランドセルを買ってもらった幼稚園児の気分である。
マントを装着してから一人でポーズを決めたりしているところを、女中のおばちゃんに見られたときは、紅くなるよりはむしろ蝋燭のように青ざめた。
そのことはできる限り早く忘れ去りたいものだ。
さて、エリンがギルドにまでやってくると、入り口のあたりにアラン(黄)がいた。
彼はエリンに気付くと、瞬く間にピョンと跳んで、エリンの前に現れた。
「うわっ」
「おはよ~、エリン」
「お、おはようございます。はやいですね」
「ま~いつものことだよ~」
他のメンバーの姿はない。恐らくギルド内で待っているのだろうか。
「皆さんは中にいるんですか?」
「あ~、そんことなんだけどね~。ボクたち緊急の依頼が入っちゃって、そっちに行かなくちゃいけなくなったんだよね~」
確かにアドベンチャーズは変態揃いとはいえ、実力は広く認められているようだ。突然招集されることもあるのだろう。
「それで、エリンの付き添いができなくなったんだよ~」
「なるほど、分かりました」
「ホント、ゴメンね~」
エリンは「お仕事頑張ってください」と伝えようとしたが、それよりも先にアランは「バイバ~イ」と言うや否や、エリンの前から姿を消した。
あの身のこなしなら、先に出発した他のメンバーにもすぐに追いつけるのだろう。
カランコロン
アドベンチャーズがいなくなったことは、それはそれとして、どういった依頼を受けるかと、エリンは掲示板の前で腕を組んだ。
本来ならばモンスター討伐の依頼を受けるハズだったが、ビギナーランクのエリン単身ではランクの制限に引っかかって受けることができない。
そこでヴェインたちは、ゴールドランクのアドベンチャーズの監督の下で行うことにして、その制約を外そうとしたのである。
「さすがにビギナーだと、あんまり良いの無いなぁ」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………って」
なんかいるんですけど。壁際からジィっとこちらを見てくる変なのが。
「…………何でいるんですか、クロフォードさん」
そこにいた変人は、今朝ヴェインらと共に緊急依頼に向かったハズの緑ハンターこと、クロフォードであった。
「…………………た」
「はい?」
「……て…………た」
「もっとハッキリ喋ってくださいよ」
「……おいて、……いかれた…………」
「……………………」
「……………………」
「……何してんねんっ!」
♦
ギルド内にあるラウンジの一画で、エリンはクロフォードと対峙していた。
「え~、それでクロフォードさんは他の4人がどこに向かったのかすら聞いていないんですね」
エリンの言葉に、コクコクと頷くことで返事の代わりとするクロフォード。
「じゃあ、誰があの人たちに依頼を伝えたかとか、心当たりないんですか?」
クロフォードは、小さく一方を指した。
彼の指の先には、受付が見える。
「……受付ですか?」
エリンの問いに、今度はかぶりを振る。
そして、指差した方の腕を、手の形をそのままにして伸ばす。
「えっと、その奥ってことですか? ギルドの偉い人とか?」
言いたいことが伝わったらしく、クロフォードは顔を輝かせたみたいだ。
前髪が長いせいで、表情がよく読み取れない。
「……それが分かってるなら聞いてきたらいいじゃないですか」
「…………………い」
「ハッキリ喋って!」
「…………恥ずかしい」
「……………………」
「……………………」
「知らんがな!」
エリンは、思わずゴンっと机を叩いてしまった。
良い歳して人見知りとか……。
やれやれと、仕方なしにエリンはクロフォードを伴って受付に並ぶ。
今日対応してくれたのは、昨日とは違っておばちゃんだ。ちょっと残念。
「あの~、ここのお偉いさんに会うことってできますか?」
「お偉いさんって、ギルドマスターのことかい?」
「あ~、多分ソレです」
おばちゃんはエリンの胸元のバッジを一瞥した。
恐らく初心者のエリンなんか相手にするまでもないと追い返されるかもしれないと思ったエリンは、おばちゃんが口を開く前にクロフォードを彼女の前に引っ張ってきた。
「会うのは私じゃなくてこの人です。ホラ、あのアドベンチャーズの緑」
これなら文句あるまいと、ドヤ顔を作るエリン。
しかし、おばちゃんの面倒くさそうな顔は変わらない。
「アドベンチャーズにこんな人いたかねぇ」
「え?」
「アンタ、いい加減なこと言ってんじゃないよ」
いやいや、そりゃあ確かに影は薄いけどもさぁ。でもいくらなんでもそれはないでしょうよ。
てか、それくらいちょっと調べればすぐに分かるんじゃないの? 行政並みに杜撰な受付やな。クロフォードはもう目が潤んできてるよ。可哀想に。
「後がつかえているんだよ。さぁ、用がないなら帰った帰った」
「いやいや、この人ちゃんとしたゴールドランクですよ」
エリンは、クロフォードの胸元にある金色のバッジを指してみる。
「ハァ~、予約は?」
「はい?」
「予約してんのかい? ギルドマスターと会うための」
エリンが同伴者の方を見ると、彼は首を振った。
「それじゃあ会わせらんないよ。ホラ、さっさと帰りな。今度は予約してからまたおいで」
「「………………」」
