18. アドベンチャーズの誘い
〇前回のあらすじ
・変な男にナンパされたけど追い払った。
・『アドベンチャーズ』は有名人だった。
・バトラー討伐の報酬を一部もらった。納得いかない。
「エリン、お前は雷魔法が使えるな?」
「雷魔法」という言葉に周囲の一部がピクリと反応する。
(何、そんな注目を集めるような話なら、もっと場所を選んでほしかったんですけど。アレだね。こういう気配りのできない男の人ってたいていモテないよね)
「うるせぇよ!」
「え、まさか読心術!?」
「…………今の声に出てたぞ。あと、モテないはヴェインが気にしてることだから、あまり触れないでやってくれ」
「レフ、一旦黙ろうか」
男前のレフが言うと余計に刺さるモノがあるよね、分かりますその気持ち。
(まぁ、仲がよろしいようで何より)
「「よろしくねぇよ!!」」
「あら」
また心の声が漏れていたようで。お恥ずかしい。
調子を狂わされたヴェインが額に手をやり、咳払いをはさんで続ける。
「ゴホン……。昨日バドラーの奴が、お前が雷魔法を使ったと言っててな。その真偽を確認したいんだが……」
「はぁ、あのおっさんが自分の醜態をごまかすために適当なことを言ってるだけですよ」
腰を抜かした上に失禁した凶悪犯の姿が思い出される。
あれは本当に目も当てられなかった。あーゆー大人にはなりたくない。
「そもそも、そんなことを知ってどうするんですか?別に私は貴方たちと敵対するつもりもありませんし、私の情報を探る必要性を感じないのですが」
皮肉っぽく言うエリンに、ヴェインたちが苦笑する。
エリンとしては「雷魔法」という言葉に周囲の何人かが反応したのを受けて、安易に個人情報を晒すまいと警戒したつもりである。
「いや、ただ単に興味本位だよ~」
「雷使いなんて珍しいし、そんなが魔法使い町に埋もれてるのはもったいねーなーと思ってよ」
エリンの警戒を察したのかは知らないが、アランとレフが説明する。
なるほどビッチ爺さんも言ってた六大魔法には、雷は含まれていなかった。そうだとすると、それに含まれない雷の使い手は希少価値があるのだろう。
彼らも雷の使い手を依頼とかで探しているのかもしれない。いずれにせよ、面倒くさい未来しか見えない気がするが。
「えっと、結論から言うと、私は雷魔法は使えませんよ」
「じゃあどうしてあのお尋ね者が腰を抜かしたんだ!?」
エリンの言葉にヴェインが食らいつく。
ただ、エリンとしても決して嘘は言っていない。確かに洞窟内で雷を落としたのは事実だが、あれは水魔法と風魔法の合わせ技だ。「雷魔法」ではない。
「あー、あれはアイツの必殺技と私の魔法がぶつかってエライことになったんですよー」
「「「「「………………」」」」」
(ん、あれ?)
エリンとしては何とかごまかそうとしたのだが、むしろハンターたちの顔を引きつらせる結果となった。
「……エリン、君はバドラーの必殺技を受けて無事だったのかい?」
「えっ?」
実際にはバドラーの必殺技なんて見てない。だが、それは高名ハンターを震撼させるほどのものらしく、その場しのぎのつもりで盛り付けた言葉が、思わぬ誤解を生んでしまっていた。
「あの、一瞬で村1つを焼け野原にしたという……」
(何やっちゃってんのアイツゥ~!!)
