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24.休日の相席

休日の午後。


街はゆったりとした空気に包まれていた。


学生マンションから少し歩いた場所にあるファストフード店。


昼のピークは過ぎ、店内はほどほどに人がいる程度だった。


窓際の席で、小鳥遊りりはハンバーガーをかじっていた。


「……暇」


ぽつりと呟く。


ポテトを一本つまむ。


もぐもぐ。


りりは天井を見上げた。


「はぁ……」


秘密結社ドレスティアの幹部。


小悪魔怪人リリスティ。


……だった。


だが最近は出番がない。


ピンクフリルに敗北して以来、現場に出る機会が減っていた。


将軍は次の作戦をめいに任せている。


りりはしばらく待機。


つまり――暇だった。


「ほんと何してんだろ私」


ポテトをまた一本食べる。


そのときだった。


「あれ?」


不意に声がした。


「りりさん?」


りりは固まった。


ゆっくり顔を上げる。


そこに立っていたのは――


桃瀬こはる。


魔法少女ピンクフリル。


りりの思考が止まる。


「え?」


こはるは普通の私服姿だった。


笑顔。


「奇遇ですね」


「お一人ですか?」


りりは一瞬言葉を失う。


「え?……え、えぇ……」


「一人だけど……」


ぎこちない返事。


内心。


(え、なんで普通に話しかけてきてるのよ)


(敵なのに)


(意味わからない)


こはるはトレーを持っていた。


ハンバーガーセット。


「そうなんですか〜」


にこっと笑う。


「ご一緒していいですか?」


りりはまた固まる。


「え?」


こはるはすでに椅子を引きかけている。


「え、えぇ……」


「いいわよ」


(しかも相席)


(気まずい)


こはるは普通に座った。


「いただきます」


ハンバーガーを食べる。


もぐもぐ。


りりはじっと見ていた。


沈黙。


数秒。


りりはついに言った。


「……あんたねぇ」


こはる

「はい?」


りり

「どうして普通に話しかけているのよ」


こはる

「え?」


りりは腕を組む。


「私はあんたを襲ったのよ」


こはる

「そうですね」


あっさり。


りり

「……」


こはる

「でも」


「今は襲ってきてないじゃないですか」


りり

「そうだけど」


「それでいいの?」


こはるはポテトをつまむ。


「うーん」


少し考える。


「私だって襲われたら抵抗しますよ?」


「でも」


「好きで戦ってるわけでもないですし」


りり

「……」


こはる

「んー……」


「でも報酬は欲しいですけど」


りり

「そこは本音なのね」


こはる

「大事ですから」


りりは少し呆れた。


こはるは続ける。


「私から襲ったことはないと思いますよ」


りり

「……」


こはる

「あ」


思い出したように言う。


「でも変態紳士の二回目の時」


「ちょっと追いかけたかも」


りり

「それ襲ってるじゃない」


こはる

「でもあれ襲ってきそうでしたし!」


りり

「まあそうだけど」


こはる

「とにかく」


「すぐ攻撃とかはしません!」


りりはポテトを一本食べた。


「……変なやつ」


こはる

「よく言われます」


また沈黙。


店内の音だけが聞こえる。


ポテトを食べる音。


りりはちらっとこはるを見る。


普通に食事している。


魔法少女。


敵。


でも――


普通の女の子。


りりはぽつりと言った。


「あんた」


こはる

「はい?」


りり

「私がまた襲ったら?」


こはる

「その時は戦います」


あっさり。


りり

「迷いないのね」


こはる

「だって」


「それは仕方ないじゃないですか」


りり

「……」


こはるは笑った。


「でも」


「普段は普通に話していいと思います」


りり

「普通って」


こはる

「ほら」


「同じマンションですし」


「同年代ですし」


りりは少し目を逸らす。


「……」


こはる

「りりさん」


りり

「なに」


こはる

「普段は仲良くしてくれると嬉しいです」


りりは言葉を失う。


(なにそれ)


(敵なのに)


(普通にそんなこと言う?)


こはるは続ける。


「戦う時は戦う」


「でも」


「それ以外は普通」


りり

「……変な理屈」


こはる

「そうですか?」


りり

「普通、敵とは仲良くしない」


こはる

「でも」


こはるは笑う。


「りりさん」


「そんな悪い人に見えませんし」


りり

「……」


言葉に詰まる。


(なにそれ)


(意味わからない)


(私、怪人なのよ)


りりはポテトを一本食べた。


もぐもぐ。


しばらく黙る。


そしてぽつり。


「……あんた」


こはる

「はい?」


りり

「ほんと変」


こはる

「ありがとうございます」


りり

「褒めてない」


こはる

「よく言われます」


また沈黙。


りりはハンバーガーを食べた。


そして小さく言う。


「……まあ」


こはる

「?」


りり

「今は」


「襲うつもりないし」


こはる

「そうなんですか?」


りり

「気分じゃない」


こはる

「それはよかった」


りり

「……」


こはるはポテトを差し出した。


「食べます?」


りり

「自分のある」


こはる

「そうでした」


りりは小さく笑った。


ほんの少しだけ。


「……変なやつ」


こはる

「そうですか?」


りり

「うん」


りりはポテトを一本食べる。


「でも」


こはる

「?」


りりは少しだけ視線を逸らした。


「……まあ」


「暇なときくらいなら」


こはる

「?」


りり

「話くらいしてもいいわよ」


こはるはぱっと笑った。


「ほんとですか?」


りり

「別に」


「深い意味はない」


こはる

「ありがとうございます」


りり

「だから礼言うな」


こはる

「はい」


りりはまたハンバーガーをかじる。


そして思う。


(なんだろう)


(この感じ)


敵。


なのに。


普通に話している。


少しだけ。


不思議な気分だった。


窓の外には穏やかな午後の街。


そして店内には――


魔法少女と怪人。


そんな二人が


普通にハンバーガーを食べていた。

 

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