ささやかなお茶会
Side グレース
それから、少しずつではあるが、王太子殿下とお茶会をしたり、手紙のやり取りをしたりと交流をしてみた。当たり障りのない会話と手紙に、私の存在を疎ましくは思っていないけれども、深い情を持たないようにしている、というのが私から見た王太子殿下の印象だった。
そして父が予測していた日が来る事となったのは、16歳。王太子殿下の婚約者になってから二年後だった。
「来週の園遊会のパートナーはお願いするね、グレース嬢。」
「はい、ジェミリア殿下。謹んでお受けします。」
互いに打ち解けることもなく、適度な距離で接していた。定期的なお茶会でも互いに会話は他人行儀で、強いて言えば互いに名前で呼ぶようになったぐらいだった。それにお茶会には必ず兄が同席している。今日は少し離れたところで見守っていた。
「そういえば、グレース嬢の妹は今年、園遊会に初参加になるのかな?」
「ええ、妹のクロエも今年は参加になります。お兄さまは、何か失態を起こさないか心配しているみたいですが。」
「ヴァイスは君の初参加の時もそんなことを言っていたよ。」
「まあ、お兄さまが?私の事は心配しなくていいと言っていましたのに……。」
兄のヴァイス・バランドとジェミリア殿下は同じ年で仲も良い。そんな兄は渋い顔でこちらを見ていた。ジェミリア殿下の事を聞くのは本人よりも兄の方が多いような気もしていた。
それは、彼にとっても一緒だろうが。
「兄弟というものはそう言う感じなんだろうな。私には居ないから分からないが。」
「まあ、寂しくならないという意味では良いですが、少々、大変なことも多いですね。」
そう言いながらも言いようもない不安を覚えた。妹のクロエは、見た目は父と母の良い所取りをした可愛らしい少女だ。兄も父の美貌を受け継いでいるが、私はどちからというと母似で、キツイ印象を与えてしまう。そんなキツイ印象の私が妹を怒れば、誰もが妹を虐めている図にしか見えない。父ですら、私が注意した言葉に泣き出した妹という図だけで私が理不尽に怒っていると勘違いするのだ。
兄だけが理解してくれるというのは、唯一の救いだった。
「出来るなら、私たちの子供も多い方がいいな。」
何気なく呟かれた言葉。それに対して答えることはなかった。あいまいに笑えば、彼も同じように笑った。