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37.ヴェルヴェット将軍の動揺

ある日の朝。


秘密結社ドレスティアの拠点、地下の作戦室。


その奥の豪奢な椅子に座るヴェルヴェット将軍は、静かにワイングラスを揺らしていた。


赤い液体がゆっくりと揺れる。


視線はモニターに向けられていた。


そこに映っているのは――


桃瀬こはる。


魔法少女ピンクフリルの変身前の姿だ。


ヌギーを倒す映像。

幹部との戦闘。

怪獣との戦闘。


いくつもの戦闘ログが流れていく。


ヴェルヴェット将軍は静かに呟いた。


「……やはり」


細く長い脚を組み替える。


「いい身体をしているわ」


腰。

脚。

ヒップライン。


すべてが整っている。


まるで理想的なバランス。


しかし。


ヴェルヴェット将軍の目は少し細くなった。


「でも」


画面をじっと見る。


「この子」


「胸は……」


画面の中のこはるは、走っている。


Tシャツ姿。


胸元は――


「……」


小さい。


かなり。


むしろ自分と同じくらい。


ヴェルヴェット将軍は小さく笑った。


「なるほど」


「同族ね」


その言葉には、わずかな親近感があった。


自分も同じだった。


胸が小さい。


それでも身体のラインは美しい。


むしろその方が均整が取れる。


そう思っていた。


グラスを揺らす。


「一度」


小さく呟く。


「直接見てみたいわね」


その日の朝。


ヴェルヴェット将軍は外に出ていた。


もちろんそのままの姿ではない。


変装している。


黒い清楚なレースのドレス。

落ち着いたデザイン。


街にいても違和感のない服装。


髪も軽くまとめている。


完全に一般人の女性だ。


場所は――


こはるのジョギングコースの公園。


調査は済んでいる。


時間も分かっている。


ヴェルヴェット将軍は木陰に立っていた。


静かに。


気配を消して。


そして。


数分後。


遠くから走ってくる姿が見えた。


桃瀬こはる。


スポーツウェア姿。


一定のリズムで走っている。


フォームが綺麗だ。


脚運び。

姿勢。

体幹。


すべてが整っている。


ヴェルヴェット将軍は静かに観察していた。


「……なるほど」


小さく呟く。


「画面越しより」


「実物の方がいいわね」


やはりスタイルがいい。


脚が長い。

腰の位置が高い。


そしてヒップライン。


完璧だ。


しかし。


そのとき。


ヴェルヴェット将軍の視線が止まった。


「……?」


わずかな違和感。


胸元。


スポーツウェア越しに見えるライン。


ヴェルヴェット将軍は少し目を細めた。


「……」


もう一度見る。


こはるが近づいてくる。


胸元が揺れる。


ほんの少し。


わずかだが。


確実に。


「……」


ヴェルヴェット将軍の目が見開かれた。


「……え?」


思い描いていたイメージ。


記録映像。


そこにあった胸のライン。


しかし。


目の前のそれは――


わずかに大きい。


ほんの少し。


だが確実に。


「な、なんだと……」


ヴェルヴェット将軍の思考が一瞬止まる。


こはるはそのまま通り過ぎようとしていた。


しかし。


ヴェルヴェット将軍は思わず声を出してしまった。


「あの……」


こはるが立ち止まる。


「あ、はい?」


振り向く。


首をコテンと傾ける。


自然な仕草。


その瞬間。


ヴェルヴェット将軍の視線が胸に行く。


「(大きい……)」


ほんの少しだが。


確実に。


「(前より大きい……)」


そして別のことにも気づく。


「(それでも小さい)」


だが。


それが問題だった。


「(なぜ大きくなっている……?)」


こはるが言う。


「何でしょうか?」


ヴェルヴェット将軍は一瞬言葉に詰まった。


つい聞いてしまいそうになった。


いや。


もう聞くしかない。


「つ、つかぬことをお聞きしますが……」


こはるは普通に答える。


「はい?」


ヴェルヴェット将軍は言葉を選ぶ。


「失礼を承知でお聞きします」


そして。


思い切って聞いた。


「あなたのお胸」


こはるが一瞬きょとんとする。


ヴェルヴェット将軍は続けた。


「以前にお見かけした時」


「もう少し控えめのように感じたのですが……」


そして。


少し震えた声で言う。


「少し」


「大きくなりました?」


こはるは一瞬考えた。


そして。


「あー」


軽く笑った。


「え、あ、はい」


「成長期なので」


「ほんの少しは増えたかもしれませんね〜」


ヴェルヴェット将軍

「……」


沈黙。


こはるは気にしていない。


普通に言った。


「まあ」


「ほんのちょっとですけど」


ヴェルヴェット将軍はぎこちなく笑った。


「あ、そうですか」


「そうですね」


「成長期ですものね」


こはるはうなずく。


「そういうことです」


ヴェルヴェット将軍は軽く頭を下げた。


「お呼び止めして申し訳ありませんでした」


「では失礼します」


静かに歩き出す。


こはるはまたジョギングに戻った。


遠ざかっていく。


その背中を見ながら。


ヴェルヴェット将軍は立ち止まっていた。


沈黙。


そして。


小さく呟く。


「……成長期?」


眉がわずかに震える。


「そんな」


「わけ」


ない。


ヴェルヴェット将軍は自分の胸を見る。


ドレスの上からでも分かる。


AA。


長年。


ずっと。


同じ。


一度も変わらない。


それが。


「……」


こはるは。


「……」


わずかだが。


確実に。


大きくなっていた。


ヴェルヴェット将軍は空を見上げた。


静かな朝。


鳥の声。

風。


そして。


小さく呟く。


「……ありえない」


その声には。


わずかな――


動揺が混ざっていた。

 

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