19. はじめてのギルド
〇前回のまとめ
・バトラーはヤバいヤツだった。
・『アドベンチャーズ』に目を付けられた。
・ハンターギルドにやって来た。
シネック王国ハンターギルド・フェケテ支部は、西区の小高い丘の上に位置している。
石造りの建物は存在感があり、他の建物に統一感があることを踏まえると、良い意味で浮いている。外から見た感じだと3階建てのようだ。
カランコロン
ドアベルは滑らかな音色。
ギルド内には幾人かのハンターの姿がある。エリンが足を踏み入れると、中からどよめきが起こる。絶対的美少女エリンの登場に皆驚愕した……わけではなく、その前を行くアドベンチャーズのせいである。
「おい、アドベンチャーズだぞ」「この街に来てたっていう噂は本当だったのか」「やっぱカッケーよな」「俺、握手してもらいたいな」「フンガフンガ」
聞こえてくるハンターたちの会話からして、アドベンチャーズの活動の中心地はフェケテではなく、ここに来ることは珍しいように思われる。
ん? なんか聞き覚えのある声がした気が……。
入り口からまっすぐ行くと窓口が3つあり、それぞれ受付嬢が待機している。
その左を見ると掲示板があり、多くの張り紙が乱雑に張られている。あれが恐らくハンターへの依頼と思われる。
もう少し丁寧に並べて貼るということはできないのだろうか。あれでオッケーってことは、上司は細かいところに気を使わない人なんだろう。羨ましいぜ、全く。
出入口の右奥には上下に向かう階段がある。どうやら地下階もあるみたいだ。
ヴェインに促され、窓口へ向かう。他の4人は掲示板や休憩スペースなど、思い思いの場所に行く。ギルド利用者のざわめきは強まるが、彼らに直接声をかける者はいない。
ヘタレばっかりかよ。
むしろレフとかは自分の方から声をかけている。流石イケメン、やることが違う。
さてさて、対応してくれた受付嬢・イリーナは、ほんわかした印象のかわいらしい人だ。ベージュの髪に優しさが現れているように感じる。
他の窓口はいずれもパートらしきおばちゃんだったから、これはアタリかな。
職員は心なしか女性が多いように思われる。日本でも事務と言えば大抵女性ばかりだったが、これは異世界でも同じらしい。
「えっと、ハンターになろうと思っているんですけど……」
「はい、ハンター登録をご希望ですね。こちらの用紙に必要事項をご記入ください」
「あ、はい。分かりました」
ハンター登録の申請書は、簡単な履歴書のようなものだった。
(名前、エリン。苗字は無くてもいいか。オルティス以外で名乗ってる人いないし、カンザキってなんか言い辛そう。年齢……この姿で20代はさすがに無理がある。外見がJKっぽいから17歳にしておこう。職種、経歴、特技、賞罰、その他特筆事項なし……)
「これで大丈夫ですか」
「はい……エリンさんですね。承りました。ちょっと待ってくださいね」
読み書きができるのが分かったのは収穫だ。言葉の壁に阻まれて文盲とかやってけない。
魔法能力といい、言語能力といい、元の体の所有者の能力を引き継いでいるように思われる。ただ単に、人生上の記憶だけが入れ替わったのだろうか。
「お前、17歳だったのか。てっきり15あたりだと思ったぞ」
「え、そんなに若く見えます?」
「お、おう……」
上目使いでおどけてみると、なぜかヴェインは言葉に詰まった。これがドン引きによるのか、照れによるのかは知らない。
中身が20代半ばの男性であることは知らぬが仏。本当はアンタと大して目線の高さ変わらないんだよ。
ま、この体の実年齢なんてエリンも知らないので、本当はヴェインの言う通りなこともあり得るわけで。
とはいえ、それ以上会話を続けることなく、イリーナが戻ってきた。
「はい。こちらがハンターバッジです。ギルドから依頼を受ける際などに必要となります。ハンターとして活動する際には、必ず付けてきてくださいね。付けないでいると、たまに資格を剥奪されたと誤解されることがあるので」
犯罪に手を染めるなどすると資格剥奪となると言っていたので、相手の経歴の潔白を判別するのに便利なのだろう。
アドベンチャーズ5人の胸元にはいずれも銀色に輝くバッジが付いている。
それらはエリンがもらったバッジに、羽がつけられた形をしている。
ところどころメッキが剥げたり、黒ずんだりしているのは、様々な経験を積んだベテランハンターとしての勲章だろう。
「あと、緊急時にはここを開いて中のボタンを押してください。バッジに貯められた魔力から救助要請がギルドまで届けられます。本当にピンチの時以外は絶対に押さないでくださいね」
そんなこと言われたら押してみたくなるのは日本人の性だろうか。
「絶対ですよっ」
「…………分かりました」
エリンが赤いバッジを受け取り、左胸につけてみた。それと同時にイリーナは次にカバンを2つ帳場の上に置いた。
「そしてこっちはハンターバッグです。タイプが2つありますけど、どちらになさいますか」
二つのカバンは、それぞれリュックサックとメッセンジャーバッグだ。
両手が空くのはどっちもだけど、リュックサックだと長時間の移動とかの負担が軽減されるし、メッセンジャーバッグだと出し入れが簡単でお手軽。
どちらもヤギの革製のように見え、オレンジっぽい色調である。
リュックサックのほうが容量が大きそうだなとエリンが考えていると、ヴェインが口をはさんできた。
「おい姉ちゃん。こいつは昨日までハンターのことをろくに知らなかったんだ。このカバンのスペックについても教えてやってくれ」
「あ、そうなんですか」
(自分にとっての常識が万人に通用するとか思わないでほしいね。どうせ雷の仕組みも知らないくせに……)
意外そうな眼を向けてくるイリーナに不満たらたらだが、思っただけで口に出したりはしない。
本音と建前ってやつですね!
