困惑の園遊会
Side グレース
園遊会は王太子の婚約者として参加した。こそこそと何かを言われているが、その言葉を聞き流していた。悪口を聞いてしまえば、自分の笑顔が崩れるのは目に見えているからだ。ギリギリ作り上げた笑顔が崩れる事だけはなかった。
「王太子殿下、バランド公爵令嬢。この度はご婚約おめでとうございます。」
そう言ってきたのは宰相閣下だった。彼がバランド公爵家から算出された持参金にて水害対策の全指揮を執った。その手腕は見事なもので、水害対策の為の治水から、いざという時に逃げられるようにする街づくりと、地に落ちていた王家の信頼を徐々に回復させた。
水害で一番の被害があったのは、宰相閣下の領地だった。宰相閣下は私財を投入して領地を立て直した。
「ああ、ありがとう。」
素っ気なく答えるジェミリア様の代わりに、私が応えますね、の意味で扇を開いてみれば、宰相閣下はこちらに視線を向けた。
「宰相閣下、ありがとうございます。宰相閣下の手腕は私のような一介の令嬢にまで届いております。今後も、活躍を期待しておりますわ。」
ニコリと笑えば、宰相閣下は嬉しそうに笑った。良い方なのだな、と頭の片隅で思っていた。
「ええ、我がオクレール公爵家は未来の王妃殿下に感謝しております。」
傍からは様々な視線を向けられる。でも、宰相閣下から送られる視線は非常に暖かく感じた。
「お姉様!!」
急に私の腕に絡みついてきたのは妹だった。父と母のいいとこ取りをした妹の美しさに、宰相閣下の視線が奪われたのを気付いた。宰相閣下だけではない、隣に並んでいたジェミリア殿下も同じように目を奪われていた。
初めて、彼の氷のような笑みが崩れた。
「あ、初めましてジェミリア殿下。グレースお姉様の妹、クロエ・バランドです。」
サー、と血の気が引いていくような感覚に襲われた。ジェミリア殿下、と本来なら呼ぶべきではない呼び方をして、宰相閣下への挨拶もない。そんな不敬なことをする妹を軽蔑する視線ではなく、慈しむような、愛おしそうなような熱の籠った視線を向けていた。
その瞬間に悟ってしまった。『王家の血』に反応したのは妹だと……。