20. 防具屋にて
〇前回のまとめ
・ハンター登録をした。
・バッジとバッグをもらった。
・ハンターバッグは四次元ポケ〇トだった。
「すでに経験をたくさん積んでいる皆さんにとっては、数あるうちの1つなんでしょうよ。
でもね、私にとっては初めてなんです。皆さんはいつもヤってるようにパパっと済ましちゃえって感じかもしれませんけどね、私はね、初めては大切に大切にしていきたいんですよ」
「……語弊のある言い方ですね」(青)
「そもそも私はイヤなんです。でも皆さんが強引にヤろうとしてるんじゃないですか。こんな少女1人に、大人5人が迫ってきて……。もう恐怖ですよ。分かりますか!?」
「やるって探検のことだよなっ。おいヴェイン、お前モテないからってヤケクソになって変なこと要求したりしてねぇよな?」(黒)
「おい、俺がそんなことするワケないだろう。あとモテないは余計だ」(赤)
「さっきもアレは何ですか!? 大勢の人前でいきなり女の子のポケット(胸元)をあさるなんて、ハンターにとっては屁でもないんですかっ」
「ちょっと誤解を招く言い方は止めとくれ~」(黄)
「…………………」(緑)
はてさて、一行がやってきたのはフェケテの一画にあるお店である。
よし依頼をこなしに行こうと思っても、それにはやはり危険が伴うものである。そのため、防具や傷薬などの、それなりの準備が必要となる。
如何せんハンターの世界についてまだ右も左も分からないエリンに、装備品の良し悪しなど分かるはずもない。だからこそ、ベテランの助言は渡りに船だろう。
という理屈の下、アドベンチャーズが付いてきた次第である。
「うわっ、高っ」
店頭にある、割と軽そうな金属製のチェストプレートを見てみると、「20万フォート」とあった。モヴィーが半年以上働いて稼げる金額である。
他にも剣とか買ったりしたら一文無しになっちゃうね。
「心配するな。門出祝いということで防具の1つくらい俺が買ってやる。お前の命に比べたら安いもんさ」
「え、何ですか。それで口説いてるつもりですか?」
「なんでだ!?」
普通なら感謝するところであろう。だが、お尋ね者の報奨金の件があるため、素直に受け取ることができない。
それに、前世でエリンは男が女に奢るのは当たる前という価値観の被害に幾度もあっており、その腹いせとしての意味も含まれているかもしれない。
デート代は全部自分持ちなのに、雪見だいふく1個あげなかったくらいでケチ認定されたことは今でも忘れられていない。
ピノならいいよ。でも雪見だいふく1個って、それもう2分の1じゃん。1個の重みが違うよ。
「レフさん。このおじさんってロリコンですか?」
「誰がおじさんだ。俺はまだ33だ」
「おっさんじゃん」
年相応の見た目のヴェイン(髪があれば)。リーダーということからも、恐らくこの5人の中で最年長だろうか。
すでに初対面の時の威風堂々とした感じは全くないし、世間が思っているほど立派な人物ではないことはよく分かった。
「ククッ、ロリコンかどうかは知らねぇが、まともじゃないことは確かだぜ」(黒)
「おいっ、何を……」(赤)
「だって考えてもみなよ。ボクたち、自分で言うのもなんだけど、結構有名でしょ~。それなのに全くモテないって絶対なんかあるってわかるじゃん」(黄)
「あー(“ある”というより“ない”けどね)」(エ)
「モテないんじゃない。良い人にまだ出会えてないだけだ」(赤)
「見苦しい言い訳だな」(黒)
「お前こそ、女ならゆりかごから墓場までとか言ってただろ」(赤)
「こっちの方が変態だった!?」(エ)
エリンはパッとレフ(黒)からも距離をとる。
「おいおい、女性に年齢で見切りをつける方がどうかしているんだ。女性として生まれてきただけでもう素晴らしい。俺は女性に優劣をつけることなんてできない、……ってそんな目で俺を見るんじゃねぇ!」
「お客さん、騒ぐなら他所でやってくれないかなぁ」
さすがにやかましい客連中に痺れを切らした店員が注意をしてくる。
「や~い、怒られてんの~」
「うるせぇアラン! お前だって年上好きじゃねぇかっ」
「それ普通じゃ~ん」
「お客さんっ。ちょっとランク高いからって調子に乗んないでよ」
「フンッ、どうせ他に客もいねぇじゃねぇか」
「なっ、そ、それは……ゴニョニョ」
