二度あることは
再びギルドの二階に到着した一行は、ガジの案内で依頼を検索することにした。目の前の台座には、大きめの球体が乗っている。占い師が使っていそうだ。淡い光を内側に閉じ込めたようなその表面は、触れる前から微かな緊張を誘った。
「どうやって探すんだ?」
「紙じゃねえの?」
「その差し込み口に冒険者カード入れてみろ」
その、と指差された場所に視線を向ける。台座の上部に、横に細長い穴が空いている。これだろうか、とカードを差してみる。
ヴン──……
「わ」
「なにこれ」
球体が鈍い駆動音を立てたと思ったら、空中に映像が映し出された。そこには『ティファ・キルメリア』『ランクF』などと書かれている。
「ランク?」
「冒険者としての等級のことだ。登録したてだからな。地道にこなしてりゃあすぐに上がる」
「この後は?」
「クエストっての押してみろ」
言われた通りに押し進める。映像が切り替わり、表示は『討伐』『採集』『製作』『捜索』『護衛』『その他』となっている。
「なるほど。ここから選ぶのか」
「そうだ。条件を選べば受けられるクエストが表示される」
「すげー、便利ー」
辺境では考えられない文明レベルに戸惑うことは多いが、不思議とすぐに順応できた。こういった機能もなぜだかスムーズに操作できる。
まず『討伐』と入力したところで、気になる項目を見つけた。
「通常と…賞金?」
なんだろう、とどちらも入力して結果を見てみる。球体の光が画面を形成し、一覧を映し出す。魔物の名前、地域が縦にずらりと並んでいる。
「映像を手で横に流せ。詳しい情報と対象図が出る」
「おー」
ひょい、と空中に映された映像を撫でる。表示が流れ、魔物の絵と生息域、報酬などが新たに現れた。それをどんどん下に流していく。ヴァルモンス周辺の討伐対象は見当たらない。
ふと、流れる映像の中に見覚えがある魔物を見つけた。
「あれ?」
「あ、こいつ」
対象:ラギュロス
熊のような体格に、うさぎに似た長い耳。よく覚えている。レフテオの村に向かう途中の山で襲われた魔物だ。あの時は全く歯が立たなかった。
ぞわり、と首筋の産毛が逆立つ。忘れていたつもりの記憶が、絵姿一つで鮮明に蘇ってきた。
「賞金、金貨14…」
「推奨ランクB…」
「なんだ、会ったのか」
「うん」
「思いっきり逃げた」
「こいつ賞金首だったのか」
「相当被害出てるからな。よく生きてたもんだ」
実際死にかけたが、トリューのおかげで生き残った。今なら戦えるだろうしリベンジはしてやりたいが、ここからでは遠すぎる。
諦めてヴァルモンス周辺の討伐依頼を探したが、目ぼしい依頼は見当たらない。
「ギルドっていっぱい依頼あるんじゃないのか…?」
「討伐に限定するからだ。中央都市だぞ。こういうのは特に早いモン勝ちだ」
「そっかぁー」
「むぅ…」
都市が大きく人口も多いだけに、競争率も高いというわけだ。ティファは検索範囲を広げ、『捜索』に切り替えてみた。
捜索クエスト検索──結果172件。
「多すぎじゃね」
「絞り込むか」
ヴァルモンス周辺──結果89件。
「需要多いのか…?」
「見てみれば?」
スッ、と一覧をスライドする。正面に現れたのは、丸々とした小鳥の絵図だった。
【捜索依頼】
シマエガのピーちゃん
【報酬】
銅貨5枚
「見つかるかそんなもん」
「野生に帰せ」
呆れて別の依頼を流していく。街が広すぎる故に、迷子のペットや失くし物の依頼ばかりが山のように積まれているようだ。こんなものを一から探していては、日が暮れるどころか破産してしまう。