まさかそんなに危ないお尋ね者と戦っていたなどとは、夢にも思わなかった。
盲蛇に怖じずとはこのことか。
(ホント、無知って怖い……)
今更ながら、よくぞ無事に生き残れたと思う。恐らくバドラーが全力をぶつけていれば、か弱いエリンなど木端微塵に吹き飛んでいたことだろう。
「えぇっと……、捕まったお尋ね者ってどうなっちゃうんですか?」
「お説教だ。一体どんな魔法をぶつければあんなことになるんだ……」
何とか話題の転換を試みるも、あえなく阻まれる。
(いや、それよりもお説教って何!? レア魔法なんかよりも聞き捨てならないフレーズがあったんですけど。叱られて反省したら釈放? まさかとは思うけどそんなことないよね)
「そのまさかだよ」
「ええっ!?」
「……冗談だ。ちゃんと監獄につながれて強制労働だ」
当初はお高く留まっていたエリンだが、アランたちにいいように遊ばれている。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ハァ、分かりました。説明しますよ……。まず、水魔法で湿度を上げて相手の火力をジュワ~って下げます。それからグチュグチュってやったらゴロゴロってなってドカ~ンですよ」
「「「「「………………」」」」」
まともな説明をするのは面倒くさい。何より、雷の原理から理解してもらうのは難しいだろう。エリンなりにかみ砕いてジェスチャー混じりに解説した結果がこちらである。
当然5人は、納得とは程遠い表情だ。
「おま――」
「あの~、ハンター同士って詮索タブーなんですよね。私もハンターになろうかなと思っているんで、これ以上探らないんでほしいんですけど」
反論の前に切り札を出す。
こんなこと言ったら先輩として面倒を見てやろうとか言われそうだし、もうこの人たちとはあんまり関わりたくないから、できれば言いたくなかったんだけどね。
まあ、もともとハンターはこの世界での仕事候補に含まれてたし。大方何でも屋みたいなもんでしょ。
「そうか。それなら仕方ないな」
あっさり引き下がってくれたことにエリンはホッと内心で安堵する。
「そういうことなら俺たちが先輩としてレクチャーしてやらないとな――」
「いえ結構です。モンスター倒すくらい1人でできますし。……ホラ、これだって自分でやっつけたんですよ」
エリンはポケットから先日手に入れたオーガの角を、ポケットから取り出して彼らに見せた。
「「「「「………………」」」」」
ところが5人はエリンの手の上にある角を見て一瞬石像になった。
「これは、オーガの……」(青)
「ん、岡野?」
「これはお前一人でやったのか?」(黒)
「えぇ、まぁ……」
「やはりバドラーと渡り合ったのは本当だったか」(赤)
「えっ?」
「なおのこと君の実力を見てみないとね~」(黄)
「ヒエ~~~!!」
少女の叫びは、店内の雑音に虚しく吸い込まれていった。
「………………」(緑)
そこの緑、何か言えや!
♦
ということでやって参りました、ハンターギルド。
エリンはギルドまでの道中、青色のホリーからハンターについての大まかな説明を受けた。
この人は知的な印象だし、おそらくチームの参謀役を担っているのではないか。
赤いおっさんが「そんなことも知らないのか」とかのたまっていたけど無視。
実績とかはあっても、自分の世界でしか物事を見れないんじゃあダメでごわすよ。世の中には色んな人がいるんですから。
ハンターは、依頼の受注で契約を締結し、任務をこなすことで報酬を得る。中には雇用されてインハウスという形で長期的に就労する者もいるが、多くは短期のものばかりだという。
依頼には様々なものがあり、相当性を欠くと言えない限り依頼として成立する。そういった点では、“何でも屋”という認識もあながち間違いではないと言えよう。
また、依頼とは無関係に、財宝が眠ると言われる秘境を探検することもあるとか。
ほとんどのハンターがチームとして活動しており、ソロ活動は少数派だという。
ハンターチームには8つのランクに分かれ、下からビギナー、ノーマル、スーパー、ハイパー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ダイヤモンドとなっている。ソロでも構成員が一人のチームとしてこの制度が適用される。
最高位であるダイヤモンドランクは、数十年に1度出るか否かの、生ける伝説のようなものだとか。
ランクは一定の条件をクリアすることによって上昇する。ランクダウンは基本的に無く、犯罪を行ったものとかはハンター資格自体が剥奪されることになる。
登録資格には特に制限はなく、前科者や年少者といった例外を除けば誰でもなれるとか。
「要は定職に就けず、ニート……無職になるのを回避したい人たちの避難所みたいなものですね」
「……まあ、そうとも言えますね」
エリンの指摘に5人そろって苦笑した。
成功すれば栄光を手にすることができるが、それはごく一部に限られる。だが、まともな仕事に就けず、それでも一攫千金を狙いたい連中にとっては、肩書も得られるハンターという仕事は理想的のようだ。
憧れを抱いてハンターを志願する者もいるが、ひょっとしたらこの中にもエリンの言うような事情でハンターになった者もいるかもしれない。
もっとも、エリンは皮肉のつもりで言ったのではなかった。
今の自分の境遇からして、ハンターという職種は適していると考えたためである。現代風に換言すれば、フリーランスだったり、短期のアルバイトで日銭を稼ぐフリーターに当たると言える。
誰かの命令に従うのではなく、自由に活動を決定する。こっちでは会社勤めはしたくないエリンに向いているに違いない。
また、所属の縛りもなければ、異世界の各地を訪れることもできるだろう。これもエリンの希望に適うものである。
ホリーの説明が終わる頃には、それらしき建物のそばに来ていた。




