13. 不便な魔法の使い方Ⅳ
〇前回のまとめ
・洞窟の最奥部まで到達した。
・お尋ね者のバトラーと出会った。
・バトラーと戦闘することになった。
「…………なんで逃げなかった?」
「そのセリフだけ聞くと、自己犠牲の捨て駒ヒーローっぽいよね」
「ここはまかせて先に行け」ってヤツ。
そんで主人公が「そんなことできるわけないだろ」とか最初は言っておくんだけど、結局すぐにそいつを見捨てていくんだよね。
そしたらヒロインか誰かが「アンタを置いていくなんてできない」、とか言って戻ってくるの。そこで倒されるかはストーリーによるけど、大抵心中するような、しないような。
「ふ、ふざけてんのかテメェ!?」
「フフ、どうでしょう? それよりもよく私がまだいるって分かったね」
「ケッ、こんな薄汚い場所なのに、女の子の匂いがしたらおかしいと思うだろうが」
「なるほどねぇ」
エリンは昨夜風呂にも入ってないため、自分の体臭が不安になった。
思わず腕のにおいを嗅ぐ。違和感が無いのは、鼻が異臭に慣れてしまっているためだろうか。
やっぱりお風呂に入りたい。何日もお風呂入らんとか信じられんわー。不潔。汚い。バドラー。
あ、魔法があるじゃん。浴槽さえ何とかすればお風呂に入れる! 私って天才! うん、知ってた。テヘペロ。
「よし、あのおっさんを倒すぞ!」
「は? んなもん無理だってもう分かっただろ。逃げなかったことを後悔しろ!
あと俺様はまだ29だ。お兄さんだっ。おっさんじゃねえ!」
ほぼアラサーじゃん。ていうかまだ20代って……。そのトイレブラシみたいな顔はどう見ても40じゃん。
「……なんだその目は!? もう許さねえ。覚悟しやがれ!」
現代の若者(一部)のようにキレ出したバドラーが、火の矢を撃ってくる。エリンはそれらを避けずに氷壁を出した。
矢の数は多かったが、それでも壁を壊すには足りなかった。
エリンは壁から少し身を出して、水流を撃つ。
「ったく、効かねえんだよ、んなもん!」
水流を打ち消そうと、バドラーが火魔法を繰り出した。
だが、水は勢いを失くしはしたもののバドラーに当たった。
「な、水が強くなっただと!?」
(合ってるけど違うんだよなぁ、これが)
バドラーがまた攻撃してくるが、その顔には先ほどまでは無かった焦りが見られる。
放たれた火炎は、エリンの〈南極大陸〉に阻まれる。環境破壊反対。
「違う、俺様が弱くなったのか……? そんな、あり得ない」
「ん~、でも実際そうなってるみたいだよ」
「クソッ、ふざけるなー!」
敵はさらに出力を上昇させた。さすがにこれは耐えきれないと、エリンはその攻撃から逃げた。
「フン。回避だけは一人前だな」
「言えてる」
それはエリン自身もそう思ってきていたことだった。
道中に遭遇するモンスターに対し、ろくに倒せる攻撃できないため、エリンは逃げるしか方法を持たなかった。そのせいもあってか、相手の攻撃を予測し、それに合わせて体を動かすということが上手くなっている気がする。
さらに攻撃しようと呪文を唱え始めたバドラーの鼻頭に、ぴちょんと水滴が落ちた。
何事かと天井を見上げ、バドラーはハッとした。
「雨雲? おいおい、ここは洞窟の中だぞ……。そうか、そういうことか!」
バドラーはククッと笑ってエリンの方を向いた。
ここで闘っている最中、それぞれが光魔法で真っ暗な地下空間を照らしていた。そのために意識が天井に向かうことはなかった。
地下深くにあるその部屋の天井は、灰色の雲に覆われていた。
「さんざん火をぶっ放してるのに、やけにジメジメすると思ったぜ。雨を降らせて俺様の火魔法を弱らせようとしたんだな! 器用なマネしやがる!」
「うーん、30点!」
「はあ?」
「あ、もちろん100点満点ね。50点満点とかじゃないから」
「そっちじゃねえよ!」
エリンの言葉に、バドラーは不快な色を浮かべている。
