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やどりび  作者: ファット爺
第五章
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追う者と追われる者

 翌朝、ティファとガジは調整を終えた義眼の装着に向かった。トリューは既に、指定ポイントで活動を始めている。

「どうだ」

 ゆっくりと目を開ける。映った景色は、両眼が見えていた頃の視界と何ら変わらない。

「すごい…ゴロゴロ感もない。ありがとう、ガジ」

「俺の仕事だからな」

 当然のように答えて、ガジは工具の入った袋を担いだ。

「じゃあ俺ァ次の仕事だ。捜索がんばれよ」

「うん。行ってくる」

 そう言って、ティファはノイルの捜索に繰り出した。

 トリューが目立つ行動で獲物を追い込む間、ティファは地道に聞き込みと観察を続ける。

(人混みにはそう現れないはず…)

 地図を見ながら、裏路地を中心に走り回った。


******


「クソッ…なんなんだあのガキ…!」

 忌々しそうに舌を打つ。金の逆立った髪にバンダナを巻いた青年が、自分の似顔絵を大声で公開している。木箱に入れた盗品を大事に抱え、裏路地に身を隠した。

(これじゃあ取引に行けねえじゃねえか…! どうにかしねえと…ッ)

 仲介屋に紹介された買い手との待ち合わせ時間は、今夜。手早く盗品を換金して、都市を離れなくてはならない。

 しかし、あの青年のせいで思うように動けない。このまま買い手と落ち合えば、目撃される可能性が高い。そうなれば、逃走はより困難となる。

(まぁ俺なら逃げ切れるが…あんまり派手にやって軍に目ェつけられるのはゴメンだしな…)

 仕方なく、仲介屋の元へ戻って待ち合わせの日時を変更することにした。木箱の取っ手を持ち、路地の奥へと歩みを進める。狭く入りくんだ道だが、都市の地図は全て頭に入っている。

 安心して進んでいると、ふっと影が差した。同時に、うなじの毛が逆立つ。──何かが不味い。

 そう思って足を止めた瞬間、衝撃が降って来た。すんでのところでかわすと、土煙が上がる。足音は、ついぞ聞こえなかった。煙から現れたのは、長い白銀髪の少女だった。

「外したか」

「チィ…ッ!」

 身なりからして、冒険者だろう。自分の似顔絵を公開していた男のせいだ、と苦々しく舌を打った。

 ノイルは腰からナイフを取り出し、少女の追撃を何とか受ける。──だが、強い。殺さないよう、傷つけないよう、加減されているのがわかる。

 しかし、これでも元同業者だ。ノイルは少女の一瞬の隙を突き、横道に入った。それでも少女は追って来る。

(こうなったら…!)

 あまり手の内は晒したくないが、仕方がない。逃走用の魔法を展開しようと術式を構えたところで、もう一人に行く手を阻まれる。

「クッソ…仲間か!」

 挟み撃ちにされてしまった。正面には、もう一人体格のいい中年の双剣使い。背後には少女の双剣使い。逃げ場がない。

「その木箱を寄越せ」

 男は低く呟いて、斬りかかって来る。少女の方より、圧倒的なパワーだった。狭い路地で、避けるのが精一杯だった。

「おい! 邪魔すんなお前!」

「そちらこそ手出し無用で願いたい」

 ──仲間割れか、それとも違うのか。どのみち、隙ができた。今の内だ。

 ノイルは二人の間を抜け、さらに路地裏の奥へと走り去る。二人も追って来るが、術式はもう用意してある。

「おっさん邪魔だ!」

「そっちこそ」

 言い合っている今がチャンス。ノイルは、自身の体に刻んだ術式を発動した。

 直後、二人の足は縺れ、少女は転び中年の男は壁に手をついた。──よく効いている。

「ひゃはは! あばよ!」

 下卑た笑いを残し、ノイルは暗闇に姿を消し去った。


******


 ──頭が痛い。ぐらぐらして、目が回る。頬に触れる地面はひんやりと湿っていて、土の匂いが鼻を突いた。

 ノイルを追っていたら、突然平衡感覚を失い、酩酊に似た状態に陥った。──なんだったんだ、あれは。

 ようやく感覚を取り戻し、ティファは起き上がる。隣にいる男も、回復したようだ。

「お前も賞金狙いか」

 相手は賞金首だ。競争相手がいることは把握している。だが、できれば足の引っ張り合いはしたくない。そう思って声を掛けた。

 男は鋭い目付きで、いかつい顔をティファに向けた。

「……いいや。我々の目的は盗品の回収だ」

「〝我々〟?」

 引っ掛かりのある言葉に、座ったまま首を傾げた。男は腰に手を当て、一つ息を吐いて続ける。

「貴様には関係のないことだ。賞金ならくれてやる。だが、古代の剣は渡せない」

「ああ…なら別にいいよ」

 元々、盗品は回収したらギルドに提出の予定だ。興味もない。「なら協力しないか」と持ちかけてみた。男は短い髭を撫で、少し考える素振りを見せた。

「……いいだろう」

 交渉成立。向こうで活動しているトリューと合流し、情報交換をすることにした。


「へー、おっさんも双剣なんだ。俺トリュー。よろしくな」

「クバトだ」

「私はティファ。クバトは、ノイルについてどこまで知ってる?」

 広場の片隅、静かな公園で軽く自己紹介をした。クバトはティファと同じように、仲介屋を当たってノイルを探していたらしい。

「その逃げられた時のやつってなんなの? 何かされたのか?」

「それがわからないんだよな…普通に追いかけてたら突然…」

 思い返してみても、魔法や何かを掛けられた心当たりがない。あの短時間で気づかれずに掛けられる魔法なら、余程高度だ。

「恐らく地雷型か、刻印型だろうな」

 クバトには心当たりがあるようだった。話を聞くと、ノイルは幾度もその方法で追っ手から逃れているらしい。

「予め術式を刻んでおいて、任意のタイミングで発動するタイプの魔法だ。種類は固定されるが、構築の時間がない。奴は逃走に特化した魔法を自身に刻んでいるんだろう」

「なるほど…」

 そしてその発動条件は、恐らくノイルを『見る』こと。二人同時に引っ掛かったことにも、説明がつく。

「ギルドが何度も取り逃がしているわけだ。本人の戦闘力は大したことはないのだがな…」

「えー、じゃあ捕まえられなくね?」

「そうでもないだろ」

 悩ましげな二人に、ティファはそう答えた。

「何か作戦があるのか」

「うん。まず──……」

 クバトに作戦を話すと、彼は不審そうにティファとトリューを見た。トリューは「ティファ頭いー」と楽しそうだ。

「本当に上手くいくのか?」

「まぁ、大丈夫だろ」

「おう! いけるいける!」

 クバトは最後まで訝しげだったが、結局は了承した。

「明後日は魔法検定だ。できれば今日中に捕まえよう」

 よし、と気合いを入れて、三人は歩き出した。先導するクバトの背にふと目を留める。

 ──〝我々〟、か。この男は一体、何者なのだろうか。

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