再会と祝福
酒場の賑わいを抜ける。古代の剣を回収したクバトは、鎖魄衆が拠点の一つとして貸し切っている宿屋に戻っていた。
階段を上がり、資料室として使用している部屋のドアを開ける。古紙とインクの匂いが鼻を突いた。積み上げられた書類の隙間を縫うように、西日が差し込んでいる。
「おかえりクバト。首尾はどうだったかな」
書類が積み上がった机の側に、小さなサマラ族がちょこんと腰掛けている。彼はクバトを認めると、ひょいと椅子を降りた。
「いたのかミルロ。報告書は上げたはずだが」
「もちろん見たとも。だが肉声に勝る情報はない。面白いルーキーと出会ったそうだな」
ミルロ、と呼ばれたサマラ族の男は、踏み台を引き寄せ紅茶のポットを手に取った。注がれた茶から、ふわりと湯気が立ち上る。
「……そうだな。なかなか見所がある若者達だった」
「そうか。私も会うのが楽しみだよ。──して、情報は〝それ〟かな?」
それ、とミルロが指したのは、クバトが回収した古代の剣だった。
「解析は済んだのかい?」
「ああ。今しがたな」
クバトは書類を避け、剣を机に置く。ごとり、と鈍い音がした。
「──それで、結果は」
「当たりだ。神話時代、初めて竜を殺した人間──名をカドラス」
机に置かれた剣を見下ろす。刀身に刻まれた文字が、ぼんやりと笑っているようにも見えた。
「…恐ろしいな。いつの時代も、力というものは」
「…全くだ」
夕陽が差し込む。二人の影が暗がりへ誘うように伸びていた。
******
星闇の下、窓辺に座って双剣を磨いていると通りから見覚えのある人影が見えた。シグネとシウルだ。手には大きめのバスケットを持っている。
ガジに伝えると、「そうか」とだけ言って階下へ降りて行く。心なしか、足取りが急いでいた。
扉を開けて快く出迎えると、三人は再会を強く喜んだ。
「ガジ、久しぶりだ…!」
「心配かけちまったな」
「いいさ…こうしてまた会えたんだ」
シウルとガジは固く握手を交わした。シグネも涙を浮かべて喜んでいる。がっしりとした大きな手と、それを包む小さな手。長い時間を経た友情が、そこに表れているようだった。
「キミ達のおかげだね。きちんとお礼をしなきゃ!」
シグネはぱん、と手を叩き、ティファとトリューに笑いかけた。ガジはずっと困ったように頭を掻いていた。それがなんだか可笑しかった。
「まずは、冒険者カードを返そう。検定結果も登録してあるよ。採点の結果、ティファくんが三級、トリューくんが四級だ」
はい、とカードを手渡される。見た感じ、登録前と変化はない。聞いたところ、登録内容は魔具で管理されているらしい。
「すげー。ティファ三級だって」
「回復使ったから?」
「その通りさ。回復魔法を扱える者はとても希少なんだ。途方もない知識が必要だからね」
大した回復はできないのにな、と呟くと、シウルにぽん、と頭を撫でられる。大きな手に包まれて、温かい。
「それは君の努力の証だよ。十分に誇れる魔法さ。自信を持って」
ね。そう結んだシウルの笑顔に釣られて、ティファも頬が緩んだ。──なんだか、シスターに似ている。
「そうだ。冒険者ランクだけれど、これは活動結果によって随時変動するよ。君達ならガジと同じAランクも夢じゃないさ」
「ガジってAだったの?」
「ガジすげえ!」
「昔の話だ」
一流の鍛冶師で、元ベテランの冒険者。これ以上なく頼もしい仲間だ。巨体でずっとむず痒そうにしているのが、どうにも微笑ましく見えてしまった。
「さて、私からはお待ちかね! 竜の眼に関する情報だよ!」
「おお! ありがとうシグネー!」
シグネは両手を広げて自慢げなポーズを取って見せた。トリューは手を叩いて称賛している。
「ただ…一つ謝っておく。竜の眼の在処を直接示すような情報じゃないんだ。そこだけは勘弁しておくれ」
「じゅーぶんじゅーぶん! 今まで何も手掛かりなかったし!」
申し訳なさそうに耳を伏せるシグネに、トリューはにっと笑って返した。安心したようにシグネは続きを話し始める。
「では、お伝えしよう。古代竜に関する遺跡が、ドルサ連邦国にある。ここからはかなり遠いが──出入国や向こうでの冒険者活動にも支障がないよう、最大限協力させてもらおう」
「助かるぜ、シグネ」
「ほんとありがとな!」
ガジとトリューは揃って礼を述べた。シグネは得意そうな、嬉しそうな顔で終始にこにことしている。
「ドルサ連邦ってどこ?」
「ここからだと、西の方角だね。国境を越えた山岳地方だよ。景色や気温もがらりと変わるぞ」
シウルが補足を足してくれる。現在地のスコーグスローとは、だいぶ違う地形のようだ。
「かなりの長旅になる。しっかり準備してから行くといい。だがその前に──」
「再会を祝さなくちゃね!」
夫婦揃って、バスケットから酒瓶を取り出した。赤いボトルに小綺麗なラベル。ワインのようだった。
「ティファちゃんもしっかり成人だからね! 遠慮なく飲んでよ!」
「まぁ…少しくらいなら…」
「さあ、トリューくんもだ。こっちへおいで」
「え、俺も?」
「せっかくだ。付き合え」
床に色とりどりのつまみや追加の酒瓶を並べ、すっかり宴会状態だ。グラスの触れ合う音、笑い声、ガジの低い笑い。窓の外では星が瞬き、部屋の中では温かな灯りが揺れていた。
その日は遅くまで、明かりが消えることはなかった。




