炭鉱踏査④ 岩の心臓
ゴーレム達と向き合った二人は、それぞれ武器を構える。
ティファは注意深く様子を窺っていた。
「先に青目と黄色やるぞ。あいつら邪魔だ」
「わかった」
〝邪魔〟という事には同意のようだ。
トリューはぐっと体勢を低く沈ませる。
(トリューは必ず…)
その瞬間、トリューが地を蹴り飛び出す。
(先制する…!)
今までの失敗を経て、ティファはトリューの動きも戦闘に組み込んだ。
トリューが頭部に槍を突き刺すと、双剣で足を破壊する。
青目の動きは止めた。次は、黄色が来る。──どこだ。
「後ろ!」
トリューの声で体を捻る。黄色目の突進はマントを掠めて回避した。
「すばしっこいな! 石の癖に!」
ティファはボスゴーレムの動きも牽制しながら、じっと観察している。
トリューの攻撃は威力はあるが槍の特性上直線的だ。長物だけに、懐まで詰められると不利になる。
(それなら…!)
ティファは黄色目の背後から一撃与え、狙いをこちらに向けさせる。そのままボスとの間に立って武器を構えた。
「トリュー!」
話している時間はない。目で、視線で。後ろのボスゴーレムを見ろ、と。
トリューは一瞬だけ目を見開いた。
意図が伝わったかはわからないが、黄色目への攻撃は止んでいる。
(来い…!)
ティファは動かない。ギリギリまで引きつける。
黄色目はティファに狙いを定めると、凄まじいスピードで突進してきた。
(ここ…!)
紙一重。体当たりの直前。体を捻った。
黄色目はその勢いのまま、ボスに激突する。
黄色目の頭は砕け、ボスの胸の岩ががらがらと崩れ落ちた。
トリューはすかさず追撃を仕掛ける。黄色目の激突で崩れ落ちた胸の岩に突きの連撃。岩はみるみる剥がれ落ちていく。
ティファはその隙に、黄色目の魔核を探す。
──あった。やはり、体の中心、胸の奥。これが、こいつらの心臓だ。
ティファが魔核に剣を突き立てると、黄色目の体は崩れて岩屑となった。
青目も今のうちに止めを刺したいが、ボスが既にトリューに腕を振り上げている。
ティファは瞬時に飛び込み、横から岩腕に双剣を叩き込む。
しかし、軌道を逸らしただけだ。ティファには決定力がない。
「トリュー! 行けそうか!」
「もう少し! あの中から心臓みてえな音する!」
削られた胸から、僅かに光るものが見える。──あれか。
「私が削る。青目の止め頼む」
「がってん」
そして散会。ティファはボスの胸に回転をくわえた連撃を続け、硬い岩を削り取る。
ボスゴーレムは危機を察知したのか、執拗にティファに殴り掛かる。
しかし、威力こそあるものの動きは緩慢。わかっていれば避けられる。
「これで…どうだ!」
ティファの渾身の一撃。双剣を横から、同時に。全力で叩きこむ。
ほぼ同時に、後方で岩が砕ける音がした。
──トリューが止めを刺したと確信した。
岩肌が割れる。輝かしい魔核がついに露出した。
ティファはそれを確認すると、後方へ飛び退いた。
──あいつは、必ず来る。
「やるじゃんか! ティファ!」
飛び上がったトリューが、魔核を捉える。
槍を冷気が包んでいる。目に見えるほど凝縮されたマナが、トリューを覆っていく。
それは、美しいつららのようで。
トリューの氷槍は、閃光となって魔核を貫いた。
魔核を破壊されたゴーレムは、体を形成していた岩をがらがらと崩した。
──終わった。ゴーレムがいた場所には、魔核だったらしい砕けた結晶だけが残った。
「倒した? もう立ち上がってこない?」
「…たぶんな」
魔核壊したし、と続けてティファは結晶に近づき、一部を手に取る。
──淡い光を放っている。まだマナの存在も感じられる。
「これは持って帰ろう。放置して復活されても嫌だし…」
「それはそう」
「あとは…討伐証拠は目だったな」
「えー。目ぇくり抜くの?」
トリューは少し嫌そうな顔をした。
言いたいことはわかる。自分だって解体に慣れているとはいえ、残酷な作業という自覚はある。
「ゴーレムだから…目は結晶なんじゃないか?」
青目と黄色目の岩場を探す。やはり、色違いの結晶が目の役割をしていたようだ。
「あーなら良かった」
「狩りはふつうにやる癖に…」
「討伐証拠に耳切ってこいとかあるじゃん。あーゆうのちょっと苦手」
「まぁ…わからんでもない」
害を成したから討伐対象になっているのは理解しているが、食いもしない遺体に手をかけるのはティファも気乗りはしていない。
「慣れるしかないだろ」
「そういうもんか」
トリューは頭の後ろで手を組み、うーんと唸った。
「それより、あんな大技出せるならもっと早くやれよ」
「やだよ! あれすげえ疲れるんだ!」
マナ消費激しいし! とトリューは続ける。
確かに魔法は大量にマナを消費するし、体力にも直結する。それもそうだ、とティファは納得した。
「私も疲れた。今日は戻ろう」
「全部回るんじゃないのか?」
「厄介なゴーレムは倒したし…あと残ってる魔物は炭鉱夫達を守りながらでも対処できる。案内があったほうが効率がいい」
まずは戻って報告。そう締めると、トリューも素直に応じた。
外はすっかり暗くなっていた。月は高く、長い時間坑道に籠もっていたのだと実感する。
やや冷えた空気が肺に優しい。
村に戻ったティファとトリューは、盛大に出迎えられた。
「これがゴーレムの魔核!?」
「おい! とんでもねえ代物じゃねえか!」
「兄ちゃん、姉ちゃん、本当によくやってくれたなぁ!」
酒場は席が足りないほど人で溢れかえっていた。
「…なんにせよ、無事で良かった」
親方はぽん、と二人の頭に手を置いた。温かく、大きい手だった。
「オメェら村の英雄だ。今日は好きなだけ飲んで食え」
「やったー!」
「ありがとう」
トリューは相変わらず、食いつくのが早い。
ティファも空腹には抗えず、遠慮なくご馳走になった。
報酬の話は回復してからゆっくりしようと親方に告げられ、その日は親方の家に世話になった。
気風のいい奥方に迎えられ、温かい布団に潜り込む。
──英雄、か。
むず痒く、懐かしい。
教会にいた頃、猪を獲って帰った事を思い出した。
ティファはその日、少しの寂しさと優しい気持ちで眠りに就いた。




