↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やどりび  作者: ファット爺
第三章
PR
26/81

会敵

 豪炎が立ち上る。

 紅く、鮮やかな炎はティファの体を灼いていく。

「無謀な……」

 ティファの口から炎が零れる。骨は軋み肉は裂け、血は瞬く間に蒸発する。

「魔道を焼いているのか……それで何秒持つんだ?」

「さぁな…!」

 ティファはぐっと体勢を沈める。その踏み込みは石畳を割り、瞬時に男の懐に飛び込んだ。

 突進から縦回転の連撃を繰り出す。男は微動だにしない。

 それでもティファは怯まない。続けて横に、回転の斬撃。

 だがそれも届かない。

 スピードも、パワーも、自分でも制御しきれないほど跳ね上がっている。

 なのに男は指一本動かすだけで全てを弾いていた。

 圧倒的に、絶望的なまでに、差は歴然だった。

 ティファの吐く息までもが、炎に変わる。熱はさらに上昇し、ティファの体を蝕んだ。

 焼けた内臓が、悲鳴を上げる。

「ティ……ファ……ッ!」

 弱々しいトリューの声がした。男はトリューに目を向ける。

「哀れな……楽にしてやろう」

 指先が再びトリューに向く。

 ティファはそれを許さない。

「どこを…ッ、見てる…っ!」

 ティファは飛び上がる。頭上から双剣を振り下ろすが、男は片腕でそれを防いだ。

 一度トリューに向けられた指先は、ティファの腹へと向けられた。

 ティファは反射的にマナを集中させ、貫通を防いだ。

 しかし、そのまま石壁に激突。がらがらと岩が崩れ落ちる。

「ゲホ…ッ、ハァ…!」

 血を吐きたくとも、上がり過ぎた熱がそれを奪っていく。

 内部から燃える炎は、皮膚までも侵食を始めていた。

「……ッッ!」

 ゴウ。

 一際激しい炎が、左眼を呑み込む。ティファの眼球が自身の炎に灼かれていく。

「あああぁァァァ!!!」

 痛烈な悲鳴が響き渡る。

 どんな状況でも冷静だったティファの叫びは、激痛を察するに十分だった。

「……もういいだろう」

 憐れむような声だった。男は再び指を構える。

「ま…だ…ッ!」

 左眼を失ってなお、ティファは倒れない。

 体中の骨が折れ、肉は裂け内臓は今なお燃えている。

「……なぜだ」

 男の声に、初めて困惑が滲んだ。

 それまで無感情だった瞳が、わずかに揺れる。

「なんなんだ……貴様……」

 男の目に、明確に殺意が宿った。



(クソ…ッ、まだ終わんねえのか…!)

 トリューの治癒は、順調に進んでいた。それでも、一度失った内臓を再生するのは、簡単ではないようだった。

 呼吸ができる程度まで、傷は再生した。それでもまだ、千切れかけた胴体がやっと繋がった状態だった。

(早く…早くしねえと…!)

 ティファが死ぬ。トリューは確信していた。

 男の危険度以上に、ティファは戦うことをやめない。

 自分がここで動けずにいる限り、ティファは戦う。

 ティファの咆哮が響く。普段、あんなにも冷静な奴が、形振り構わず剣を振るっている。

(クッソ…! 肝心な時に…俺が…!)

 左手で抉れた腹を抑える。出血はカーバンクルのマナで止まっているが、まだ動けるだけの筋肉まで再生していない。

「頼む…! 早く…!」

 カーバンクルは微動だにしない。ただ無機質に、込められた命令を実行している。

 トリューはなんとか無事だった右手で槍を探す。

 しかし、槍は最初の攻撃で真っ二つに折れてしまっていた。

 トリューの治癒を待たず、ティファの猛攻は続く。

 ──ティファの眼が燃える。悲鳴が響く。ティファの死が、間近に迫っている。

 男の眼にも、明らかな変化が見えた。

 次は殺しにくる。確実に。

 男は初めて、指以外の構えを見せた。その手の平をティファに向け、禍々しいほど強大なマナが集まっていく。

 ティファは震える体を踏み止め、双剣を握り締めている。

「ティ…ファ…!」

 名前を呼んでも、止まってはくれない。男がマナを解放すると同時に、ティファは飛び込む。

 ──パキン。

 二人がぶつかり合った瞬間。ティファの双剣は砕けて折れた。

「……チ」

 男は忌々しげに舌を打つ。魔法が放たれることはなかった。

「……時間切れか」

 集められたマナが収束し、霧散する。男は苦々しく呟いた。

「……運が良かったな」

 黒服をはためかせ、男の体は徐々に薄くなっていく。黒い霧のようだった。

「──…」

 消える直前、最後に何か言っているようだったが、うまく聞き取れなかった。


(助かった…?)

 トリューは息を吐いた。

 直後。全身が燃えたティファが倒れる。

「ティファ!」

 トリューは体を引き摺り、ティファの元へ這い寄った。

「ティファ! しっかりしろ!」

 返事はなかった。

 ティファは、呼吸をしていなかった。

「カーバンクル!」

 トリューはティファを抱え、カーバンクルを見る。しかし、カーバンクルは今も無機質に、トリューの治癒を続けている。

「……!」

 ティファが死ぬ。全身の骨が砕け、裂傷だらけ。内臓は焼けて皮膚も爛れている。

 既に息がない状態で、村に戻っても延命できるとは思えなかった。

「イチかバチか…!」

 トリューは、自分の腕を噛み、ティファの口に自らの血を注いだ。

 しかし、ティファは動かない。

 こうなったら、とトリューは自分の血を口に含み、直接口移しで飲ませた。

 直後、ティファの体に異変が起きる。

 一度収まった血が再び吹き出し、骨が軋む。

「〜〜ッッ!!」

 焼けた喉は声も上げられず、苦しんでいるようだった。

(頼む…! 適合してくれ…!)

 トリューは願うしかできない。ひとひらの願いで、血を分けた。

 しかし、ティファの体はさらに裂ける。出血が酷くなっていく。

(ダメか…!)

 トリューが諦めかけたその時。ただ無機質に命令を実行していたカーバンクルが、ティファの横に立った。

 トリューの治癒は、まだ終えていないのに。

 カーバンクルは静かにティファに鼻を寄せると、柔らかなマナで包み込む。

 その光はティファの裂傷を癒やし、苦しみを和らげたようだった。

「おまえ…」

 カーバンクルはゆっくりと鼻を離すと、じっとトリューを見詰めた。

 そして、額の魔石が砕けると共に、その姿は霧散して消滅した。

 トリューはティファを見る。

 ──僅かに、呼吸を始めている。

 トリューはすかさずティファを背負った。腹の傷が再び血に塗れる。

「ありがとう! 絶対ぇ無駄にしねえから!」

 地を蹴り、トリューは走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。