炭鉱踏査③ 下層の主
ティファの忠告を聞かず、下層に落ちたトリュー。
声の反響から、そこまで深くはないと判断したティファは、続いて穴に飛び降りた。
導光筒を向けると、トリューは相変わらず呑気に笑っていた。
ティファは「持ってて」とトリューに筒を渡し、地図を広げる。
トリューも地図を覗き込むが、頭上に疑問符が見える。
「今は…この辺りかな」
「さっぱりわからん」
「だろうな」
初めから期待していない。嘆息したティファは地図を畳み、方角を決める。
「親方達が見たっていうゴーレムも、たぶんこの先だ」
「お、ボス?」
まだ調査をしなければわからないが、炭鉱夫達で手に負えない魔物を掃討すれば作業は再開できるだろう。
おおよその目標は親分格であろうゴーレムの討伐だ。
ティファはまたトリューが地下に落ちないよう、さらには自分も崩落に巻き込まれないよう細心の注意を払いながら足を進めた。
道中、また石食いや鉄蜘蛛にも遭遇したが、一度倒した敵ならさほど苦労はしなかった。
トリューだけは鉄蜘蛛に怯え文句を言っていた。
「あいつほんと嫌だ…」
「雪国にはいなかったって言ってたな。トリューは雪国出身なのか?」
「ん? そう。エルデールってとこ」
えるでーる。世界地図で見たことがある。確か、北方の山岳地帯だ。
「なるほど。それでか」
「なにが?」
「やけに身体能力が高いなと」
「あー…うん。そうかもな」
トリューにしては歯切れの悪い返答に、少し首を傾げた。こいつの性格なら、笑って自慢しそうなものだが。
疑問を感じながら歩いていると、トリューは足を止める。──どうやら本丸のようだ。
「何体いる?」
「三…かな。でかいのが一体、中くらいが二体」
でかいのがボスだろうな。
矢は通らない。ティファは腰の双剣を抜き、構えた。
「──気づかれたな。来るぞ」
トリューの合図を聞き、発光石を投げて明かりを確保。同時に左右に展開した。
視覚で捉えたボス──の他に、青目のゴーレムが一体、黄色目のゴーレムが一体。
数では不利だが、群れで動くものは頭を潰せば統率を失うのが定石。
一瞬の思考で、ティファは奥のボスゴーレムまで一気に間合いを詰めた。
しかし。
「うおぁ!」
「!?」
ほぼ同時に飛び出していたトリューとぶつかる。体勢を崩した二人にゴーレムが岩の腕で殴りかかって来る。
すんでのところで飛び退き、回避したものの、ティファは荒々しく叫ぶ。
「なんでお前がこっち来るんだ!」
「俺の台詞だ! お前そっちのちっこいのやれよ!」
「ボスを片付けたほうが早いだろうが!」
「俺もそう思った!」
再び言い争いになってしまう。
良くない、とは思いながら、ティファは苛立ちを隠せずにいた。それはトリューも同じようだった。
しかし、二人が言い争っても何が解決するわけでもなく。青目のゴーレムは重々しく歩き出し、黄色目は異様な速度で忙しなく動き回っている。
「…ッ!」
ティファはトリューが再びボスに飛び掛かるののを見て、青目のゴーレムに狙いを定めた。
双剣を振り上げ、回転撃を与えようと踏み込んだ先。真横から衝撃が走る。
──黄色目のゴーレムの体当たりだった。ティファは吹き飛ばされ、壁に激突した。
「っ…ハ…!」
いいところに入ったらしい。吐いた血の味が苦い。
「こん…にゃろ!」
ボスに飛び掛かっていたトリューは、頭上から勢いよく槍を突く。
しかし、それも僅かに岩が欠ける程度だった。
(かってェな…!)
ゴーレムの岩腕は浮いたトリューを振り抜き、トリューもまた壁に吹き飛ばされた。
二人が体勢を整える間、ボスゴーレムはぐるぐると首を動かしている。周囲を見渡しているように見えた。
何かはわからないがトリューが再び攻撃を仕掛けるも、正面からの突きでは表面の岩が削る程度だ。
そしてボスゴーレムは、地に撒かれた発光石に近づくと、拾って食べ始めた。
「んなっ…!」
「そういう…!」
ティファはなんとなく察した。
このボスゴーレムの発生原因。おそらく、発光石を食べ体内にマナを蓄積している。異常な硬さと大きさは、きっとそのせい。
明かりを失い、残されたのは導光筒のみ。ティファは先ほどやられた腹の傷を押さえ、導光筒でゴーレムの位置を確認する。
預かった発光石は使い切り、撒いた物も食べられてしまった。
残る手段を考え、ティファは声を上げる。
「トリュー!」
「なんだ!」
「全員こっちに連れて来い!」
ティファは奥へ走り出した。トリューは疑問に感じながらも、ゴーレム達を相手取り誘導する。
「どうする気だ!」
「明かりがないとまともに戦えない!」
ティファは記憶の地図を頼りに、坑内を走る。
親方の話を思い出していた。
『中に入りゃ、まだ掘れる場所もある』
(確か…この下!)
ティファは立ち止まり、ボスゴーレムを迎え撃つ。
「トリュー! あいつの足場崩せ!」
「なん…っ、なんで!?」
「いいから!」
意図を図りかねるトリューだが、言われた通りにボスの足元を槍で突き刺す。
地面には、ぴしりと亀裂が入った。
(上手くいってくれ…!)
足にマナを集中させ、だん、と踏み込む。飛び上がったティファは、ボスの頭上から双剣を振り下ろし叩き込んだ。
亀裂がさらに深くなる。
「うお!?」
ついに耐えられなくなった足場は、がらがらと大きく崩れていった。
ボスと共に、他の二体、そしてトリューも一緒に落ちたのを確認して、ティファも穴底へ向かう。
その先には、まだ未開拓の発光石が眠っていた。
「これで光源は確保…と」
安堵して構え直すティファ。ゴーレム達が立ち上がる前、トリューが崩れた岩山からボゴン、と腕を出す。
「生きてたか」
「生きてたかじゃねえよ! 死ぬかと思ったわ!」
「生きてたろ」
「そうだけど!」
槍を担いで文句をがなるトリューを適当にあしらう。一度落ちて平気だったんだ。あまり心配はしていない。
「お前…あとで殴るからな!」
「好きにしろ」
ゴーレムが立ち上がる。穴に落ちても傷一つついていない。
三体の不気味な眼がティファとトリューを捉える。
第二ラウンド、開幕。




