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やどりび  作者: ファット爺
第三章
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28/82

再起へ

 蝋燭の火が揺らめいている。

 小柄な男はひとつ溜め息を吐き、眼鏡の位置を正した。

 片付かない書類ばかりが増えていく。ひょい、と椅子を降りると、背の高いテーブルを見上げた。

 やれやれ、と踏み台を引き寄せ、テーブルの紅茶セットに手を伸ばす。

 そこで、慌ただしい足音が部屋を訪れる。

「ご報告です」

「…手短にな」

「はい。えー…レフテオの村に滞在中のマハト殿から、調査協力の依頼です」

「手の空いている者に回しておけ」

「えー…それがですね」

 若い青年は、小柄なサマラ族の男に続きを報告した。

 男は目を見開いた。長めの前髪が揺れる。

 そして、やや口角を上げて呟いた。

「そうか…ようやく尻尾を出したか」

 カップに紅茶を注ぎ、香りを楽しむ。

「それから、もう一つご報告が」

「まだあるのか」

 青年は書類を一枚めくる。その紙には、二人の名前が記されていた。

「ティファと…トリュー…? 聞いたことがないな」

「駆け出しの冒険者だそうです。それが…どうやら奴と遭遇して生還したと」

「ほう…?」

 男の目の色が変わった。それは興味のような、獲物を見定めたような。

 青年は報告を終えると、足早に部屋を後にした。

 男は椅子に腰掛け、紅茶を片手に書類を眺める。

「面白そうなルーキーじゃないか」

 口元には笑みが浮かんでいる。

 夜風が吹き込む。蝋燭の火が煽られて、一層揺らめいた。



******



 ティファが全快するまで、マハトら学者達が面倒を見てくれた。

 失った左眼は眼帯で隠し、体は戦闘に支障ないまでに回復を遂げた。

「本当に大したもんじゃな。ほんの数週間で完治するとは」

「マハト達の腕がよかったんだろ」

「ほっほ。誉め言葉として受け取っておこうかの」

 ティファはぐん、と肩を回し、体の調子を確かめた。どこも問題はなさそうだ。

 ──しかし。

「こればっかりは…困ったな…」

 ティファは折れ砕けた双剣を手に持った。刀身がパッキリと折れ、無事なのは柄だけだ。

「ふむ…この村に鍛冶師はおらんからのう」

「俺はまた買えばいいけど…大事なもんなのか?」

「ああ…」

 シスターから譲り受けた、先代の遺品。形見とも言える品だ。代替は効かない。

 ──あれだけの強敵を相手に生きていられたのは、きっとこの双剣があったからだ。どうにかして直したい。

 部屋の壁にもたれたトリューと共にうんうんと悩んでいると、マハトは何か思いついたように手を叩いた。

「そうじゃ。奴なら直せるかもしれんぞ」

「誰っ?」

 ティファはぱっと顔を上げる。本当に直せるなら、全財産つぎ込んでも構わない。

 じっとマハトを見つめ、次の言葉を待った。

「いやしかし…このところいい噂は聞かんのでな…」

「直せる腕があるんならこの際悪魔だっていい。教えてくれ」

 ティファの押しに負けたように、マハトはふう、と息を吐いた。

「わかった。地図を描いてやろう。奴ならおんしの義眼も作れるじゃろうて」

 願ったり叶ったりだ。

 マハトは地図を用意する、と部屋を後にし、ティファは早速荷造りを始めた。

 すると、それまで静かに話を聞いていたトリューが口を開いた。

「ティファ」

「ん?」

「俺も行く」

「ん? うん」

「行くから」

 どのみちトリューの槍も頼むつもりだったし、一緒に行く気ではいたのだが。

 どこか真剣な眼差しに、つい言葉が詰まった。

「…村を出る時にでも、皿買っていくか」

「おー、覚えてたんだ」

「私が言い出したことだし」

 トリューの表情は、いつもの明るい笑顔に戻っていた。



 翌朝。マハトら学者達には宿屋で見送られた。

 出立前に約束を果たそうと、ティファは村の雑貨屋に立ち寄る。

「いらっしゃいませ~」

 カラン、と扉を開けると、間延びした声に迎えられた。

 若い女性はすぐさまティファ達に駆け寄り、声を掛ける。

「旅人さんっ! 何をお探しですかっ? 日用品から神樹を模したお守りまで、何でも揃ってますよ~」

「いや…皿とカトラリーが一セット欲しいんだが…」

「お任せを~!」

 活発な女性に招かれ、食器コーナーに案内される。そこには木製の食器類がところ狭しと積まれていた。

「これなんかどうでしょ! 我が村特産のシーク材でできたお皿でして、水捌けヨシ、カビや腐食にも強いときた!」

「ふむ…」

 ティファは勧められた皿を手に取った。トリューは隅に置かれた妙な木像をじっと眺めている。

 まぁ、どうせ自分の鞄に入れて管理するのだからいいか、と勧められた皿を購入することにした。

「まいどあり~! お姉さん見る目ありますねえっ。ところで今なら二枚セットでお安くしちゃうんですけどっ」

「いや…私のはあるから」

「お連れさん彼氏っ? 旅のお供にお揃いのお皿とか素敵じゃないですかぁっ」

「違う。だから私のはあるって──」

「お揃いのスプーンとフォークもいかがでしょっ? 同じ木材から作られた食器で焚き火を囲む二人…素敵〜!」

 店員の女性に聞く耳はないようだった。ティファがどれだけ否定しても勝手に話を盛り上げている。

 買うのやめようかな、と考えていると、女性はさらに商売を仕掛けてきた。

「それにほら~、旅人さんって荷物限られるでしょ? ペアの食器だったら重ねてすっぽり鞄に収納! かさばらない!」

「それはそう」

 急に実用性を振られたので、思わず頷いてしまった。

 結局勢いに押し負け、実用性と品質にも納得してしまったので自分の分も合わせて購入することにした。

「まいどあり~っ!」

 ティファははぁ、とひとつ溜め息を吐いた。財布を取り出そうとすると、トリューに裾を引かれる。

「ティファ、あれ欲しい」

 あれ、と指差されたのは、トリューが先程見ていた怪しげな木像だった。

「買わない」

「えー」

 トリューは名残惜しそうに木像を見ている。一体どこが気に入ったというのか。

「武器修理の依頼もあるんだから、無駄遣いしない」

「むー…」

 目的の品は買ったし、と会計を済ませた皿を鞄にしまう。

 トリューが肩を落としているのが見えたが、それは見なかったことにした。

「まいど~! また来てくださいね~!」

 女性に店先で見送られ、そのまま村を後にした。


 次の目的地は、『屍山』。

 その頂上に、変わり者の鍛冶師がいるらしい。

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