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31.怪獣出現

朝。


空はまだ薄い青色で、街は静かな空気に包まれていた。


春の朝特有の少し冷たい空気。

遠くでカラスが鳴いている。


桃瀬こはるはマンションの前で軽くストレッチをしていた。


腕を回す。

肩を回す。

脚を伸ばす。

屈伸。

足首を回す。


体をほぐす動きは慣れたものだった。


中学から高校まで六年間。

陸上部だったこはるにとって、朝の体の調整は習慣みたいなものだ。


「よし」


小さく息を吐く。


体が温まってきた。

筋肉の動きもいい。


そのときだった。


――ズシーン。


地面がわずかに震えた。


こはるは顔を上げる。


「……ん?」


気のせいかと思った。


しかし。


――ズシーン。

――ズシーン。


今度ははっきり分かった。


振動。


しかも。


近づいてきている。


こはるは周囲を見回した。


「なにこれ」


プルンが横で浮いている。


「揺れてるプルン」


マンションの窓ガラスが微かに震える。


遠くの道路の先。

建物の隙間。


そこから、なにか巨大な影が見えた。


茶色いシルエット。


ゆっくり。

だが確実にこちらへ近づいてくる。


ズシーン。

ズシーン。


重い足音。


アスファルトが軋むような音。


こはるは目を細めた。


「……」


「え」


「ちょっと待って」


影がビルの間から現れた。


巨大な体。

二足歩行。

長い尻尾。

分厚い脚。

そして大きな口。


「ギャアオオオオオン!!!」


咆哮。


空気が震えた。


近くの電線に止まっていたカラスが一斉に飛び立つ。


こはるは叫んだ。


「なんか吠えた!!」


プルンが興奮している。


「怪獣プルン!」


「すごいプルン!」


こはるは呆然と見上げる。


「いやいやいや」


「ちょっと待って」


「なんか特撮映画で見たことあるんだけど」


怪獣はゆっくり街を歩いている。


巨大な足が道路を踏みしめるたびに

地面が小さく揺れた。


ズシーン。

ズシーン。


信号機がカタカタ揺れる。

街灯も揺れる。


完全に――怪獣だった。


こはるがプルンを見る。


「ねえ」


「これ倒せるやつ?」


プルンは少し考える。


「……」


「なんとか倒せると思うプルン」


「でも」


「格上プルン」


こはるは腕を組む。


「そっかー」


怪獣はまだこちらに気づいていない。


ゆっくり街を歩いている。


時々、建物の壁に尻尾が当たって

ガン、と鈍い音が響いた。


こはるは言った。


「でも」


「倒せるんだよね?」


プルンがうなずく。


「可能性はあるプルン」


こはるは決断した。


「よし」


「今あるポイント全部使う」


プルン

「全部?」


こはる

「500ポイント」


ステッキを取り出す。


「ステッキ強化」


「4.6倍!」


「急いで!」


プルンがステッキを受け取る。


「了解プルン!」


ステッキが光る。


ぴかっ。


魔力が流れ込む。


空気が震えるような感覚。


数秒後。


「完了プルン!」


「4.6倍プルン!」


こはるはステッキを受け取る。


手に持った瞬間、

いつもより重い魔力を感じた。


「……すごい」


「パワー上がってる」


深呼吸。


そして掲げた。


光が広がる。


朝の街にまばゆい光が溢れる。


服がふわりと宙に舞う。


体がくるくる回転する。


そして――


お尻が丸見えになる。


くるっ。


また回転。


やっぱりお尻。


朝日がヒップラインを一瞬照らす。


腰から脚へ続く滑らかな曲線。


光が集まる。


布が形を作る。


そこに現れたのは――


魔法少女。


ピンクフリルのスカート。


しかし。


上半身は黒いレース。

透けるシースルー。

メイド風デザイン。


太ももにはガーター。

黒レースの袖飾り。

ヒールブーツ。

そしてメイドカチューシャ。


ピンクと黒が混ざる衣装。


魔法少女。


なのに――かなり妖艶。


こはるはくるっと回る。


フリルスカートがふわりと広がる。


「魔法少女ピンクフリル!」


プルンが叫ぶ。


「決まったプルン!」


こはるは怪獣を見る。


「さてと」


ステッキを構える。


「公園に誘導するよ」


「街で戦うとまずい」


怪獣のサイズ。


もし暴れたら。


マンション。

コンビニ。

信号機。


全部壊れる。


「ここじゃダメ」


こはるは地面を蹴った。


屋根へジャンプ。

次の屋根。

さらにジャンプ。


陸上で鍛えた脚力と

強化された身体能力。


軽く十メートル近く飛ぶ。


怪獣の前に回り込む。


そして――


ステッキを向けた。


魔力を集中させる。


「いくよ!」


魔法弾。


ぴかっ!


光が走る。


怪獣の顔に直撃。


ドォン!!


爆発。


怪獣がよろめく。


「ギャオオオ!」


怒りの咆哮。


そして――


ドシン!


地面に倒れ込んだ。


アスファルトが割れる。


こはるが言う。


「効いてる!」


怪獣がふらつきながら立ち上がろうとする。


その瞬間。


追撃。


「もう一発!」


ぴかっ!


魔法弾。


直撃。


ドォン!!


怪獣がまた倒れる。


「いける!」


だが。


怪獣は倒れたまま――


這うように前進してきた。


巨大な爪が地面を削る。


アスファルトが削れて粉が舞う。


「うわ」


「こっち来た!」


こはるは走り出す。


「公園まで引っ張る!」


全力ダッシュ。


だが。


走ってすぐ気づいた。


「速い!」


「私の方が速い!」


プルンが言う。


「強化4.6倍プルン!」


こはるはそのまま公園へ飛び込む。


芝生の中央。


振り返る。


魔力を溜める。


ステッキが光る。


数秒後。


怪獣の姿が木々の間から現れた。


枝が折れる。

木が揺れる。


巨大な影。


「今!」


魔法弾。


ぴかっ!


ドォン!!


怪獣の胸に直撃。


怪獣は大きく揺れ――


ドシン。


地面に倒れ込んだ。


こはるが言う。


「やったか!」


しかし。


怪獣の口が光った。


赤い光。


強く。


危険な輝き。


「……え」


次の瞬間。


火炎弾。


ゴォォォ!!


炎が一直線に飛ぶ。


こはるは横に飛ぶ。


ギリギリ回避。


だが。


炎がかすった。


こはるの上半身。


衣装の黒レース部分。


じゅっ。


少し焦げる。


こはるは固まった。


数秒。


沈黙。


そして。


こはるの目が光る。


「……」


「気に入ってたのに」


プルン

「怒ったプルン」


こはるが叫ぶ。


「よくも!!」


ステッキを振る。


ぴかっ!

ぴかっ!

ぴかっ!

ぴかっ!


魔法弾連射。


光が次々と怪獣に命中。


ドォン!

ドォン!

ドォン!


爆発が連続する。


怪獣の体が揺れる。


さらに。


もう一発。


ドォン!!


巨大な煙が上がった。


やがて。


静かになった。


煙が晴れる。


そこには――


倒れた怪獣。


完全沈黙。


動かない。


こはるは肩で息をする。


「はぁ」


「はぁ」


プルンが言う。


「討伐成功プルン!」


「500ポイントプルン!」


こはるは衣装を見る。


焦げた部分。


少し破れている。


こはるはぽつりと言った。


「……」


「衣装」


「気に入ってたのに」


朝の公園。


静かな風が吹いた。

 

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