不器用な二人に協力するかと言えば、しない
Side ヴァイス
朝日で目が覚めた。昨日は遅くまで事件一歩手前の事が起こり、正直に言えばもう少し寝たい。いや、事件だったな、あれ。眠たいが、それを言ってはいられない。冷たい水を持って来させて、身支度を整えた。
「さて、やるか。」
そう言って真っ先に向かったのは客間だった。まだ寝ているかもしれないかと思ったが、ノックをすれば、中から「誰だ?」と尋ねられる。
「ヴァイスですよ、殿下。入りますねー。」
返事も聞かずに扉を開ければ、顔色の悪いジェミリア殿下がベッドで身体を起き上がらせていた。
「ヴァイス、……昨日の俺は何をした?」
真っ青な顔の殿下にニコッと笑いかけた。よく言われるが父によく似た氷のような笑顔になっているのだろう。
「そうですね、王宮を抜け出して、我が家に乱入。そして我が妹のグレースを襲いかけた。
……と、いうよりはもう襲っていましたね?良かったですね、殿下。止めてくれる幼馴染みが居てくれて。」
その言葉がグサグサと刺さっているのだろう。事実確認をしたいための質問であったが、隠すことなく事実を伝える。そしてまた頭を抱えた様だった。はぁ、と小さくため息を吐いてから、腕を組んだ。一応、殴らないようにするためだ。
「で、何があった?お前らしくもない、そんな暴走するなんて。」
「……バランド公爵から婚約者の挿げ替えを頼まれた。」
「……父上が原因か。」
「……グレース、嬢が泣きながら私の婚約者が辛いと言ったらしい。」
それは確かに辛いだろうな、と思った。クロエのように周りに当たり散らしてでも発散していれば、多少は違うだろう。しかし、グレースはどこにもそれを吐き出さずに、普通の令嬢ならば耐えられないと言われる王妃教育まで受けている。
ジェミリア殿下の母親であった亡き王妃様の事もある。誰もが批判できない王妃にしなければ、と教育係たちが必死になっているのも知っている。
そんな王妃教育を泣きごとも言わずにやっていたのだ、そんなグレースを父が哀れに思っていないわけがない。しかも亡くなった母親に生き写しであるグレースが辛いと言ったのなら何とかしようとしただろう。
「それは辛いだろうな。何せグレースはたった一人で交流してこない婚約者の為に王妃になろうとしているんだからな。嫌にもなるだろう。」
その言葉にジェミリア殿下は少し驚き、そしてしばらく考え込んだ。頭のいい彼の事だから律義に父と私と約束した茶会以外の交流を取っていないことに気付いたのだろう。
「ついでに言えば、そんな思いも知らない無垢な少女がいきなり欲望ぶつけられたんだ、怖かったろうな?」
その言葉にジェミリア殿下は青くなっていく。確かに貴族としては十分な対応であっただろう。周りの人間たちも殿下の想いを見て分かっている。だが、当事者たるグレースには何一つ伝わっていない。
「あ、ついでに教えてやるよ。俺は婚約者の誕生日には婚約者と町に出てデート、そんな感じで交流している。他の令息の話を例えに出すと、クロエとオクレール公爵令息だって誕生日には船遊びなり最低限の交流はしているな。」
まあ、国を建て直すのに必死だったのを知っているし、間近で見てきたが故に、グレースの事を後回しにしているのは仕方ないとも思っていた。グレース自身がワガママも言わずにその交流をしてきたのだって、殿下が忙しいのを知っているからだ。
一見、素晴らしい王太子に見えている殿下の真下に、こんな獰猛な野獣がいたとは思っていなかっただろう。
「……嫌われたかな、嫌われたよな。」
頭を抱えて悩みだす殿下に真っ先に思ったことは『めんどくせぇ』だった。幸いにも言葉には出なかったが。今のグレースがどんな気持ちかは流石に分からない。だが、いつものグレースはジェミリア殿下に対して並々ならぬ愛情はあるようだった。
ただ、どうして『婚約者を代えて欲しい』と泣き出して父に相談したのかは分からない。
大方、グレースの何かの思い込みではないかと思っていた。
うじうじとキノコでも生やしそうなジェミリア殿下に着替えをさせるように使用人たちに指示を飛ばした。私とジェミリア殿下の話を聞いていた使用人たちは、それは楽しそうに殿下の準備をさせていた。






