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やどりび  作者: ファット爺
第二章
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18/82

炭鉱踏査② 噛み合わない二人

 炭鉱調査に入って、しばらくの時間が経過した。

 暗い坑内では、昼も夜もわからない。

 体感では昼前だろうが、時計でも借りてくればよかったな、とティファは零した。

 進行方向を照らしながら、ティファが前を歩く。トリューは少し後ろを、耳を澄ませながらついてきている。

 ふと、トリューが立ち止まる。何かに気づいたらしい。

「なにか気づいたか?」

「…音がする」

 トリューは音の元を辿って、更に耳を澄ませた。

「なんだ? この音…」

「どんな音だ」

「なんか…時々カサカサって這うような…」

 カサカサ。這う。

 聞いている魔物は、ゴーレム、石コウモリ、鉱石スライム。他には、石喰いというアナグマに似た魔物がいるとも聞いているが、そいつだろうか。

「どこから聞こえる?」

「いや、今は聞こえな──…」

 言いかけて、トリューは青ざめた。

 ふと、上を見る。その表情は引き攣り、恐怖に満ちていた。

「…ティファ」

「…うん」

 ティファも上を見る。そこには、巨大な蜘蛛が口を開けてこちらを覗いていた。──鉄蜘蛛だ。

 姿を確認すると、蜘蛛は硬い糸を飛ばして攻撃してきた。

 ティファは弓を構え、矢をつがえる。

「トリュー、私が矢で牽制するから…」

 ティファの言葉を聞いているのかいないのか、トリューは槍を構えたまま動かない。

「トリュー!」

「無理!!」

「はぁ!?」

 ティファが一瞬トリューを見た隙に、鉄蜘蛛が襲って来る。

 回避はしたが、足元の地面は抉れていた。油断すれば致命傷では済まない。

「お前…真面目に…!」

「無理無理無理! 気色悪い!」

 なにを乙女のような事を。

 ティファのこめかみの青筋が音を立てて浮き出る。鉄蜘蛛はなおも二人への攻撃をやめない。

「おっまえ…! 死にたいのか!」

「無理なもんは無理なんだって! 雪国にあんな虫いなかったんだよ!」

「ここは雪国じゃない!」

「わかってら!」

 言い合いながらも、ティファは飛んでくる爪を弾く。

 しかし、徐々に奥へと追い込まれてきている。

「〜〜〜ッ!」

 苛立ったティファは避けながら双剣に持ち替え、半ば強引に前脚を2本斬り落とした。

 しかし、残った手脚がティファの背中を突き刺そうとしている。

 その爪がティファに届く直前、飛び上がったトリューの槍が横合いから鉄蜘蛛の脚を貫いた。

 トリューは苦々しい顔をしている。

「戦えるんじゃないか!」

「あぶなかったろ! もうヤケだよ!」

 開き直ったトリューが残りの脚にも槍を突き刺す。鉄蜘蛛の体液が飛び、トリューはまた悲鳴を上げている。

(あと三本…!)

