23.筋肉男
朝。
空はまだ薄い青色で、街は静かな空気に包まれていた。
夜の冷たさが少し残った春の朝だ。
遠くでカラスの鳴き声が聞こえる。
桃瀬こはるはマンションの前で軽くストレッチをしていた。
腕を回す。
脚を伸ばす。
ゆっくり屈伸する。
背中を反らし、肩を回す。
「よし」
小さく息を吐く。
身体が少しずつ目を覚ましていく。
その横でプルンがふわふわ浮いている。
「今日も走るプルン?」
「うん」
こはるは靴紐をぎゅっと締め直す。
「身体が鈍るの嫌だしね」
軽くその場でジャンプする。
着地。
問題なし。
「じゃ、行こ」
こはるは軽く走り出した。
コツ、コツ、コツ。
静かな住宅街を抜ける。
朝の街はまだ眠っている。
通りに人影はほとんどない。
走るたびにポニーテールが揺れる。
空気は少し冷たい。
だが走っていると、すぐ身体が温まる。
呼吸のリズムが整う。
(この感じ)
(やっぱり走るの好きかも)
しばらく走ると、公園が見えてくる。
いつものコース。
入口のアーチをくぐる。
木々の間を抜ける。
朝露に濡れた芝生。
鳥の鳴き声。
噴水の水音。
中央の噴水のところに――
人影。
男が一人。
変なポーズをしている。
片腕を上げ。
胸を張り。
背中を反らせ。
まるで――ボディビルのポーズ。
「……」
こはるは速度を落とす。
(朝から何あれ)
近づく。
男は気づいた。
ゆっくり振り向く。
サングラス。
全身テカテカ。
ボディビルパンツ。
そして――
とにかく筋肉。
肩。
胸。
腕。
腹筋。
全部盛り上がっている。
その瞬間。
男が叫んだ。
「キレてる!!」
こはる
「!?」
男はこはるを指差す。
「その脚!」
「キレてる!」
「バリバリ!!」
こはる
「は?」
男はさらに興奮している。
「太もも!」
「いいカット!」
「グレートケツプリ!!」
こはる
「はあ!?」
プルンが叫ぶ。
「怪人プルン!!」
やっぱり。
こはるは額を押さえた。
「また変なの」
男はポーズを変える。
サイドチェスト。
筋肉がギシギシと盛り上がる。
「その臀筋!」
「仕上がってる!!」
「ケツのキレがバームクーヘン!!」
こはる
「意味わかんない!」
男は胸を張る。
「私は!」
「究極の肉体美を追求する男!」
「筋肉男!!」
ポーズ。
「ズドーン!!」
筋肉が揺れる。
こはる
「朝から最悪」
筋肉男は興奮している。
「その体型!」
「ナイスバランス!」
「脚ゴリラ!!」
こはる
「褒めてないよね!?」
筋肉男が叫ぶ。
「そのケツ!」
「グレートケツプリ!!」
「お尻ムー大陸!!」
こはるのこめかみがピクピクする。
プルンが言う。
「怪人プルン!」
「倒すと200ポイントプルン!」
その瞬間。
こはるの目が光った。
「200」
拳を握る。
「よし」
ステッキを掲げる。
「へんしん!」
光が広がる。
服がふわりと宙に舞う。
体がくるくる回転する。
そして――
お尻が丸見えになる。
くるっ。
また回転。
やっぱりお尻。
光が集まる。
そこに現れるのは――
新しい魔法少女。
ピンクフリルのスカート。
しかし。
上半身は黒いレース。
透けるシースルー。
メイド風デザイン。
太ももにはガーター。
黒レースの袖飾り。
ヒールブーツ。
そしてメイドカチューシャ。
魔法少女。
なのに――
かなり妖艶。
こはるはくるっと回る。
「魔法少女ピンクフリル!」
筋肉男が叫ぶ。
「キターーー!!」
「そのヒップライン!!」
「グレートケツプリ!!」
こはる
「うるさい!!」
筋肉男は感動している。
「ハムストリングス!」
「完璧!!」
「お尻に鬼の顔!!」
こはる
「知らない!!」
筋肉男が構える。
「その筋肉!」
「測らせてもらう!!」
突進。
地面がドンと鳴る。
こはる横に跳ぶ。
「遅い!」
ステッキ。
ぴかっ!
魔法弾。
筋肉男が受ける。
「いい!」
「いいパンチ!」
「バリバリ!!」
さらにポーズ。
「バックダブルバイセップス!」
筋肉衝撃波。
「ズドーン!!」
空気が震える。
こはる吹き飛ぶ。
「うわっ!」
地面を滑る。
だがすぐに立ち上がる。
「意外と強い!」
プルン叫ぶ。
「気をつけるプルン!」
こはるは構える。
「でも」
「200ポイント!」
ステッキを振る。
ぴかっ!
連続魔法。
ぴかっ!
ぴかっ!
筋肉男が弾く。
「いい!」
「その太もも!」
「脚ゴリラ!!」
こはる
「やめろ!!」
こはる突進。
蹴り。
ばしっ!
筋肉男転がる。
「ぐおっ!」
地面に転がる。
芝生が舞う。
こはる追撃。
ぴかっ!
魔法直撃。
筋肉男倒れる。
「ぐぬぬ……」
こはる息を整える。
「で」
プルンに聞く。
「勝ち条件?」
プルン。
「衣装剥ぎ取りプルン!」
こはる固まる。
「……また?」
筋肉男は倒れている。
ボディビルパンツ。
こはる。
「嫌なんだけど」
プルン。
「200ポイントプルン」
こはる。
「……」
覚悟。
「ごめん」
ばっ。
パンツを剥ぎ取る。
光が消える。
そこには――
普通のマッチョ男。
「うわあああ!!」
全力ダッシュで逃げる。
朝の公園を裸足で駆けていく。
こはる。
「なんかごめん」
プルン。
「勝利プルン!」
こはるは深く息を吐いた。
「疲れた」
公園には再び静けさが戻る。
鳥の声。
噴水の音。
朝の風。
こはるは軽くストレッチをする。
そしてまた走り出した。
「ジョギング途中だし」
プルンが言う。
「真面目プルン」
こはるは笑った。
朝の公園。
魔法少女の一日は
まだ始まったばかりだった。
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