22.ドレスティア作戦会議2
地下。
秘密結社ドレスティアの拠点。
地上の古びた雑居ビルの地下深くに、その空間は存在していた。
厚いコンクリートの壁。
高い天井。
紫色の間接照明が静かに並び、広い部屋をぼんやりと照らしている。
空気はひんやりとしている。
しかし同時に、どこか甘い香水の香りが漂っていた。
部屋の中央には大きな円卓。
黒い石で作られた重厚な机だ。
表面は磨き上げられており、照明の光を鈍く反射している。
その周囲には椅子が並んでいる。
まるで秘密会議のための部屋。
だが、この部屋で一番目を引くのは壁だった。
壁一面に並ぶガラスケース。
その中には――
様々な衣装が飾られている。
ドレス。
制服。
コスチューム。
舞台衣装。
どれも丁寧に整えられ、まるで美術館の展示のようだった。
そして、その奥。
一段高い場所に置かれた豪奢な椅子。
まるで王座のようなその椅子に、一人の女が腰掛けていた。
長い黒髪。
艶のある髪が背中へ流れている。
妖艶な微笑み。
細く長い脚をゆっくり組む。
ヴェルヴェット将軍である。
彼女の視線は穏やかだが、その奥には鋭い光が宿っていた。
まるで獲物を観察する猛獣のような目。
静かな声が響く。
「……入りなさい」
重い扉が開く。
ギィ、と低い音。
地下室の静寂にゆっくり広がる。
入ってきたのは――
白森めい。
つい先ほどまでメイド怪人メイディアとして戦っていた少女だ。
しかし今は怪人姿ではない。
整えられた黒髪。
眼鏡。
落ち着いた服装。
静かな足取りで円卓の前まで歩く。
コツ。
コツ。
ヒールの音が地下室に響いた。
そして静かに頭を下げる。
「失礼します」
ヴェルヴェット将軍は肘掛けに頬を乗せたまま、めいを見下ろす。
「報告を」
短い言葉。
余計な感情は一切ない。
めいは淡々と答える。
「魔法少女ピンクフリルと交戦しました」
「結果は――敗北です」
沈黙。
地下室の照明が静かに揺れる。
しかし。
将軍は怒らなかった。
むしろ。
ゆっくり笑った。
「そう」
それだけ。
怒りもない。
驚きもない。
ただ楽しそうだった。
「思ったよりやるのね」
めいは少し顔を上げる。
ヴェルヴェット将軍は続ける。
「あなたの速度でも捕まえられないとは」
「興味深いわ」
脚を組み替える。
ドレスの布がさらりと滑る。
「詳しく聞かせなさい」
めいは戦闘の経緯を説明する。
スピード。
連続攻撃。
衣装の破壊。
そして――ジャーマンスープレックス。
その言葉を聞いた瞬間。
将軍の口元がわずかに歪む。
「なるほど」
「力任せ」
「でも」
「悪くない」
そして静かに言った。
「魔法少女ピンクフリル」
「あの子」
「本当にいい身体をしているわ」
ゆっくり指を組む。
「脚のライン」
「腰」
「バランス」
「とても綺麗」
そして視線を壁へ向ける。
ガラスケース。
並ぶ衣装。
ヴェルヴェット将軍のコレクション。
「ぜひコレクションにしたいわ」
めいは少し目を伏せる。
ヴェルヴェット将軍は続ける。
「あなたが負けたのは残念だけれど」
「問題ない」
そして指を鳴らした。
パチン。
乾いた音。
すると。
壁の一部が静かに光る。
モニターが起動した。
そこに映し出されたのは――
公園。
朝の映像。
そして。
魔法少女ピンクフリル。
ヌギーを倒している。
跳ぶ。
回る。
魔法弾。
ヌギーが吹き飛ぶ。
円卓の上にその戦闘映像が映し出されていた。
その瞬間。
扉が再び開く。
軽い足音。
入ってきたのは――
兎月みう。
ドレスティア幹部。
ラビーナ。
まだ怪人姿ではない。
しかし笑顔は楽しそうだった。
「呼ばれた?」
ヴェルヴェット将軍は言う。
「ええ」
「次はあなた」
みうの目が輝く。
「本当?」
将軍は微笑む。
「幹部」
「ラビーナ」
「バニー怪人」
「兎月みう」
「あなたに任せるわ」
みうはモニターを見る。
そこにはピンクフリル。
くるっと回る。
スカートが広がる。
みうが笑う。
「へぇ」
「結構やるじゃん」
そして言う。
「変身、ちょっと癖あるね」
ヴェルヴェット将軍はワイングラスを揺らす。
「でしょう?」
そして静かに言う。
「でも」
「まだ未完成」
画面の中。
ピンクフリルがヌギーを倒す。
将軍は微笑む。
「だからこそ」
「欲しいのよ」
そのとき。
みうが周囲を見回す。
「あれ?」
「りりは?」
めいが答える。
「来ていません」
みうは笑った。
「あー」
「負け犬だから?」
めいは何も言わない。
みうは肩をすくめた。
「まあ」
「負け犬は何やっても負け犬だよね」
ヴェルヴェット将軍も止めない。
むしろ淡々と言った。
「小鳥遊りり」
「彼女は別に」
「いてもいなくてもいいわ」
みうが笑う。
「きつ」
将軍は続ける。
「あなた達二人で任務を回しなさい」
「問題ないでしょう」
めいはうなずく。
「了解しました」
みうはにやっと笑う。
「任せてよ」
モニターの中。
ピンクフリル。
みうは小さく呟いた。
「魔法少女ピンクフリル」
「面白そうじゃん」
その目は。
完全に獲物を見つけた目だった。
ヴェルヴェット将軍はワイングラスを掲げる。
赤い液体がゆっくり揺れる。
「さて」
小さく呟く。
「次の戦い」
「楽しみね」
地下の作戦室。
秘密結社ドレスティアの次の作戦が
静かに動き始めていた。




