最高のモスコミュール
「僕が東北地方を旅していた時の話なんですけどね」
最近、常連になったブロガー君が切り出した。全国のバーを飲み歩いているというつわものだ。
「仙台で道に迷ったんですよ。スマホの充電もない。そこで、適当なバーを見つけて入ったんです」
「はぁ」
「で、まずは軽く喉をうるおそうとモスコミュールを頼んだんですね」
「うん」
モスコミュールは、ウォッカをジンジャーエールで割っただけの簡単なカクテルだ。おっと、ライムジュースも少々入れる。軽くステアして完成。別名をウォッカバックとも言う。
「それがもう格別のうまさでね。びっくりしちゃいまいました」
「ほーう」
「でね、マスターに『何か特別なジンジャーエールでも使っているんですか』って訊いたんですよ。そしたら、何を取り出したと思います?」
「能勢ジンジャーとか?」
「違います」
「石垣島ジンジャーエール?」
「違いました」
「ウィルキンソンは普通だし…… 降参だ」
ブロガー君は余韻を楽しんでから言った。
「それが、カナダドライだったんですよ」
「えー!? 嘘でしょー」
私は驚いた。
そう。カナダドライは良くも悪くも一般的なジンジャーエールだ。酒飲みの間での評価はイマイチという感じだ。
「僕もマスターに『嘘だ!』って言ったんですよ。そしたらマスターがニヤリとして、カウンターの内側からおろし金と生姜を出して見せたんです。『これがうちの味の秘密です』ってね」
私はマスターに言った。
「生姜ってある?」
「ありますよ」
「試してみてよ。生姜汁入りモスコミュール」
「はいはい」
首を振りつつ面倒くさい客の要求にこたえる。
そして、完成したモスコミュールは……
「辛っ! めっちゃ生姜やん!」
「こりゃ入れすぎだよ」
「失礼しました。何分にも初めて作るものですから」
さすがのマスターも平謝りだ。
その時、私はひらめいた。
「これなら、コアントローの炭酸割に生姜汁を入れたらいいんじゃないか?」
「よし、それも頼んじゃいましょう」
そこそこいい感じのカクテルが出来た。
ブロガー君が言った。
「そうだ、閃いた! これにワサビを入れて……」
「ちょっと、あんまり変なカクテルを作らせないで下さいよ」
マスターはそう言いつつ、ノリノリでワサビチューブを取り出したのだった。
実話なんですけどね(笑)