レフの台詞に店員は言葉に詰まり、口をパクパクさせている。その店員は、まだ20歳そこそこの女性。
客足は少ないとは言ったものの、こういう店は月に幾つか商品が売れれば十分に利益が上がるのだろう。
エリンは変態トリオをおいといて、各装備品についてホリー(青)の説明を受けている。
本来これは店員の役割では、と思わなくもない。だが、商品の美点ばかりをアピールしがちな売り手と異なり、消費者としての目線でのアドバイスが聞けるのは素人としてはありがたいのも確かだ。
「エリンは水魔法の使い手だというので、このあたりが良いでしょうね。何かこういうものがほしいとか、要望はありますか?」
「やっぱりデザイン性ですね。ダサいのは嫌です」
それを聞いたホリーは、鳩のような顔になる。
目が細い上にあまり表情の変化が読み取れないタイプだが、心情を表すのに的を外してはいない。
「…………他には何かありませんか?」
「そうですねぇ。動きやすさも捨てがたいですね。防御力を重視するあまり、転んで動けなくなったところを襲われて死んじゃったとか馬鹿馬鹿しいですし」
「なるほど、機動性重視ですか。では、こんなのとかどうですか?」
「却下。夜とか寒そうだし、怪我しやすそうです。てか、露出が多くて色も卑猥ですね。それともこーゆーのを女の子に着させて楽しみたい趣味ですか?」
「い、いや、私はただ……」
エリンとしては冗談半分のつもりだった。それなのに、こんな浮気現場を妻に目撃された夫のような反応をされると、かえって怪しい。
やはりコイツも変態か。
ふと店の隅に佇むクロフォード(緑)と視線がぶつかる。
「……………………」
「……………………」
アンタもなっ。
「お、コレとかいいんじゃないですか」
「おー、お客さんお目が高い」
エリンが一つの防具に触れると、店員さんがひょっこり顔を出してきた。
「コレは『エルピスメイル』と言いまして、衝撃を吸収して――」
「でも、このピンクの刺繍はないわ」
「それがチャームポイントなのに~」
カジュアルかつシンプルな印象が高評価だったが、背面に派手なデザインの刺繍がある。危ない危ない。こんなの着て街歩くとか、どこぞの田舎のヤンキーじゃあるまい。
「ではこんなのとかいかがでしょう! 『恋する乙女のローブ』!! 耐熱性に優れ――」
「名前が嫌だ」
「ぎゃふんっ! 折角頑張って考えたのに~」
アンタが名付けたんかい。
3色団子は口論を続けており、青と店員はエリンに心をへし折られ、緑は黄昏て……。
(コイツら、どいつもこいつも役に立たないな)
エリンは、結局ひとりで商品を吟味することになった。
なんやかんやあってエリンが選んだ防具は、『オンディーヌメイル』。
白を基調としており、前方を2本の縦の金色のラインが良いアクセントとなっている。ネイビーのベルトと、空色のマントがセットとなっており、マントは裏表で色の濃淡が異なっているのがポイントだ。
エリンがこの防具を選んだ理由は主に2点ある。
まずはデザイン性。よく「おしゃれは我慢」とかいう人がいるけど、これは無理なく着用できるのが大きい。長時間険しい道を歩くのにパッツパツのスキニーはいて気分悪くなるとか論外。まぁ、マントは普段外しておくことにする。中学生じゃあるまいし。野宿する際に、毛布の代用品として使えそう。
次に値段。おっさ……ゲフンゲフン、ヴェインさんが買ってくださるというので、高いものの中から選びました。いくらかって? 気にしたら負けだよ。
あと、黒の靴と革のグローブにナイフなど。こちらは自費で購入。
これで大金貨1枚が消えた。お高い……。
買い物を終えてさっさと帰ろうとしたら、キャンペーンだなんだとかでミトンをプレゼントされた。
そういうことは先に言ってほしい。もうグローブを買っちゃったよ。使い道は分からないが、タダでくれると言うならぜひ頂こう。……発想が貧乏人。
店を出ると、ヴェインがボヤいてきた。
「クッ、少しは遠慮しろよ……。まあいい。次は武器だな。エリン、お前魔法を使うときは杖とかいらないのか?」
「さぁ、使ったことないんで何とも。でも買ってくれると言うのなら――」
「じゃあいらないな」
「おいっ」
そこはケチるんかい。
しかし、兎にも角にもこれで準備は調った。いざ行かん、異世界の魔境へ!
