35.怪人おっぱい星人
休日の昼前。
桃瀬こはるはショッピングモールへ買い物に来ていた。
大学入学前とはいえ、生活用品や細かい物を揃えておきたい。
春休みのショッピングモールは人も多く、家族連れやカップルで賑わっている。
「うーん、洗剤と柔軟剤は買ったし……あと何だっけ」
スマホのメモを見ながら歩いていると――
「きゃああああ!」
突然、悲鳴が響いた。
こはるは立ち止まる。
「……また?」
最近、妙に遭遇率が高い。
嫌な予感しかしない。
こっそりと柱の陰から覗いてみると――
「……なにあれ」
そこにいたのは、とんでもなく妙な人物だった。
全身肌色タイツ。
まるで人間の体そのもののような色。
胸の部分には星形のマークが二つ。
さらに極めつけは――
胸の中央に、堂々と書かれた文字。
「おっぱい星人」
そして顔には、ぐるぐる渦巻きの変なメガネ。
どう見ても怪しい。
というか怪しいを通り越している。
こはるは小さく呟いた。
「……変なの」
その瞬間。
怪人がこちらを向いた。
「む!」
気づかれた。
怪人は大きく腕を広げる。
「我は怪人おっぱい星人!」
堂々と名乗った。
「若い女性のすべてのおっぱいを愛でる者!」
ショッピングモールの通路で堂々宣言。
周囲の人々がざわつく。
おっぱい星人は続けた。
「また!」
「理想のおっぱいを探す放浪者でもある!」
こはる
「知らないし」
しかし怪人は止まらない。
「そこのお嬢さん!」
ビシッとこはるを指差す。
「御主のおっぱい!」
「なかなか良い形をしている!」
こはるの額に青筋が浮かんだ。
「大きさは全く無いが!」
さらに追撃。
「形だけなら正に理想曲線!」
こはる
「……」
拳が震える。
おっぱい星人は満足そうに頷いた。
「素晴らしい!」
「その胸のプリン型を作らせてもらえないか!」
その瞬間。
こはるのこめかみがピクピクと震えた。
「この変態」
低い声。
「絶対に嫌!」
おっぱい星人は腕を組む。
「ならば」
「力付くでいただく!」
「コレクションに加える!」
こはるはプルンを見る。
「プルン」
「こいつ強い?」
プルンは怪人をじっと観察する。
「結構強いプルン」
「400ポイントプルン」
こはるの目が光った。
「400」
拳を握る。
「だったら倒すよ」
こはるがステッキを軽く掲げる。
次の瞬間。
白い光がふわりと広がった。
柔らかな魔力の光。
粒子のような輝きが空気に溶ける。
普段着のシャツがゆっくり宙へ浮かび上がる。
ショートパンツも光の中でほどけるように離れていく。
くるり。
体が回転する。
そして――
お尻が丸見えになる。
光の中に、丸く整ったヒップラインが浮かび上がる。
腰からヒップへ流れる滑らかな曲線。
陸上で鍛えられた引き締まった形。
くるっ。
もう一度回転。
やっぱりお尻。
逆光の中でヒップの丸みがシルエットとしてくっきり浮かび上がる。
光の粒子が背中から腰へ流れ、
丸いヒップのラインをなぞるように輝いた。
次の瞬間。
胸元へ光が集まる。
小さく整った丸み。
きれいな曲線。
柔らかな光が胸の輪郭を包み込み、
衣装の布へと変わっていく。
黒いボディスーツが胸元から形成される。
体にぴったり沿うライン。
胸から腰へ続く曲線がそのまま浮かび上がる。
細いウエスト。
くびれた腰。
光が太ももへ流れ、
黒いガーターが装着される。
脚のラインを引き締めるように固定される。
さらに回転。
背中側にピンクの光が集まり――
フリルが生まれる。
腰の後ろだけに付いたピンクフリルのミニスカート。
前から見るとスッキリした戦闘衣装。
しかし後ろから見ると、
ふわりと広がるフリルがヒップラインを際立たせる。
最後にヒールブーツが脚を包み込み、
長い脚のラインが完成する。
光の粒子がゆっくり消えていく。
そこに立っていたのは――
魔法少女ピンクフリル。
黒いボディスーツ。
背面のピンクフリル。
こはるがくるりと回る。
フリルがふわりと広がり、
丸いヒップラインが一瞬だけ強調された。
変身は静かに完了した。
「魔法少女ピンクフリル!」
プルンが叫ぶ。
「決まったプルン!」
その瞬間。
おっぱい星人が感動していた。
「うほー!」
「我はおっぱい星人だが!」
「生のおしりもいいものですね!」
こはる
「……変態」
戦闘開始。
おっぱい星人がポーズを取る。
「勝ったら!」
「理想曲線のプリン型を作らせてもらう!」
「おっぱいは大爆発だ!」
こはるが叫ぶ。
「そんなことさせない!」
おっぱい星人が突進。
意外と速い。
こはるが横に跳ぶ。
「うわっ!」
ステッキを振る。
ぴかっ!
魔法弾。
直撃。
しかしおっぱい星人は転がりながら起き上がる。
「いい曲線だ!」
「だが我の研究心は止められない!」
さらに突進。
こはる
「しつこい!」
蹴り。
ばしっ!
おっぱい星人が転がる。
しかしまた立ち上がる。
「理想のプリン型!」
「諦めない!」
こはる
「だから嫌だって言ってるでしょ!」
魔法弾連射。
ぴかっ!
ぴかっ!
ぴかっ!
連続ヒット。
おっぱい星人が吹き飛ぶ。
「ぐおおお!」
壁に激突。
ドサッ。
倒れる。
こはるが近づく。
息を整える。
「はぁ……」
「はぁ……」
プルンが言った。
「倒したプルン!」
こはる
「で」
「どれ取ればいい?」
プルン
「おっぱいの星形印プルン!」
こはるは胸の星マークを掴む。
「これ?」
ぺりっ。
ぺりっ。
星が外れた。
その瞬間。
光が弾ける。
怪人の姿が崩れる。
そこにいたのは――
ただの全身タイツ男。
男は慌てて起き上がる。
「しまった!」
そしてダッシュ。
「これで勝ったと思うなよー!」
猛スピードで逃げていった。
静かになる通路。
こはる
「……」
「結局」
「怪人なのか宇宙人なのかよくわからなかった……」
プルン
「謎プルン」
こはるは空を見上げた。
深くため息をつく。
「もう現れませんように……」
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