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やどりび  作者: ファット爺
第三章
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24/82

サマラの学者

 崖から落ちたその日。ティファ達はそのまま森の中で夜を過ごした。

 翌朝地図を確認し、改めて村に出発。

 しばらく進むと、すぐに森を切り開いた集落が見えた。奇しくも、大きく迂回するはずだった山道は省略されたらしい。

「怪我の功名ってやつ?」

「死にかけたけどな」

 森の中に佇む小さな村には、村人にしては高価そうな衣装を纏った人物が複数見受けられた。

「あれが学者かな」

「遺跡調査してるって言ってたな」

 竜の眼について何か聞けるといいな、とひとまず宿を探した。

 散策していると、村の中で一際大きな建物を見つける。そこは食堂と宿が一体となっていた。

 食事も済ませようと中に入る。昨日から何も食べていない。空腹も限界だ。

「好きに頼め」

「やったー!」

 炭鉱での報酬も含め、金銭には余裕がある。ティファも適当に何品か注文し、ついでに店員の若い女性に尋ねた。

「遺跡ってなんのことか知ってるか?」

「あら、お客さんも遺跡の調査に? あそこは大昔からあって…神樹を祀った遺跡なんですよ」

「しんじゅ?」

 初めて聞く単語に、トリューと揃って首を傾げた。女性はさらに続ける。

「神樹っていうのは、古代に世界を支えていた樹だそうで。その遺跡は、神樹の恵みに感謝して建てられたって聞いてます」

「へえ…」

 女性は話し終わった後、店主に注文を読み上げた。ティファはテーブルに視線を落とし、トリューは肘を突いた。

「神樹かぁー。面白そうだけど竜の眼とは関係なさそうだな」

「次の村まで行ってみるか?」

 オーダーを終えた女性が再びティファとトリューに顔を向ける。

「お客さん達探し物? 今遺跡調査でたくさん学者さんが集まってるから、聞いてみるといいかもしれないですよ」

 ほら、あそこに。と女性は指差す。その指の先には、随分と小柄な──どう見ても幼い男児が座っていた。

「あの方がリーダーだそうです。よければお食事もあちらにお持ちしますね!」

「あ…ああ…」

 女性は明るい笑顔で、爽やかに店内へ戻って行った。

 残されたティファは、トリューと共に困惑する。

「…どう見ても…子供だよな…」

「うん…でもまぁ、聞くだけ聞いてみるか」

 そう言って、トリューは立ち上がった。ティファも荷物を持って続く。

「あんたが学者のリーダー?」

 トリューは疑うように、男児に声を掛ける。ティファから見ても、五歳前後──しかし、近くで見ると妙に顔は老けて見える。

「いかにもそうじゃが? おんしら何用かな?」

 男児はお茶を飲みながら、静かに答えた。──確かに、子供の風格じゃないな。

「遺跡調査してるんだって?」

「ほほう。いかにも。興味がおありかな?」

「いや…遺跡っていうか、竜の眼を探してんだけど、なんか知らねえかなと思って」

 学者を名乗る男児は目を丸くした。カップを置き、まぁ掛けなさいと促されたので、二人は席に腰掛ける。

「はて、そんな物騒な物を欲しがるおんしは何者かな?」

「探して持ってこいって言われてんだ。それがないと故郷に帰れねえ」

「ふむ…」

 学者は短い腕を組んで天井を仰ぐ。そしてチラリとティファに目を向けた。

「そちらさんも同じかな?」

「いや。私はただの連れだ」

 学者は、そうかそうか、と再びカップに口を付けた。

「まず自己紹介をしておこうかの。わしはナルタ・マハト。マハトと呼ぶがよいぞ」

「ティファ」

「トリュー・バルモア。トリューでいい」

 同じように続けて名乗る。マハトはふむふむ、とにこやかにお茶を飲んでいる。

 自己紹介が終わったところで、注文した皿が運ばれてきた。トリューは喜んで食べ始める。

「ほうほう。若いモンは食欲も旺盛じゃのう」

 妙に達観した口振りだった。ティファも食事を口に運びながら、気になっていた質問をぶつける。

「あの…マハトはいくつなんだ? 子供にしか見えないけど…」

「む? わしはこれでも七十過ぎじゃよ」

「七十!?」

「なんじゃ。サマラ族を見るのは初めてか? まぁ、この辺では少ないかもしれんの」

「さまらぞく?」

 大きな頬袋を作ったトリューも尋ねる。頭には疑問符が浮かんでいる。

 ──サマラ族。確か長命で…外見は子供のような小柄な種族、だったか。

 知識としては知っていたが、本物を見るのは初めてだ。

「おんし、姓をバルモアと言ったか。エルデールの出身じゃな」

「わかんの?」

「知識を集めるのが趣味でな。確かに、サマラに限らずあの地を好んで居着く者は少ない。知らんのも当然じゃな」

 ほっほ、とマハトはにこやかに笑う。

「して、何故竜の眼を求める? エルデールは長く竜と人とが争う地じゃ。得れば破滅さえ招きかねん。易々と教える訳にもいかんの」

 その言葉に、トリューは押し黙った。ティファはトリューをじっと見ている。トリューは俯き、ぐっと何かを堪えているようだった。

「…理由は…言えない。でも、必要なんだ」

 トリューはマハトに視線を向ける。その眼差しは強く、決意と覚悟が伺えた。

「そうか…」

 マハトは飲み干した紅茶を置き、女性におかわりを注文した。

「しかし、期待させてすまんがの。竜の眼についての情報は、わしも詳しくは持っておらんのじゃ」

「えー! なんだよもったいつけて!」

「ほっほ。まぁ焦りなさんな」

 マハトはそう言って、分厚い手帳を取り出した。中を開くと、乱雑な文字がびっしりと書き込まれていた。

「今調査しておる祭祀遺跡じゃがな。遥か昔、神話の時代からある貴重な遺跡じゃ」

「神話…」

「石材の年代だけでも気が遠くなるほど古い。神話がただの作り話とも思えなくなる場所じゃよ」

「そんなに古いのか?」

「うむ。だからこそじゃ」

 マハトはゆっくりと頷いた。

「竜も古いものは神話から登場しておる。何か手掛かりがあるかもしれんの」

 トリューは「へえ…」とマハトの手帳を覗き込んだ。ティファも覗いてみるが、何が書いてあるのかはさっぱりわからない。

「字ィ汚すぎだろ」

「わしが読めればいいんじゃ」

 マハトはパタン、と手帳を閉じ、追加された紅茶を手に取る。

「さて、じゃが問題もまだあっての」

「まだあんのか」

「実は祭祀場の奥に魔物が住み着いておってな。調査の手が止まっておる。そこでじゃ」

 マハトは二人を見て、にっと口角を上げた。

「そやつを討伐してくれんかの? もちろん報酬は出すし、竜の眼に関する情報があれば教えよう」

「ほんとか!」

 マハトはにこにこと茶を啜った。トリューはぐりん、と首を回し、ティファを見る。

「ティファ!」

「…無茶はしないぞ」

「しない!」

「…本当か?」

「ほんとう!」

「まぁ…報酬も出るしな」

「よっしゃ!」

 トリューは固く拳を握った。先程の真剣な眼差しはどこへやら。

「行くのはいいけど、ちゃんと準備してからだからな」

「わかった!」

 マハトは終始、にこやかに茶を啜っていた。

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