 機動力は削いだ。脚も今ならトリューに任せられる。

 ティファはその場に深く身を沈めた。その筋力をバネに、勢いよく突進。

 何度も、何度も練習した、先代の技。

「旋廻刃」

 縦方向の回転撃が、鉄蜘蛛の頭部を深く斬りつける。

 嫌な汁が四方に飛ぶ。それでも、ティファは見逃さなかった。

 割れた頭部から、赤い魔核が僅かに見えた。

「トリュー!」

「これ…だな!」

 トリューは飛び上がり、魔核に向かって深く深く槍を突き刺した。

 鉄蜘蛛は雄叫びを上げると、その場に倒れて絶命した。

「ふう…」

 ティファは一つ息を吐いて、剣についた体液を払った。

「うあああ…ベタベタする…気持ちわりぃ…」

 トリューはまだ泣きそうな顔で体についた体液を払っていた。

 そんな様子を見て、ティファはもう一つ嘆息した。

「大体、虫なんか森にだっていただろうに…」

「あいつらは小せえし! 襲ってこないし!」

 虫嫌いというのは理不尽なものだな、とティファは肩を竦めた。

 昔、アンナも似たような事を言っていた気がする。

「まぁ…でもありがとう」

 怖いものでも立ち向かってくれたのだから、そこは感謝しておこう。

 自分だって幽霊とか、殴って倒せるかわからないものは苦手だ。

 改めて弓を背負い直し、先に進もうと踵を返す。

 しかし、今度はティファにもわかるほど、何か異様な音がしている。

「もー…次はなんだよ…」

「気づかなかったのか?」

「蜘蛛でいっぱいいっぱいだわ」

 トリューは肩を落とし、槍を構える。ティファも双剣を握り直し、音に備える。

 しかしその音は、進行方向からは聞こえない。後ろからでもない。

「まさかな…」

 ティファは壁を見遣る。トリューも音を捉えようと耳を澄ませている。

 そして、ティファの予感は的中したらしい。

 壁がボゴンという音を立てて陥没した。同時に、石喰いが飛び掛かってきた。

 ティファは剣で止めようとするが、足元の鉄蜘蛛の体液で滑り、体勢を崩した。

「あぶね!」

 トリューに引っ掴まれ、後ろ手に投げられる。おかげで回避はできた。

 実物の石喰いは、聞いていたより大きかった。狼くらいのサイズはある。

 ──こんな図体であちこち掘り回られたら、たまったもんじゃない。

「トリュー、こいつは大丈夫だな?」

「おう、虫じゃなきゃ余裕!」

 槍を構え、突きを繰り出す。──だが素早い。

 当たっても、背中に生えた鉱石で弾かれてしまう。

「こんにゃろ!」

 トリューは持ち前の素早さで、石喰いを追い込む。だが、決定打に欠ける。

 ティファは矢で援護しようと再び武器を持ち替えた。

 ──本体に当たらなくてもいい。トリューが仕留められるよう、動きを牽制すれば…

 石喰いとトリューの距離が僅かに開いた時、狙いを定めた矢を放つ。

 ──しかし。

「うおお!?」

 矢は石喰いではなく、一気に距離を詰めたトリューの足を掠めた。

「あっぶねえな! どこ狙ってんだ!」

「お前こそ! なんでそこにいるんだ!」

 普段穏やかなトリューにさえ、苛立ちが見えた。ティファの額にも、青筋が刻まれている。

「動いた先撃てよ!」

「お前の動きなんかわかるか!」

 正確に狙おうとしても、トリューは素早いし動きにも規則性がない。

 このまま手を出さずにいようかとも思ったが、ここは先の鉄蜘蛛との戦闘跡現場。更に石喰いが開けてきた穴もある。

 早く片付けないと、崩落が起きる。

 ティファはもう一度矢をつがえる。

 今度は慎重に、トリューに当たらないように。

 次は石喰い本体を狙った。だが、石喰いは背中の鉱石で矢を弾くと、後方へ退いてしまう。

 そこにトリューが追撃するが、石喰いには当たらない。

「だから! なんで逃すんだ!」

「弾かれたんだ! 動きは一瞬止めただろうが!」

 そこを狙えよ! とティファはがなる。トリューもトリューで、急に獲物の位置を変えるなと怒鳴っている。

 最悪だ、とティファは思った。

 今までは、本当に運が良かっただけなのだろう。

 二人の戦闘スタイルは、それほどまでに噛み合っていなかった。

「もーーあったまきた!」

 トリューは短気を起こしたのか、槍を放り素手で石喰いに向かう。

「バッ…!」

 トリューは左腕を噛まれる。鋭い牙が深く肉に突き刺さる。

 すると右手で思いきり首を掴み、高々と掲げる。

 石喰いはトリューから逃れようと、必死に暴れている。

「こいつ斬れ!」

 ティファは返事もせず駆け出した。双剣を片方握り、踏み込む。

 そして首を一閃。離れた胴がべちゃりと下に落ちる。

 トリューは石喰いの頭を離し、左手を振った。

「うい〜〜ててて」

「見せろ」

 随分強く噛まれたようだが、出血量の割に傷自体は深くない。骨も無事のようだ。

 ティファはトリューの腕を癒しながら尋ねる。

「なんであんな無茶したんだ」

「だってティファの矢危ねえし…後で治してもらったほうがいいと思って」

 再び、ティファのこめかみがピキリと鳴る。

 下手くそと、確かにそう言われた気がした。

 言いたい文句は次々浮かんでくるが、自分の腕が未熟なのは承知の上なので、とりあえずは引っ込めた。

 それでも。

「トリューだって鉄蜘蛛に怯えてただろうが」

「あれはまじで無理! 二度と戦いたくねえ!」

「ダメだ。戦え」

 トリューは「うう〜」と青い顔で唸っている。

 ひとまず応急処置を終え、今度こそ進もうと奥へと足を向けた。

 しかしまだ、なにか嫌な予感がする。

「トリュー」

「なんだ?」

 ティファは周囲を見渡している。

 ──石喰いが空けた穴。鉄蜘蛛に抉られた地面。そして、親方の言葉。


『崩落に気をつけろ。穴にもな』


 地盤が緩んでいる可能性は、十分にある。

「崩れるかもしれないから、足元は慎重に…」

「あー、こういうとことか?」

 トリューは足元の地面を、槍の柄でコンコンと叩いた。

「確かにこの下、空洞っぽ──」

「だから触るなって…!」

 ピシ。地面が鋭い音を立てた瞬間、その亀裂は瞬く間に広がった。

 そして、崩れた地面は岩と共にトリューを飲み込んでいく。

「あああァァァァァ──……」

「だから言ったのに!!」

 トリューがいた場所は崩落した穴だけが残った。

「トリュー! 生きてるか!?」

 声が反響する。下もかなり広い。

「ティファー!」

 下からトリューの声がする。どうやら無事のようだ。

 ティファはホ、と胸を撫で下ろした。

 続けて更にトリューが叫ぶ。

「なんか下着いたー!」

 返ってきた能天気な言葉に、ティファは頭を抱えた。

 生きてただけ良かったと思うべきか…殴るべきか…。

「今降りる。そこを動くな」

「わかったー!」

 戦闘や索敵では、割と頼りになるのに。

 ──蜘蛛以外は。


 そう付け足して、ティファは更に地下へと降りて行った。

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