抵抗を試みることすらできず、エリンたちはひとまず撤収した。
「どうしましょうか」
「………………」
目だけで何か語り掛けてくる。アドベンチャーズの面々なら彼が言わんとすることを察することができるのかもしれないが、生憎エリンには伝わらない。
もう諦めようとばかりにエリンは息を吐く。
「あの、私は最初の依頼受けてみようと思うんですけど、1人じゃロクなの受けられないんで、もしよかったら一緒に受けてもらえませんか」
本来の今日の約束を思い出したのか、クロフォードはエリンの申し出に対して首肯した。
「じゃあ先輩、どんな依頼がいいと思いますか?」
クロフォードは若干朱くなりながら、掲示板に貼ってあるポスターの1つを示した。
「なるほど、コレですか。ビギナーには難しそうだけど、私には丁度良さそうですね」
それに報酬もそこそこ良い。
30,000フォート。2人で割っても日当1万5,000円。モヴィー半月分である。
「じゃあ、コレにしちゃいますか!」
♦
モヴィーと一緒に行った【鮮緑の山】が南、モヴィーを共に探索した【鋼鉄の洞窟】が東とするならば、エリンたちは今、フェケテシティの西方にある【紫翠の丘】に来ている。
山紫水明とはこのことと言わんばかりの美しい景色が広がっているが、ここにピクニックに来たりする者はいない。
モンスターがよく出没する危険エリアなのである。
本来ならば、ノーマルランク以上でないと立ち入りすら許可されないのだが、エリンはゴールドランクのクロフォードの監督の下で行うことを条件に、依頼を受注してきた。
このレベルの依頼ならば、2、3回ほどクリアすることでノーマルランクにあげてもらえるらしい。
さっさと依頼を終わらせて帰ろうとエリンが歩き始めると、足元の辺りに何かが現れた。
「あぶな――」
「〈ファイヤー〉!!」
クロフォードが、彼なりに声を大きくしてエリンに注意を促そうとしたが、それよりもエリンが火魔法で攻撃するのが先だった。
犬くらいの大きさのウサギで、大きな耳が特徴的だったが、そのウサギは毛先の表面を炙られそうになり、一目散に逃げていった。
「………さすが。アレ、見た目の割に凶暴、被害に遭う人多い」
ここに来るまでには、何とかクロフォードと最低限の会話を成立させることができるようになっていた。
と言うよりは、彼がボソボソ言うたびにエリンがキレたことから、エリンを怒らせないようにするためにクロフォードが身を削る思いで声を絞り出していると言う方が適切であったが。
「………さっきのパンチラビット。耳でパンチしてくる」
(そのまんまやないかいっ)
なんでも可愛らしい見た目とは裏腹に、耳の先を丸めて強力なパンチを獲物にお見舞いするとかで、初心者ハンターがしばしば殴られているらしい。
油断している隙に殴られて、歯や骨が折れてしまうとか。
「あの凶暴性に気付くとは、それに呪文も速い………。やっぱり、只者じゃない」
「ハハハ、ソウデスネ~」
エリンとしては、苦手な動物が急に足元に飛び出してきたため、必死になってそれを追い払っただけである。
(心がピョンピョンするアニメは好きだけど、リアルのウサギは無理なんだよなぁ…………)
クロフォードの前を歩いていたために、彼が魔法を発動させるエリンの形相を見ることはかなわなかった。エリンの美少女像を崩壊させなかったことは幸いだったのだろうか。
もっとも彼の場合は、すでにさんざん怒鳴られたことで時すでに遅しとなっているかもしれない。
(でも、やっぱり火力が足りないんだよな~)
丁度その時、エリンはもう1匹のパンチラビットを見つけた。
自分に魔法を教授したビッチ爺さんが間違っているのかもしれない気がして、エリンは一般的な呪文を試してみようと考えた。
参考にするのは先日戦ったバドラーである。
「えぇっと……、〈万物の根源たる火よ 敵を焼き払うため我に力を貸し給え 火の矢〉!」
シュポポポ~ン
「「………………」」
いうなれば、線香花火。小さな火の玉が足元に散らばって消えた。
痛いセリフを口にしたこととも重なって、羞恥心がこみ上げてくる。
「バドラーの技を真似してみようと思ったんですけど、やっぱり無理ですね」
とりあえず誤魔化した。
だが、そんなことを言っている間にもパンチラビットが襲ってくる。
「ゴニョゴニョモニョモニョ」
クロフォードが呪文を呟く。
すると、泥の塊みたいなものが飛び出し、パンチラビットを弾き飛ばした。
(これ、見たことある気がする……。そうですか、バドラーにトドメを刺すのを邪魔したのはアナタでしたか)
倒したパンチラビットを回収しようとするクロフォードは、なぜか背後に戦慄を覚え、ハッと振り返った。
そちらを見てみると、エリンがニコニコと微笑んでいる。
「…………?」
クロフォードはなぜか、その笑顔に恐怖を感じるのであった。
一瞬エリンが敵ではないかとの懸念が頭に浮かぶが、そんなハズはあるまいとかぶりを振った。
気を取り直してパンチラビットを自身のバッグに入れる。ちなみに彼のハンターバッグも、エリンのと同じくメッセンジャーである。
そんなことをしているうちに、今回のターゲットが2人の近くにまで迫っていた。
誤字報告ありがとうございます!
全然気づきませんでした。恥ずかしい>.<




