14. 不便な魔法の使い方Ⅴ
〇前回のまとめ
・魔法を組み合わせて雷を落とした。
・バトラーを追い詰めたところでお腹がピンチ。
・後方から新しい人影が5つ。 ←今ココ!
男5人組。おそらくハンターだろう。それぞれのイメージカラーが赤、青、黄、緑、黒……。どこの特撮ヒーローやねん。
男たちの内2人がエリンの横を通り抜け、お尋ね者を取り押さえに行った。
(あぅ、私の報奨金が~)
「大丈夫かい君。我々が来たからにはもう安心だ」
「えっと、どちら様でしょうか?」
顔色が優れないエリンの問いに、話しかけてきた赤ハンターたちが、少しばかり驚いたような表情をした。
何ですか、その自意識過剰ぶりは。自分たちを知らないものなどこの世にいないってか。イキルのもたいがいにせい。
「ふむ、我々を知らないか……。我々は『アドベンチャーズ』。ゴールドランクのハンターパーティーだ。私はヴェイン。一応チームリーダーをやっている」
アベン〇ャーズ? 何ですか、その某合衆国映画のパロディー感溢れるグループ名は。
てかゴールドランクってなんやねん。そーゆークレジットカードでも持ってるんですかね。
「そうでしたか。私はエリンと申します。この度は危ないところを助けていただきありがとうございます。つきましては、そこの獲物は私の物なので返していただけないでしょうか。まさか、食うに事欠いてる貧乏人が苦労してせっかく捕まえた金蔓を横から掻っ攫うつもりだなんて言いませんよね? 皆さんなかなか立派な装備をお召しになっているようですが、今までも他人の成果を横取りしてのし上がってきたのでしょうか。ゴールドランクというのは成金の称号のようですね」
なんて言えたらさぞ良かったことだろう。
実際は――
「あ、そうですか」
コミュ力が決して高くはないエリンは、何と言葉を続ければよいか分からない。
それよりも腹痛の方が気がかりだった。
バドラーを確保しに行った黄色たちが戻ってくる間、赤ハンターことヴェインは、さきほどまで戦場だったその場所を見渡した。
そして、他よりも黒焦げになった地面に目を捕らえられた。
「あれは、君がやったのか?」
「…………知りませんよ。アイツの炎じゃないんですか」
「いや、そんなはずはない。我々は既に2回、アレと戦っている。そのレベルくらい把握しているつもりだ」
「…………(あー腹痛い)」
「それに先ほどの爆音、アレを生み出せるほどの魔法はバドラーには使えないだろう。だとすれば君しかいない」
エリンはヴェインの言葉に返事をしなかった。
別に意図的に無視しようとしたわけではない。確かに、一度つかんだ金づるを持っていかれたという点で、彼らに対する負の感情はあったが。
いや、そんなことよりもお腹痛い。
「おいおい、ハンター同士の詮索はタブーだろ、ヴェイン」
「レフ、この子はハンターではないようだよ。なぜここへ?」
「……人に頼まれて、良い鉄鉱石とかいうのを採りに来たんですよ」
苦しいのを堪えて、エリンはなんとか青ハンターの問いには答えた。もうこれだけで褒めてもらってもよいくらいだ。
ちなみに、レフと呼ばれたのは黒ハンターだ。
「そうか、それでこんなところへ。災難でしたね。あんなのと鉢合わせるなんて」
「いや、何とかなったんで大丈夫です。(あーお腹がヤバイ。はよしてくれ~)」
エリンが男たちとやり取りしていると、黄と緑がバドラーを引っ張ってきた。
すでに抵抗の意思はないようで、しょぼんとしている。
(あ、下の方が)
恐らく落雷の時であろうか。バドラーのズボンは一部だけ変色していた。いくら敵だったとはいえ、その惨めな姿にエリンは憐みの目を向ける。
(うぅ、明日は我が身だよぉぉぉぉぉ)
「おいバドラー、とっとと行こうぜ!」
「ああ」
(あー、はよ行って~。やっと解放される~)
だが、ヴェインは黄ハンターに返事をしてから、エリンの期待に反して再び話しかけてきた。
「君のおかげでアレを捕まえることができた。今日はもう遅いから、明日にでもお礼がしたい。明日の正午に、フェケテの西区にある『白いカラス』という店に来てくれないか」
「……ええ、分かりました」
「それと――」
(まだあるんかい!)
ヴェインは腰にあった短剣を鞘ごと取ってエリンに差し出した。
「鉄鉱石を採りたいなら素手では無理だ。見た感じピッケルとかも持っていないようだから、これを使うといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
「うむ。では、我々はこれで」
エリンは素直に短剣を受け取って、ヴェインにお礼を言った。
そして、アドベンチャーズはお尋ね者をしょっ引いて去っていった。
(やっと、やっとだ!)
