106. 異世界に来たってお金が欲しいんです!
ここは、【ケークタウン】の東方にある小さな町。
この町のギルドの中で、スーパーランクのハンターパーティー『トリコロール』は、お金を稼ぐために依頼書を物色していた。
「えっと、この中で一番報酬が高いのはこれですね」
「「どれどれ」」
空色の髪の少女・ジェイラが指した先を、パーティーの仲間であるエリンとダーシャが見つめる。
『依頼主:パラケルス
目的:武器の調達
場所:スルケタウン
制限:なし
難易度:スーパー~ハイパー
報酬:200,000フォート +α
補足:詳細はパラケルスまで 』
「報酬20万フォート……! 5割差っ引いて10万フォート!!」
「プラスアルファってのが気になるわね。内容が良ければ追加報酬がもらえるのかしら?」
この依頼を逃すと、他はせいぜい3万フォートまで下がってしまう。
ただ、高額な依頼には相応の理由がある。難易度は決して高くないとはいえ、注意しなければならない要素は他にもある。金額だけ見れば、こんな美味しい依頼が残っていることを怪しむべきなのだ。
「ねえ、【スルケタウン】ってどこ?」
「えっと、たしかこの町を北に進んだ先にある町です。町というよりは集落ですかね。ドワーフたちが集まって暮らしてます」
「ドワーフ!? ドワーフとは、あのドワーフですカ?」
ものすごく興味を引かれる単語に、エリンのイントネーションが狂った。
これまで魔族や獣人、それにエルフといった様々な民族と出会ってきたが、ドワーフはまだ見ていない。様々な種族が集う【フェヘールシティ】には数人くらいいたかもしれない。だが、生憎エリンと邂逅を果たすことはなかった。
「ドワーフはドワーフですよ。他に何がいるんですか?」
「うぇーい!! これでまた図鑑完成に一歩前進だよ!」
「「ズカン?」」
もちろんエリンは出会ったモンスターの生態を記録するハイテクな機械なんて持っていないし、この世界にそんな代物が存在するはずがない。
そもそも、どれだけのモンスターが存在しているのかということを知らないので、完成を成し遂げたとしても気付くことはできないのだが。
(ここでドワーフに会えたら、残すはダークエルフやドラゴンってところだね。妖精とか小人とかもいたりするのかな? う~ん、楽しみだ)
なお、実際に交流できるかは別問題。
自分の世界に没入して訳の分からないことを言い出したエリンは、放っておくに越したことはない。エリンが聞きなれない言葉を口にするのは珍しいことでもないので、いちいち追及することもなかった。
「ちなみにジェイラ、ここからだと移動にはどれくらいかかるのかしら?」
「一般的には片道10日くらいと言われていますね。とは言っても、わたしたちには関係ないですけど」
最後に付け加えた一言に、ダーシャが苦笑いする。『トリコロール』はエリンの操るスケボーに乗って空中を高速で進むことができるため、標準時間よりもずっと早く移動できるのだ。
実際、彼女たちは【ケークタウン】からこの町に来るのに費やした日数は1日にも満たなかった。これが一般的な人なら、歩いて7日はかかるところだというのに。
ただ、これでこの依頼が避けられている理由が分かった。
移動だけで往復20日。そうすると、1日当たりの報酬はスーパーランクでも5,000フォートとなる。長距離の移動ともなると、それだけ道中で盗賊やモンスターと遭遇するリスクが跳ね上がる。
そりゃあ、他のハンターたちが嫌がるはずだ。『トリコロール』とて空中スケボーがなければ、この倍の金額を積まれなければ応じることはなかっただろう。
「じゃ、今回はこの依頼を受けるということでいいわね。一応、念のために依頼主のところへ確認に行きましょう。このプラスアルファってのも気になるし」
「「はーい」」
♦
ということで、依頼主であるパラケルスという人が営む商店までやって来た『トリコロール』。
クライアントは武器商ということで、店頭には剣や槍といった様々な武器が陳列されている。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃい。何をお探しですかな」
応対に出てきたのは中肉中背のおっさん。もみ手をしながら、細くつり上がった眼を向けてきた。
「あの、私たちはスーパーランクの『トリコロール』と申します。ギルドから依頼を受注しようと参りました」
「おお! あなたたちが受けてくださるのですか! こんなにも早く受注してくださるなんて思ってもみませんでした。ささ、こちらへ」
3人は武器商のおっさんに店内へ招き入れられ、奥にある椅子にまで案内された。遠慮なく腰掛けると、そのおっさんが反対側に腰を下ろす。
「申し遅れました。私が依頼主のパラケルスです。皆さんはスーパーランクのようですが、あまり見かけないお顔ですね。もしかして他の町からいらしたんですか?」
「はい。旅の途中で立ち寄りまして、ついでに依頼を受けて行こうと」
「なるほど。そうでしたか。何もない小さな町ですけれど、ぜひ楽しんでいってください」
エリンの答えに、パラケルスは口元に笑みを浮かべる。
「それで、今回の依頼の件についてなんですけど……」
「ああ、そうでしたね。皆さんにお願いするのは、依頼書にもあった通り、【スルケタウン】で剣を購入していただくことです。ドワーフの名工たちが造った剣はハンターさんや憲兵さんに人気が高いので、すぐに売り切れてしまうのですよ」
「だいたい何本くらい買ってくればいいんですか?」
「そうですねぇ、多いに越したことはないですが、最低でも5本は欲しいところです」
自分たちへの依頼料だけでもコストがかさむはず。だが、ドワーフ製というブランドがあれば多少高額でも売れるだろうし、値段を高めに設定すれば十分に元が取れるという計算なんだろうか。
こんな小さな町に需要があるのかと疑問にも思われるが、卸売として他の町の商人へ転売するという方法も考えられる。彼も商人だ。自分が損するようなことはしない。
「あと、報酬のプラスアルファについてなんですけど」
「ああ、それは購入に費やした額のことですよ。経費としてこちらが負担します」
(ということは、ちゃんと領収書もらってこないとね)
購入費用をかさ増ししてやろうか、なんてことは思うだけで実際にやったりはしませんよ。実際にはかかってない交通費などの経費を要求することはあるかもしれませんが。
その後もパラケルスから簡単な説明を受けて、『トリコロール』の3人はお店を後にした。
「たまたま立ち寄っただけの町でしたけど、思いの外おいしい依頼があって良かったですね」
「この調子でおいしい依頼をこなしていけば、借金完済も近いわよ!!」
少し前までの暗澹たる気持ちはどこへやら。青写真に思いをはせ、足取りも軽くなっていた一行。
「余った分は自分たちで売れば、さらにお金を稼げますね。3,000万なんて一瞬ですよ!」
「フッフッフ。借金がなくなったら、お腹いっぱいケーキを食べてやるんだから!」
「ドワーフドワーフ」
お金がたくさんもらえる。ドワーフに会える。
その思いに頭を支配され、必要な下調べを怠ったのはエリンだけでなくダーシャたちにも非があるといえよう。
そもそも自分はこの世界の常識に欠けているのが当たり前。困ったときはジェイラたちがなんとかしてくれるだろう。そんな甘えがあったのも否定できない。
きちんと事前準備をしていれば、避けられたはずのトラブルに悩まされることもなかったはずだというのに。




