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やどりび  作者: ファット爺
第五章
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三者三夜

 クーホルムの群れを一掃してからしばらく進んだ頃、小さな町が見えてきた。

 中央都市に近づいている影響なのか、今までの村とは造りが違うように感じる。

 建物は煉瓦や石造りが増え、人の往来も多い。屋根の色も赤や青と様々で、遠目にも賑やかな彩りを放っていた。市場らしき通りからは、香辛料の匂いと呼び込みの声が混じり合って漂ってくる。初めて見る種族もたくさんいた。

「動物の耳…?」

 失礼だとは思いながら、すれ違う女性の頭部をじっと見る。猫…もしくは犬だろうか。柔らかそうな獣毛に包まれた尖り耳が、頭部から突き出している。

「ウーレ族だ。初めてか」

 ガジに尋ねると、そう答えてくれた。他にも、マハトと同じサマラ族──それから、どう見ても頭から葉が生えている生物が、荷車で仕分けをしている。

 小さい。サマラと同程度だ。魔物…ではないのだろうか。害はなさそうに感じる。

「ガジ…」

 ちょい、と腕をつつき、その生物に視線を送る。暗に何かと尋ねてみた。

「ああ、ゾアか。ヒトじゃねえが人類だ。襲うなよ」

 ゾア。確か、本で読んだことがある。ヒトと同じ知性種だが、体構造と生態系が異なる種族──だったような。

「いろんな奴がいるなぁ」

 トリューが感嘆を上げる。辺りをきょろきょろと見渡して、楽しそうだ。

「あいつはドライアド族だ。商人が多いから、都市に行きゃあ山ほどいる」

 そう言って、ガジは町中へと足を進めた。ティファとトリューも、その大きな背中についていく。

「どこ行くんだ?」

「まだ昼過ぎだ。町を抜けて夜営すりゃあ、明日には都市に着ける」

「思ったより早いんだな」

「荷馬車乗せてもらったもんな」

 活気のある町は魅力的だったが、先へ進めばさらに大きな中央都市へ着く。

 魔法収納具という便利な道具も早く欲しい。期待に胸を膨らませ、一行は先を急いだ。

 町の門を抜けると、喧騒は嘘のように遠のいた。石畳が土の道に変わり、香辛料の匂いの代わりに、乾いた草の匂いが風に混じる。


 やがて日が暮れる。空の端がじわりと橙から紺へ変わり、周辺の明かりもなくなったところで、街道を外れ夜営をすることにした。

 クーホルムの襲来はあったものの、比較的治安のいい街道だとは聞いていた為、狩りに頼る必要はないと判断していた。予め食料は調達を済ませておき、ロッカルプでもらったサンドイッチも残してある。

 ティファ達は焚き火を囲み、それぞれ食事の準備をした。パチ、と薪が爆ぜる音がして、火の粉が夜空に舞い上がる。

「この辺でも夜は冷えるな…」

「風を塞ぐモンがねえからな」

「ティファー、木杓子ー」

「はい」

 鍋は、ガジが大きい物を持っていたのでそれを使用した。トリューは買った野菜や調味料を煮込んで、スープを作っている。ぐつぐつと立ち上る湯気が、冷え始めた空気に甘い匂いを溶かしていく。

 ティファは鞄から食器類を取り出しながら、ふと手を止める。ガジの鍋があるなら、この小型の鍋はもう必要ないのでは。

 旅の同行者が増え、一緒に食事をする以上、一度荷物の整理を考えなくてはならないかもしれない。

 しかし、せっかくノノアや村のみんなが用意してくれた物だ。必要ないからと簡単に切り捨てたくもない。

 うーんと首を傾げていると、ガジから声が掛かる。

「どうした」

「あー…実は…」

 事情を話すと、ガジは「そうか」と頷いた。トリューは「ティファって物持ちいいんだな」と感心していた。

「じゃあそれ寄越せ。溶かして別のなんかに作り替えてやる」

「いいの?」

「構わねえ。物を大事にする奴ァ嫌いじゃねえ」

 ガジの口元は優しく緩んでいた。ティファは心から安堵して、礼を述べた。

 そしてそれなら、ともう一つ頼みごとをしてみる。

「じゃあ、弓はどうだ。矢がもうないんだ。耐久力も落ちてる」

「見せてみろ」

 はい、とマント裏のベルトに括った弓を手渡す。自分が獲った鹿の角を使って、ザウロが作ってくれた弓だ。メイン武器は双剣だが、これも幼い頃から積み上げてきた技術であり、ティファの宝物である。簡単には手放せない。

「木製か…木は命そのものだからな。溶かして差し替えりゃいいってモンでもねえ。ちと厳しいな」

「やっぱ無理か…」

「できねえとは言ってねえ。俺に預けろ」

 ガジは自信を持ってどん、と胸を叩いた。さすが一流、とティファは顔を綻ばせた。

「もういいかな。できたぞー」

 トリューの合図で、スープが皿に注がれる。相変わらず、いい匂いだ。一口含んだガジも感心していた。

「ほう。うめぇもんだな」

「だろー? 先に炒めるのがコツ」

「へえ」

 ただ突っ込んで煮ればいいと思っていた。その一手間でこんなにも違うものか。自分では絶対にやらないが。

「誰かに教わったのか?」

「かーちゃん。ガキん頃に叩き込まれた」

「エルデールではみんなそうなのか?」

「他は知らねえ。俺の村はそう。雪山に狩りに出て、何日も山にこもるとか普通にあるし。保存食をうまく食うのは死活問題」

 過酷な環境だったんだな、と食べながら聞いた。そんな環境で育って、なぜ荷物を持たないのかは面倒だから聞かないでおいた。

 店主のサンドイッチとトリューのスープ。おいしく腹を満たしたところで、眠りに就く。

 雨季が近いというのに、天候には変わらず恵まれている。時折雲がかかる星空を見上げながら、ティファは毛布に包まる。

 やがてうとうとと眠りに落ちる時、髪がなびいた。湿気を帯びた風が頬を撫でていく。ティファは顔まで毛布を被り直し、再び微睡む。

 しかし夜が深くなるほどに、外側から毛布が冷えていく。焚き火はとうに小さな熾火となり、頼りない赤い光が地面を薄く照らすだけだった。ついには、寒さで目を覚ましてしまった。──これはダメだ。

 もぞりと起き上がり、反対側で寝息を立てるトリューの隣に座る。足音に気づいたのか、ガジも目を覚ます。

「どうした」

「……さむい」

 半分寝惚けた頭で答える。大の字になっているトリューの腕を枕代わりに、無遠慮にぼすん、と横に転がった。反動でトリューも目を覚ましたようだ。

「びっ…くりした…なに…?」

「……さむい」

「ああ…」

 トリューは何事もなかったように、再び目を閉じた。寝息が程なく聞こえてくる。ティファもトリューの体温を奪い、ようやく眠りに就いた。

 その様子を一部始終見ていたガジは、若いなと一言呟いて草むらに体を倒した。

 星が瞬いている。厚い雲にぶら下がった月だけが、三人を穏やかに眺めていた。

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― 新着の感想 ―
XのRT企画から伺わせていただきました! 転生した先はそこまで地獄じゃないな、というのがちょっと気にかかりましたが、人との出会いに恵まれつつ逞しく生きている感じが重すぎず読みやすいファンタジー作品だ…
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