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やどりび  作者: ファット爺
第二章
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17/82

炭鉱踏査① 入坑

 二人は宿に荷物を置き、最小限の装備で改めて炭鉱に向かった。

 発光石と地図はティファが担当した。──なんとなく任せたら危ない気がした。

「よし、行こうか」

「おう!」

 気合いを入れて、坑道に足を踏み入れた。



「おー、さすがになんも見えねえな」

 中は真っ暗だった。トリューの視力でも、物は捉えられないらしい。

 ティファは預かった導光筒をポーチから取り出す。カチ、と筒尻を回すと、前方を照らし出した。

「おー便利」

「トリュー、鼻は効くか?」

「ん? まぁいいほうだと思うけど」

「ガスのにおい…まぁ変なにおいがしたら教えてくれ」

「わかった」

 ティファは地図を片手に、更に奥へ向かう。今のところ、魔物の姿は見えない。

 しばらく進むと、分岐点が現れた。

「これどっち?」

「えーっと…最終的には全部回るけど、まず右。下に行ける」

 地図を見ながら、右方向を指差す。ティファは発光石を取り出して、分岐点の手前に投げた。

 外ではただの黒い鉱石だったものが、辺りを照らし出す。

「おー! これで迷わねえな!」

 トリューは笑っているが、それでも迷いそうな不安をティファは拭えなかった。

 周囲を慎重に照らしながら、更に奥へ進む。すると、トリューがなにかに気がついた。

「なんだあれ」

 視線の先に光を当てる。その光の中には、ゲル状の物体が蠢いている。

「スライム…かな」

「あれも魔物?」

 弱そうだけど、とトリューが指差す。ティファは親方の話を思い返していた。

「うん。確か、放っておくとガスを溜め込むらしい。駆除しよう」

 わかった、と言ってトリューが近づいて行く。

 緩慢な動きなので、ティファは明かり役に徹した。

 さく、とトリューが槍を突き立てると、スライムに異変が起きた。

「うわ!」

 ブシュウ。そんな音で何かを勢いよく吐き出している。トリューは慌てて一歩退く。

「ガスだ! 魔核狙え!」

「どこだよ核!」

 トリューは槍を引き抜き、今度は中央を狙って突き込む。

 だが刺した先からはガスが噴き出すだけ。スライムに透明性はなく、魔核は外から見えない。

 耐えられなくなったティファは双剣を一本持ち、上下に半分に切り裂いた。

 その一瞬、現れた魔核をトリューが突き刺す。

 なんとかガスは止まったようだ。

「うへー…ありがとなティファ」

「いいよ…しかしスライム…別に雑魚じゃないじゃん…」

 ガスのにおいでくらくらする。ティファは少し額を押さえた。

 慣れの問題なのだろうか。親方の話では、このスライムは常時発生していて、炭鉱夫達がまめに駆除しているらしい。

「真ん中らへんに魔核があったから…次はそこ狙って」

「わかった」

 この狭い坑道でガスを撒き散らされたらたまらない。

 注意して進もうと告げて、ティファは再度歩みを進めた。

 二度、三度。分かれ道を経て、昇降機の前に到達した。

「降りるのか?」

「うん。動くのかなこれ」

 昇降機を照らし、スイッチがないか探す。

 見つけたのはスイッチではなかったが、常灯用のランプだった。

 ティファは導光筒を口にくわえ、その壁掛けのランプに発光石を補充する。すると辺りを明るく照らし出した。

「おー、便利だ」

「発光石が燃料みたいだな」

 見つけたら補充していこう、と話し、探索を続ける。するとトリューが声をかけた。

「なあ、これじゃね?」

 昇降機の中に、大きめのレバーが設置されている。ティファも中に入り、レバーを動かしてみる。

 するとガコン、という音と共に昇降機が動き出した。

「当たりだ」

 軋むワイヤーが、二人を乗せた昇降機を下へ運んでいく。

「この先は崩落にも気をつけろ」

「わかってるけど…どうやって気をつけたらいいんだ?」

 ティファは口を開きかけて閉じた。

 確かに。崩落が起きたら防ぎようがないのだし。

「…起きないように気をつけよう。あんまり暴れるな」

「わかったー」

 トリューは少し間延びした声で返事をした。

 昇降機は階下へと二人を運び、動きを止めた。

 再び歩きながら、見つけた常灯ランプに発光石を補充して行く。目印の代わりにもなる。

 特に問題も起きないな、と更に奥へ、奥へ。

 すると、トリューが何かに気がついたようだ。

「なんか羽の音がする」

 あっち、と言って進行方向を指差す。

 羽、と聞いて思い浮かべたのは、石コウモリだ。これも、親方に話を聞いている。

「どのくらいいる?」

「多いな。群れっぽい」

 ふむ、とティファは考える。石コウモリも駆除対象ではあるが、群れだと討伐には時間が掛かりそうだ。

「このへん、ガスのにおいするか?」

「さっきの? しない」

 火を使うな、とは言われている。危険性も理解しているが、いざとなれば火で焼き払えるか、とティファは思い至った。

 よし、と決めて歩みを進める。

 ティファとトリューの到着を待たず、石コウモリ達は群れで襲いかかってきた。

「うわ」

 トリューは特に焦った様子もなく、槍で薙ぎ、コウモリ達を撃ち落ちしていく。

 ティファも双剣で次々と斬り落としていくが、数が減っているようには見えない。

 コウモリの爪や牙が、徐々に露出している肌にダメージを与えていく。

「キリがねえな!」

 トリューもティファも、単体の狩りには強いが群れを相手にする戦闘は慣れていない。

 あまり時間を掛けたくない、と決めたティファは、トリューに発光石を一つ投げ渡した。

「囮になってくれ」

「は!?」

 トリューが驚く間も無く、コウモリの群れは石を持つトリューの元に集まって行く。

 身軽になったティファは、剣にマナを集中させる。

 大きく、広く、放てるように。

「しゃがめ!」

 ティファの合図で、トリューは反射的に身を低く屈めた。

 同時に、大きな炎が頭上のコウモリ達を焼き落とす。

 残ったコウモリも二人で駆除し、殲滅は終了した。

「助かったーありがとう」

「こちらこそ」

 囮、必要だったし、とティファは双剣をしまう。トリューに近づくと、血が出ている腕や顔に手を添えた。

 手のひらに集まる光が、傷を癒していく。

「すげえ! 治せんの!?」

「軽い外傷だけな」

 複雑骨折とか、内臓まで傷付いてたら治せないと続ける。その辺りまで習得するには、高度な医療知識が必要だった。

「ついでに、浄化魔法は消毒程度だ。病気や毒は治せないからな」

「じゅーぶんじゅーぶん!」

 トリューは腕を回し、けらけらと笑う。

「来てくれたのがティファで良かったわー」

 互いに未知のダンジョン。得意分野も異なる。

 ティファもトリューの五感は認めていたし、実力も申し分ない。

 初任務は順調に思えた。

 少なくとも、この時は。

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