雲というのは端的に言うと、空気中の水蒸気が上昇し、上空で温度が下がったところで、空気中のゴミの周りに集まって水滴や氷の結晶となって現れてできたものだ。
確かに、前世の知識で雲の原理を知っていたエリンは、舞い上がった土埃を絡めた水魔法をバドラーの火に当てることで蒸発さた。そして、その水を支配下に置いたまま、上昇して天井付近に到達したところで温度を下げ、雲を作った。
もっとも、それはあくまで次のステップへの過程に過ぎなかったのだ。
ゴロロロロ……
「…………ま、まさか、雨雲じゃなくて、雷雲か?」
「せいかーい!」
エリンの陽気な声が、湿度が高まった部屋に響く。
天井を覆った雲は黒くなっていた。
バドラーは逃げようとするも、足が凍っていて動けない。
「クソッ! いつの間に!?」
「ふっふっふー、さっきアンタにかかった水を凍らせたのさ。呪文に時間がかかるアンタじゃ、もう間に合わないよ!」
バドラーは顔を歪め、エリンを睨みつける。
だが、最早エリンという名の猫にひれ伏すネズミでしかない。
おっさんの鋭い目など、今のエリンにとっては蚊よりも弱かった。
「さっき何で逃げなかったかって聞いたよね。その答えを教えよう! 私が勝つからだ!くらえー!!」
ドゴーーーーーン
動きを封じられたバドラーめがけて、雷が落ちた。振動と轟音が響き、砂塵が舞い上がる。
やがて砂埃が収まり視界が開けると、そこには感電したお尋ね者が――
「あ、外した」
落雷の跡は、バドラーからちょっと離れた所にあった。
だが、その衝撃と爆音により、バドラーはヘナヘナと腰を抜かして座り込んでいた。
「あーあ。やっぱりぶっつけ本番じゃ、厳しいか。本物よりもかなりショボかったし。くそう、上手くいったら“自然の力はスゴイんだぞ作戦”って名付けようと思ってたのに…………。ま、動けなくなってるみたいだから今のうちにっと」
エリンは黒く焦げた地面の上を歩いて、お尋ね者に近づいた。バドラーは口をワナワナと震えさせ、顔を青くしている。
「お尋ね者を捕まえたら報奨金がもらえるとか本人が言ってたから、また儲けさせてもらいましょうかね。どのくらい貰えるんかいな。日本の指名手配犯がだいたい高くて300万円とかだよね。さすがにそんなにはないとしても、100万くらいはいくよね?」
「おおお、お前、一体何者だ? 雷使いが何でこんなとこにいやがんだよ……?」
「今度は誰と勘違いしてるか知らないけど、私は雷使いとかじゃないよ。雲の中でいい感じに風魔法を使って静電気起こしただけだし。
ま、科学が発展してなさそうな世界で、自然の原理について説明するのは難しそうだから、そういうことにしておいても良いのかな」
「な、何言って……」
「さて、大人しくお縄に――」
ぐーぎゅるぎゅるるる~~~
「うぐっ!」
今度はエリンの顔が青くなった。
恐らく、ここに来る前に食べた物が悪かったのだろう。
「あんの爺……!」
実際にはビッチ爺さんの料理が、腹部からの奇襲の原因とは必ずしも限らない。
それでも、エリンには爺さんの食事のせいとしか思われなかった。
「なんで、こんな時に……」
「ケケッ、何だかよく分からねえけど形勢逆転だな!」
エリンの様子がおかしくなったのを見てバドラーが叫んだ。
ちょっと涙目になってるけど。腰抜けたままだけど。
スッ
「――え?」
魔法でどうにかトドメを刺そうとしたとき、何かがエリンの顔の横を通り抜けた。
「ぎゃわっ!」
驚いたエリンは目を瞑ったが、何かが体に当たったような感覚もなく、代わりにバドラーの悲鳴が耳に入った。
「ん?」
目を開けると、エリンの間の前にいたはずのバドラーが、壁際に飛ばされていた。
(一体何が……?)
そう思った時、後方から人の声が聞こえた。
「おーい、大丈夫かー?」
そちらに目をやると、5つの人影がこちらの方へと近づいてくるのが見えた。
「何者……!?」
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