パーティーを組もう
「っし、これで終了!」
最後の届け物を渡したトリューは、空を見上げて大きく伸びをした。日はすっかり落ちて、星が出ている。
「あいつちゃんといるかな…」
依頼を譲ってくれた、銀髪の少女を思う。人を騙すようには見えなかったが。
そこで一旦顔をしかめる。
『任せとけ! 換金してくる!』
あの男も、そう言っていなくなった。
「ま、いなかったらいなかったでいいか」
またツケが溜まるだけだし。開き直って、もう一度伸びをした。
そろそろ空腹も限界だ。幸い、脚力には自信がある。
トリューは勢いよく地面を蹴って、走り出した。
******
月が顔を出した夕飯時。酒場は仕事帰りの職人や旅人で大層賑わっていた。
カウンター席に腰掛けたティファは、キノコのパイ包みを小さく口に運んでいる。バターの香りが湯気と共に立ち上る。
活気のある村だな、と思いながらキノコを咀嚼する。なんのキノコだろう。
そんな事を考えていると、突然酒場の扉が勢いよく開いた。同時に大きな声が室内に響く。
「ほんとにいたーーー!!」
聞き覚えのある声に肩を震わせる。眉をしかめながら恐る恐る振り向くと、やはり昼間の男が自分を指差していた。
男は大層安心した様子で、にこにこと駆け寄って来る。
「良かったー、ちゃんと待っててくれたんだな!」
「うん…まぁ…」
「ありがとうな!」
「とりあえず…食べれば」
ティファが料理を勧めると、男はきらきらと目を輝かせた。
約束したのだから、そんなに喜ぶ事でもないだろうに。
「いいのか!」
「いいよ」
「ありがとう! おっちゃーん!」
相変わらずの声量で、店主を呼ぶ。次々に料理を注文する様を見て、ティファはふと考える。
(こいつ…金がないの飯代のせいじゃないのか…)
男に食事を奢る約束をした事は事前に店主には伝えてあった。その時店主は、安心したような呆れたような顔で笑っていた。
そのおかげなのか、料理は待たずに次々運ばれてくる。
男は大層喜んで、食事をかっ込んだ。皿は瞬く間に空になっていく。
「ほんとありがとな! 腹減って泣きそうだった!」
「どういたしまして」
「お前名前は!?」
「…ティファ」
「そっか! 俺トリュー!」
忙しない奴だな、と思いながら食事風景を眺める。依頼を奪ってしまった罪悪感からとはいえ、素直に感謝される事に悪い気はしなかった。
少しだけ昔を思い出して、眉が下がる。
「うまかったー! ごちそーさん!」
大量の皿は、あっという間に平らげられていた。
トリューは水を一気に飲み干し、ティファに向き直る。
「でさ、ティファ!」
「なに?」
「俺とパーティー組まねえ!?」
はい?
まず耳を疑い、次に目を疑った。目を凝らしてみても、トリューの目はきらきらしている。
「えーっと…なんで?」
目的がわからない。一度食事を奢っただけで、ヒモにされるのは御免だ。
「行きたいとこがあんだけどさ、一人じゃ難しいらしい」
…割とちゃんとした理由だった。曇りのない眼差しを疑ってしまった事に、やや胸が痛んだ。
「行きたいとこって?」
「ダンジョンクエストってやつ!」
だんじょん。聞き覚えのあるような単語だ。迷路とか、そういう類のものだろうか。
ティファが首を傾げていると、トリューも同じように首を傾げた。
「知らないのか?」
「知らない」
「あれ? ティファって旅に出てどんくらい?」
「まだ二週間だよ」
路銀を貯めていたんだ。金はあって困らないから。そう続けると、トリューはにかっと笑った。
「じゃあ俺の方が先輩だな!」
「オメーだってまだ一ヶ月のド素人だろうが」
「先輩は先輩だ!」
店主に口を挟まれるくらいには、仲が良さそうだ。人柄だろうか。
そんな観察していると、トリューは改めてティファに向き直る。
「そう、んでな。ダンジョンクエストってのは、遺跡とか洞窟とか、広い場所の調査探索依頼の事なんだと」
「へえ」
「建物に魔物が棲みついたりとか…そういうのを取り返してほしいとか、そういう依頼も含まれる」
「なるほど」
記憶が曖昧なのだろうか。トリューは時折空を見上げながら、言葉を探している。
「で、今炭鉱に魔物が棲みついてるから、排除奪還してほしいって依頼があんだよ」
「そんなのあった?」
ティファは店主を見る。気がついた店主はひとつ息を吐いて口を開いた。
「旅に出て二週間のルーキーに、そんな依頼見せねえよ」
それもそうか、と納得した。単独踏破は難しいと、トリューも言っている。
「報酬は伝説の秘宝って話だ! 俺はそれが探してるもんか確かめたいんだけど、一緒に行ける奴いなくてさ」
この前は騙されたし、とトリューは肩を落とす。
ああ、それで金がなかったのか。
ティファは一人納得した。
「俺の探しもんだったら譲ってやれねぇけど…金貨も出るしそっちはやるよ。悪い話じゃねえだろ?」
「ふむ…」
腕を組んで天井を仰ぐ。
確かに、報酬が出るなら悪い話ではない。危険は伴うのだろうが、これからの旅を思うと、経験は多いに越した事はない。
その思考に至ったティファは、ついに結論を出す。
「よし、乗った」
「よっしゃあ!」
トリューは大きく拳を握った。「嬉しい」と顔全面に書いてある。
ふ、と眉が下がる。少なくとも、退屈はしなさそうだ。
「改めてよろしくな!」
「ああ、よろしく」
二人はしかと握手を交わす。旅に出て早々、ノノアに書く手紙が決まった。
拝啓、ノノア殿。
旅に出て二週間目。うるさい仲間とダンジョンに行く事になりました。




