炭鉱踏査① 入坑
二人は宿に荷物を置き、最小限の装備で改めて炭鉱に向かった。
発光石と地図はティファが担当した。──なんとなく任せたら危ない気がした。
「よし、行こうか」
「おう!」
気合いを入れて、坑道に足を踏み入れた。
「おー、さすがになんも見えねえな」
中は真っ暗だった。トリューの視力でも、物は捉えられないらしい。
ティファは預かった導光筒をポーチから取り出す。カチ、と筒尻を回すと、前方を照らし出した。
「おー便利」
「トリュー、鼻は効くか?」
「ん? まぁいいほうだと思うけど」
「ガスのにおい…まぁ変なにおいがしたら教えてくれ」
「わかった」
ティファは地図を片手に、更に奥へ向かう。今のところ、魔物の姿は見えない。
しばらく進むと、分岐点が現れた。
「これどっち?」
「えーっと…最終的には全部回るけど、まず右。下に行ける」
地図を見ながら、右方向を指差す。ティファは発光石を取り出して、分岐点の手前に投げた。
外ではただの黒い鉱石だったものが、辺りを照らし出す。
「おー! これで迷わねえな!」
トリューは笑っているが、それでも迷いそうな不安をティファは拭えなかった。
周囲を慎重に照らしながら、更に奥へ進む。すると、トリューがなにかに気がついた。
「なんだあれ」
視線の先に光を当てる。その光の中には、ゲル状の物体が蠢いている。
「スライム…かな」
「あれも魔物?」
弱そうだけど、とトリューが指差す。ティファは親方の話を思い返していた。
「うん。確か、放っておくとガスを溜め込むらしい。駆除しよう」
わかった、と言ってトリューが近づいて行く。
緩慢な動きなので、ティファは明かり役に徹した。
さく、とトリューが槍を突き立てると、スライムに異変が起きた。
「うわ!」
ブシュウ。そんな音で何かを勢いよく吐き出している。トリューは慌てて一歩退く。
「ガスだ! 魔核狙え!」
「どこだよ核!」
トリューは槍を引き抜き、今度は中央を狙って突き込む。
だが刺した先からはガスが噴き出すだけ。スライムに透明性はなく、魔核は外から見えない。
耐えられなくなったティファは双剣を一本持ち、上下に半分に切り裂いた。
その一瞬、現れた魔核をトリューが突き刺す。
なんとかガスは止まったようだ。
「うへー…ありがとなティファ」
「いいよ…しかしスライム…別に雑魚じゃないじゃん…」
ガスのにおいでくらくらする。ティファは少し額を押さえた。
慣れの問題なのだろうか。親方の話では、このスライムは常時発生していて、炭鉱夫達がまめに駆除しているらしい。
「真ん中らへんに魔核があったから…次はそこ狙って」
「わかった」
この狭い坑道でガスを撒き散らされたらたまらない。
注意して進もうと告げて、ティファは再度歩みを進めた。
二度、三度。分かれ道を経て、昇降機の前に到達した。
「降りるのか?」
「うん。動くのかなこれ」
昇降機を照らし、スイッチがないか探す。
見つけたのはスイッチではなかったが、常灯用のランプだった。
ティファは導光筒を口にくわえ、その壁掛けのランプに発光石を補充する。すると辺りを明るく照らし出した。
「おー、便利だ」
「発光石が燃料みたいだな」
見つけたら補充していこう、と話し、探索を続ける。するとトリューが声をかけた。
「なあ、これじゃね?」
昇降機の中に、大きめのレバーが設置されている。ティファも中に入り、レバーを動かしてみる。
するとガコン、という音と共に昇降機が動き出した。
「当たりだ」
軋むワイヤーが、二人を乗せた昇降機を下へ運んでいく。
「この先は崩落にも気をつけろ」
「わかってるけど…どうやって気をつけたらいいんだ?」
ティファは口を開きかけて閉じた。
確かに。崩落が起きたら防ぎようがないのだし。
「…起きないように気をつけよう。あんまり暴れるな」
「わかったー」
トリューは少し間延びした声で返事をした。
昇降機は階下へと二人を運び、動きを止めた。
再び歩きながら、見つけた常灯ランプに発光石を補充して行く。目印の代わりにもなる。
特に問題も起きないな、と更に奥へ、奥へ。
すると、トリューが何かに気がついたようだ。
「なんか羽の音がする」
あっち、と言って進行方向を指差す。
羽、と聞いて思い浮かべたのは、石コウモリだ。これも、親方に話を聞いている。
「どのくらいいる?」
「多いな。群れっぽい」
ふむ、とティファは考える。石コウモリも駆除対象ではあるが、群れだと討伐には時間が掛かりそうだ。
「このへん、ガスのにおいするか?」
「さっきの? しない」
火を使うな、とは言われている。危険性も理解しているが、いざとなれば火で焼き払えるか、とティファは思い至った。
よし、と決めて歩みを進める。
ティファとトリューの到着を待たず、石コウモリ達は群れで襲いかかってきた。
「うわ」
トリューは特に焦った様子もなく、槍で薙ぎ、コウモリ達を撃ち落ちしていく。
ティファも双剣で次々と斬り落としていくが、数が減っているようには見えない。
コウモリの爪や牙が、徐々に露出している肌にダメージを与えていく。
「キリがねえな!」
トリューもティファも、単体の狩りには強いが群れを相手にする戦闘は慣れていない。
あまり時間を掛けたくない、と決めたティファは、トリューに発光石を一つ投げ渡した。
「囮になってくれ」
「は!?」
トリューが驚く間も無く、コウモリの群れは石を持つトリューの元に集まって行く。
身軽になったティファは、剣にマナを集中させる。
大きく、広く、放てるように。
「しゃがめ!」
ティファの合図で、トリューは反射的に身を低く屈めた。
同時に、大きな炎が頭上のコウモリ達を焼き落とす。
残ったコウモリも二人で駆除し、殲滅は終了した。
「助かったーありがとう」
「こちらこそ」
囮、必要だったし、とティファは双剣をしまう。トリューに近づくと、血が出ている腕や顔に手を添えた。
手のひらに集まる光が、傷を癒していく。
「すげえ! 治せんの!?」
「軽い外傷だけな」
複雑骨折とか、内臓まで傷付いてたら治せないと続ける。その辺りまで習得するには、高度な医療知識が必要だった。
「ついでに、浄化魔法は消毒程度だ。病気や毒は治せないからな」
「じゅーぶんじゅーぶん!」
トリューは腕を回し、けらけらと笑う。
「来てくれたのがティファで良かったわー」
互いに未知のダンジョン。得意分野も異なる。
ティファもトリューの五感は認めていたし、実力も申し分ない。
初任務は順調に思えた。
少なくとも、この時は。