「今から行っても中途半端になるからな。探検は明日にするぞ」
「あ、そうですか……」
「明朝絶対にギルドに来いよ。絶対だからな、嵐でも来ない限り」
「はいはい、分かってますよ」
さすがに高価なものを買ってもらっておいてバックレるほどエリンはクズじゃない。
ただ、半ばあきらめつつも、嵐でも来ないかなと往生際の悪いエリンであった。
それでも、嵐になったらお休みになるということには感動した。
台風? ミサイル? 知らん、そんなことより早く出勤しろって世界にずっといたからな~(遠い目)。
♦
帰路、寄り道ついでにエリンは貧相な家が立ち並ぶ住宅街に来ていた。
防具の他、今日購入したものやお金などはすべてハンターバッグにしまってある。
住宅街の奥の方にある、特にみすぼらしい家の中に、エリンは入っていった。
「ヤッホー、元気かい?」
中にいたのはモヴィーである。
「あ、エリン!?」
昨日の光景を思い出してしまったのか、モヴィーは動揺していた。
「えっと、この昨日はゴメンね。オイラだって悪気があったワケじゃ――」
「忘れろ」
「え、いや、そのぉ…………」
「忘れろ」
「わ、分かりました…………」
エリンのプレッシャーに、モヴィーは屈するしかなかった。
「よろしい。じゃ、はいこれ」
微笑みを取り戻し、エリンはバッグの中から布の袋を取り出す。
「何これ……って銀貨!? 大銀貨まであるよ、こんなにたくさん! それにエリン、どうしたのその服は。はっ、まさか泥棒!? 相手はもしかしてこの間の貴族様!? いくらお金に困ったからって、そんなことするなんて――」
「してないよっ! 実はあの後オルティスの家の人と会って、泊めてもらった上にこれももらったんだよ」
心外だと考えつつも、エリンはオルティス男爵との経緯を説明する。
「あー、そんなことがあったんだね」
「どうする? モヴィーも男爵の家に行けば色々と世話してもらえるかもよ」
「イヤ~、オイラにはそんな畏れ多いことできないよ~」
この世界一般の基準だと、モヴィーのような反応が正しいのだろう。
「そういえばそのバッグ、エリンはハンターになったの?」
「そうだよ。当面の目標は自立資金を稼ぐことかな」
「はぁ、大変だと思うけど頑張ってね」
「モヴィーもやらないかい?」
「えっ!? オイラには無理だよ。今の仕事だってあるし…………」
その言葉に、エリンは過去の自分を見ている気分にさせられる。
辛いなら辞めてしまえばいいのに、いつしかそんな感覚さえ薄れていた。
まだ幼いのにこんなに毒されているなんて、なんと不憫なことだろう。
前世のエリンもビックリするほどの超ブラック労働してるわけだし。
「あのね、モヴィー。人生仕事が全てじゃないんだよ。いつまでも大人にいいようにこき使われているよりも、そのお金を使って自分で商売を始めることだってできるんだからね」
「そうだね、考えておくよ。でも、心配しないで。オイラにはお師匠様が付いてるから!」
その爺さんのせいで色々と心配なんですけどね。