女性の前ではしっかりと体裁を整えないと。紳士の嗜みってやつですよ、……今は淑女だけど。
「いいですか。このカバン、見た目は普通のカバンなんですが、実はただのカバンじゃないんです!」
「はあ……」
なんか通販番組の真似事が始まった。
「何を隠そうともこのカバン、容量が見た目の何倍もあるんです!」
「え、そうなんですか!?」
折角なのでノッてみるエリン。
いきなりエリンの声色が変わったことに、ホワっと口を開けて呆れるヴェイン。
「容量は所有者によって変わるんですけど、大きい人だとカバン20個分も入ると言われているんです!」
「それはスゴイですね~」
エリンの便乗に気を良くするイリーナ。
急に始まった三文芝居に視線を集める野次馬共。
鼻をほじるフンガフンガ。
「しかも、どんなに荷物を入れても重さを感じさせません!」
「これなら長い移動も楽ちんですねっ。女性にも優しいなんて素敵です」
「さ・ら・に~、一度所有者登録をすると、他の人は中の物を取り出せなくなるんです!!」
「防犯面でも安心ですね」
ここでお決まりの台詞を投入。
「でもお高いんでしょう?」
「あ、これはハンター登録された方全員に配布してます」
(おや……?)
あれ? なぜか急にテンションが下がったよ。なんで!?
ここは「いえいえ、そんなことはありません」とかでしょ。どうして急に冷めるかな~。
あ、自分が周りに注目されてたことにようやく気付いたんだ。
「えっと……、それでエリンさんはどちらになさいますか?」
「……じゃあメッセンジャーで」
どっちも重くないんだったらリュックのメリットないよね。
ということでメッセンジャーに決定。
「分かりました。ではこちらに指を当ててください」
受け取ったカバンの蓋を開けると、球体の部品が付いている。これで所有者登録をするのだろう。
エリンはイリーナの言葉に従って、それに人差し指を当ててみた。
球体は、一瞬だけフワッと小さく光った。仕組みは知らない。現代だって、構造を完璧に理解するまでテレビは観ない、なんて言う人はいない。
「はい。これで所有者登録は完了です」
ということで早速、エリンは先ほどもらった金貨袋をハンターバッグに入れてみた。金貨袋は吸い込まれるように消えた。中を覗くと、無機質な空間にポカンと浮いているのが見える。
そして手を突っ込むと、容易にそれを取り出すことができた。
「四次元ポケ〇トじゃん!」
21世紀の科学が成しえなかった偉業に異世界で触れたことで、エリンの感動も一入だ。
地球では果たしてあと100年以内に誕生するのか。
「よくこんなスゴイものをタダでくれますね」
「昔は金取ってたんだ。だが、バッグを持ってる奴が良からん輩にトラブルに巻き込まれることがしばしばでな。それでいっそのこと皆にやっちまえということになったのさ」
「あ~納得です」
そりゃ皆こんなのを見たら、喉から出るほど欲しくなるだろうよ。
バッグを買う金がないなら無理矢理持ってる人を巻き込んじゃえ、っていう連中がいても不思議じゃない。
バッグも素材のレザーだけで結構高そうだし、それだけギルトが儲かっているんだよね。この建物だって高級ホテルみたいに作られているし。
「よし、登録も一通り終わったな。エリン、早速依頼やりに行くぞ。お前の実力を見せてもらいたいしな。何がいい? やっぱり最初はゴブリンか。別にお尋ね者討伐でもいいぞ」
「え゛!?」
エリンはヴェインの言葉を聞いて、心底嫌そうな表情を作った。
面倒ごとを回避したいエリンが逃げ口上を考えていると、イリーナが口を開いた。
「ヴェインさん。さっきハンター登録したばかりの子にいきなり戦闘をさせるつもりですか。危険ですよ。まずはこの迷いネコ探しとかが――」
「ホイ」
いつの間にかそばに来ていたアランが、エリンのポケットからオーガの角を取り出して帳場に置く。
それを見たイリーナは石像になった。
メドゥーサかよっ!
「これはコイツがやったものだ。この通りコイツにはそれなりの実力があるし、何より俺たちが見てるから心配には及ばん」
むしろ心配なんですけど、と言ってほしかったんだが、人間に戻ったイリーナときたら「それなら安心ですね~」とか言っちゃう始末だ。
「イヤ、これはマグレで――」
「運も実力だよ~」
すると、ヴェインがエリンの肩に手を置いた。
「もう逃げられないぞ」
「ヒエ~~ッ!」