ティファは反対に検索範囲を狭め、ヴァルモンス周辺でまともに稼げそうな依頼を片っ端から探すことにした。
「じゃあオメェら後は自分でできるな。俺は別の依頼探してくる」
「えっ? ガジ一緒にやらねえの?」
「捜索だの採集だの、細々した依頼ならオメェらだけで十分だろ。俺ァ製作で日銭稼ぐ」
「そっかぁー」
「有能…」
「ついでにティファ。義眼の調整もするから後で医者行くぞ」
「うん、わかった」
そう言ってガジは空いている球体へ向かって行った。トリューにも依頼を探せと言ってみるが、「こういうの苦手」とだけ返ってきた。
「覚える努力をしろよ」
「できる奴がやればいいじゃん」
「覚えればお前もできるんだよ」
「あ、なぁこれ」
片手で表示をスライドさせていた先をトリューが止める。操作できるんじゃないかと横目で睨んだ。
「こいつ金貨8枚だぞ」
ほら、とトリューが指差した先を見る。そこに表示されていたのは、指名手配犯だった。
【対象】
氏名:ノイル・ハーディ
身長:164cm
性別:男
年齢:34歳
【報酬】
金貨6枚
【賞金】
金貨2枚
【達成条件】
対象の確保、及び盗品の回収
「賞金首ってことか?」
「何したんだこいつ」
対象映像に写る男は小さく細身で、糸のような目が鋭くつり上がっている。経歴を見ると、元冒険者が窃盗を繰り返して除名されたらしい。現在、盗品を持って逃走中。ヴァルモンスにて目撃情報あり──……
「ここじゃん」
「こいつ行くか」
受注を入力すると、台座のカード差し込み口の下にある穴から紙が出てきた。ぺらりとめくると、そこには先ほど映像に写っていた情報とノイルの顔が描かれていた。
「都会ってすげー」
「便利だなぁ…」
これが依頼書に相当するのだろう。「よし」と小さく呟いて、台座の終了ボタンを押し、冒険者カードも忘れずに回収した。
時を同じくして、ガジも受注を終えたようだった。手には何枚かの紙を持っている。
「決まったか」
「うん。これにした」
「ほう、指名手配か。面白いの選んだな」
「ちょうどここにいるらしい」
「まぁがんばれよ。俺ァ手伝わねえからな」
「おう! そっちもがんばれ!」
ごんごん、と音がするほどに拳でガジを叩いている。方針が決まったところで、次は宿屋を探すことにした。
慣れたガジの案内で簡単に宿に到着し、荷物を置く。
次いで義眼の調整だと言われ、『医命館』という医療総合施設にやってきた。そこで視力と目の状態検査を受け、外した義眼をガジに渡す。
ガジはトリューの槍に軽く布を巻き、「気をつけろ」と言って持たせた。そして、そのまま調整に入ると施設内に戻って行った。
「左目なくて大丈夫?」
「まぁとりあえずは情報収集だし。ガジがいないと迷うから、地図は買おう」
義眼を外した左目には、以前のように眼帯を巻いた。一度先ほど買い物をした市場まで戻り、街の地図を購入。全体図を見ると、体感以上に広く大きい。
「どうやって探す?」
「まぁ…聞き込みじゃないかなぁ…」
誰かに聞いて見つかるような場所にいるのなら、とっくに捕まっていそうなものだが。地図を畳み、ベルトのポーチにしまう。
「広場の場所はわかるか?」
「あっちだろ?」
「そう。二手に別れて聞き込みしよう。それで──……」
続きを言い掛けて、固まった。嫌なことに気づいてしまったかもしれない。
「どした?」
「……依頼書が…一枚しかない…」
「あー…」
人探しの情報収集だ。二人一緒に行動する意味はほとんどない。その上、ヴァルモンスは広大だ。
「……」
「……」
「戻るか…」
「そうだな…」
二度あることは何とやら。本日三度目のギルドへの足取りは、過去最高に重かった。




