21.小悪魔怪人リリスティ(小鳥遊りり)の憂鬱
小鳥遊りりは、少し退屈していた。
いや――
正確に言えば、居場所がなかった。
秘密結社ドレスティアの地下拠点。
広い部屋のソファに寝転びながら、りりは天井をぼんやり見ていた。
「……はぁ」
ため息。
特に理由はない。
けれど、なんとなく面白くない。
原因ははっきりしていた。
桃瀬こはる。
魔法少女ピンクフリル。
りりは、あの日のことを思い出す。
自分が小悪魔怪人リリスティとして戦い、
そして――
負けた日。
「……」
あれから。
秘密結社ドレスティアの中で、りりの扱いは少し変わった。
元々この組織は大きくない。
ヴェルヴェット将軍。
そして幹部三人。
その四人だけで動いている組織だった。
小鳥遊りり。
白森めい。
兎月みう。
そして将軍ヴェルヴェット。
小さな組織。
だが、負けてからというもの。
「りり、今回は待機ね」
そんな言葉が増えた。
任務は――
任されなくなった。
りりはソファの上で足をぶらぶらさせる。
「暇……」
実際、暇だった。
ドレスティアという組織は、実はそれほど忙しくない。
というのも。
この組織の本来の目的は――
拠点作り。
この地球に、故郷の拠点を作ること。
それが目的だった。
拠点の形は、なんでもいいらしい。
建物さえ建てばいい。
そこから勝手にエネルギーを吸い上げるらしい。
何のエネルギーかは、りりにはよく分からない。
「龍穴」とか。
「地脈」とか。
そんな話を将軍はしていた。
けれど。
りりには難しすぎて理解できなかった。
「まあ、どうでもいいけど」
りりはソファで寝返りを打つ。
重要なのは別のことだった。
拠点の形。
それは――
派遣された者の趣味に任せていい。
という決まりらしい。
そして。
この地域の拠点。
その形は。
完全に。
ヴェルヴェット将軍の趣味。
「可愛い女の子の服を展示するミュージアム」
らしい。
最初に聞いたとき。
りりは思った。
「……変な趣味」
でも。
ドレスティアはそういう組織だった。
将軍の趣味。
それがすべて。
そして最近。
その将軍が夢中になっているのが――
魔法少女ピンクフリル。
桃瀬こはる。
「……」
りりは天井を見つめる。
あの子。
思い出す。
楽しそうな顔。
よく笑う。
よく怒る。
そして――よく喋る。
「……」
りりは小さく呟いた。
「可愛いよね」
認めざるを得ない。
桃瀬こはるは。
可愛い。
それに。
なんだか楽しそうだった。
いつも。
全力で。
戦って。
怒って。
喜んで。
「……」
りりは腕を枕にする。
少し考える。
「……」
ふと思う。
「普通に」
「仲良くおしゃべりしたいかも」
友達みたいに。
カフェで。
お茶しながら。
そんな想像。
けれど。
すぐに頭を振る。
「無理か」
敵同士だから。
魔法少女と怪人。
その関係は単純だ。
戦うだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「……」
りりは目を閉じる。
そして。
思い出す。
自分の故郷。
妖精界。
りりは、その出身だった。
ただし。
ピンクフリルの横にいる妖精。
あれとは――
敵対種族。
つまり。
この戦いは。
単なるヒーローと悪役ではない。
故郷同士の戦争。
代理戦争。
勝てば。
相手のエネルギーを奪う。
負ければ。
奪われる。
そういう仕組みだった。
でも。
りりは思う。
「……どうでもいい」
正直。
故郷に思い入れはない。
りりはみなし子だった。
家族はいない。
身寄りもない。
ただ。
生きるために。
強くなった。
そして。
今の地位を手に入れた。
それだけ。
「……」
だから。
故郷の勝敗なんて。
どうでもいい。
それよりも。
気になることがあった。
りりはぼんやり天井を見る。
そして思い出す。
あの子の笑顔。
桃瀬こはる。
魔法少女ピンクフリル。
「……」
りりは小さく呟く。
「楽しそう」
本当に。
楽しそうだった。
戦って。
叫んで。
笑って。
あんなふうに。
生きている。
りりは目を閉じる。
胸の奥が、少しだけざわつく。
でも。
それが何なのか。
まだ気づいていない。
ただ。
なんとなく。
少しだけ。
羨ましい気がした。
そして。
りりはまた天井を見つめる。
「……暇」
小悪魔怪人リリスティの憂鬱は、
まだ終わりそうになかった。