エリンは5人プラス1が見えなくなるのを確認して、岩陰に走りこんだ。
ようやく苦痛から解放される。そう思ったその時――
「エリンー!」
モヴィーの声が部屋の入り口から聞こえた。
マズイ。今は……。
「エリンいるー? オイラ、さっきすごい人たちと……、あ」
「……………………死ね」
「ぎゃーーーー!!!」
水魔法の餌食にされたモヴィーの悲鳴が、洞窟の中に響き渡った。
♦
「いやー本当に助かりました。何とお礼を言えばよいか」
シャートフの言葉に、エリンは軽く頷いた。
バドラーを倒し、色々起こった後、エリンは洞窟をさらに奥まで進んで目的物を手に入れた。
鉱物は壁の中に埋まっていたが、ヴェインの短剣を用いて何とか採ることができた。もっとも、その刃はボロボロにこぼれてしまったが。
「それよりも、納期に間に合いそうで良かったですね」
「ええ。グッド子爵様から突然3日で剣を作れと言われたときにはどうしようかと思っていました。おかげで馬車に引き回されなくてすみそうです」
「んんん?」
何か物騒なことが聞こえたような……。
自分が命令すれば何でも言うとおりになるという感覚の貴族からすれば、原材料や製造過程といった、命令される庶民側の事情なぞ知ったこっちゃないのだろう。
そういう奴に限って、自分は欠陥だらけのくせに他人には完璧を求めるんだよ。
現代でもいるよね。年中イチゴが食べたいとか言う輩が。
だからこそビニールハウスとかができたのか。考えてもみると、科学技術の発展って元はと言えば人間の横着を実現させようとしたんだよな。
そういう風にとらえると、我儘を否定するということも一概にはできないだろうな。我慢はおしゃれって言うし。
でも、それはあくまで苦労して作る側にしてみればの話であって、ハナっからその上に乗っかって楽しようとしてる人はやっぱりフォローできないな。
「それで報酬についてですが――」
「おお、エリンよ。無事じゃったか!」
エリンたちがシャートフの鍛冶屋で座談していると、入り口からビッチ爺さんがひょっこり顔を出した。
全くこの爺さんは……。文句を言い出したらキリがないぞ。
「無事じゃったか、じゃないですよ! こっちはモンスターに襲われるは、お尋ね者に殺されかけるはで大変だったんですよ」
「ホォ、それで無地に帰って来れたということは、儂の目に狂いはなかったということじゃな。して、モヴィーはどうした?」
「はて? 一体何のことを言っているんですか?」
「まさかお主、儂の愛弟子を……」
「いえいえ、別に見殺しにしたりはしていませんよ。洞窟を出てから疲れたと言うんでおいてきただけで――」
「モヴィーよ、儂が今行くぞー!」
爺さんはそう言って鍛冶屋を飛び出した。
あれは師弟というより、祖父と孫だな。何にせよ仲が良いのは結構結構。
ちなみにエリンはモヴィーが無事に洞窟を脱出したことは確認していない。
むしゃくしゃしたので、モヴィーを残して先に帰ってきた。さすがにモンスターが出ない辺りまでは近くにはいたから、死にはしないだろう。乙女(?)の操を穢した代償としては軽いものだ。
エリンはゆっくり立ち上がり、家を出ようとしたところで一旦立ち止まって振り返った。
「あ、シャートフさん。依頼報酬については、子爵さんの納品が終わる頃にまたお伺いしますね」
「え? あ、ああ、分かりました。そ、そうですね、できる範囲でお礼をさせていただきます」
シャートフはエリンが黙って帰ろうとしたのを見て安堵の息を漏らしており、エリンの言葉に面喰ってしまった。できれば無報酬で済ましたかったのだろうが、そんな虫の良い話は世の中そうそうない。
とは言ったものの、シャートフは小物ではあるが、別に悪人というほどではない。間違ってお釣りを10円多くもらって喜べる程度の人間である。報酬に関しては、受任者が忘れていれば自分から指摘することはないが、催促されてとぼけようとすることができるような性質でもない。
かなり長い時間洞窟に潜っていたと思ったが、まだ日は高い。
エリンはぼんやりと空を見上げながら街を歩いて行った。
♦
「すみません。貴女はもしかしてエリン様でしょうか?」
エリンが夕方の商店街を歩いていると、不意に声をかけられた。
そちらを見ると、年齢は20代前半といったところか。エリンよりもやや背が高く、大人しそうな亜麻色のボブカットの女性がいた。
(うん、美人。写真撮って待ち受けにしたい)
「あのぉ」
「あ、はい。そうです。私がエリンです。どうされましたか」
エリンが邪念を振り払って応じると、女性は胸の前で手を合わせて顔を輝かせた。
「あぁ、良かった」
「えっと、アナタは……?」
「はい、私はオルティス男爵様の家にお仕えする者で、カーラと申します」
カーラというメイド服の女性は、エリンに一礼して名乗った。
「あー、オルティスさんね。昨日の――」
「その節は大変申し訳ありませんでした!」
「えっ? ちょ、あの……」
カーラが唐突に自分に向かって頭を下げたことに、エリンは動揺した。
ただでさえ目立つ服装をした美女にこんなことをされたもんだから、周囲の視線がチクチクと刺さる。自分が男だったらナイフも刺さってるかも。
「だ、大丈夫ですから。頭を上げてください」
場所を考えてもらわないと返って困る。TPOは大切です。
早速大人しそうだという第一印象を裏切りやがったよ、この人は。
「しかしよく私だって分かりましたね」
「はい。銀色の髪をされた方はこの街では珍しいですので」
「あー、なるほど」
エリンは肩まで伸びている自分の髪を一束指でつまみ、顔の前に持ってきた。
(そういえば自分の髪とか、まだちゃんと見てなかったな)
言われて見ると、確かに銀髪だ。土埃を洗い落とせば、雪原を想起させるような淀みのない白銀になること間違いなし。
グレイヘアーって下手すれば白髪っぽくなる印象だったけど、この色はむしろ若々しさを感じさせる。
このファンタジーの世界では様々な髪色の人がいるが、言われて見れば確かに銀髪は見かけない。
「それで主のオルティス様が、シデラ様を救っていただいた恩人にぜひともお礼がしたいので、家にまでご足労願いたいとのことです」
「それはこちらとしては願ってもないことなのですが、何分このような汚れた格好でして……」
洞窟探検を経てただでさえぼろ切れだった服は、いっそうボロボロになっていた。
「それでしたらお召し物も当方でご用意させていただきますし、ぜひお風呂をご利用ください」
「お風呂…………!」
当分は入浴を諦めなければならないと憂鬱だったエリンは、カーラの申し出に喰らいついた。




