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王妃様が王妃になったのは、猛獣の尻尾を思いっきり踏んだ結果だった。  作者: まるちーるだ


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息子が生まれた日

Side ジェミリア


グレースとの結婚式は、国全体が祝福に包まれるほどの盛大なものであった。王都の大通りは朝から晩まで人で埋まり、鐘の音と音楽が絶えず響き渡った。

国中から集められた最高級の宝飾や布で身を包んだ彼女は、光を反射するように輝き、その姿は女神と見紛うほどだった。


バランド公爵が涙を堪えながら、それでも誇らしげに娘を導いたバージンロード。彼の大きな手に握られたグレースの小さな手は震えていたが、その表情には確かな決意が宿っていた。参列者たちは思わず息を呑み、言葉を忘れ、ただ彼女の美しさに見惚れた。私にとっても忘れられない光景であり、今でも夢に見るほどだ。


——そして結婚からわずか半年後、彼女は懐妊した。

国中が歓喜に沸き立ち、王妃の胎に宿った命こそ未来の象徴と謳われた。やがて十月十日も経たぬうちにその子は生を受けることになった。


王子、アレックス。

待望の跡継ぎ。

誰もがその誕生を望み、祈り、喜んだ。


だが、その瞬間はグレースにとって絶望をもたらした。


出産の最中、アレックスと母を繋ぐ命綱が、よりにもよってアレックスの首に絡まった。産声は上がらず、産室は一瞬で凍り付いた。助けるには母の腹を切り裂き、命を削るしかない。あるいは母を守り、子を諦めるか。


彼女は迷いなく前者を選んだ。


「この子を……生かして……」


その声は震えていたが、決して揺らぎはなかった。


結果、アレックスは助かった。だが、グレースの腹は二度と子を宿すことは叶わぬほどに損なわれた。


私の不手際だ。治癒師を十分に備えていなかった。もっと早く判断していれば。もっと適切に動けていれば。いくら悔いても悔やみきれない。だが、彼女は泣きながらも、生まれたばかりの赤子を腕に抱きしめ、私に向かって震える声を絞り出した。


「……側妃を、お迎えください」


その言葉を聞いた瞬間、鼓動が痛いほどに跳ね上がった。


「王子が一人いれば、それで十分ではないか」


必死にそう答える。彼女だけでいい、そう思った。彼女以外に子を作るなど、考えるだけで耐えられなかった。


だが、彼女は涙に濡れた顔で、怒鳴るように叫んだ。


「貴方は自分の息子に同じ思いをさせるおつもりですか!! 兄弟がいれば、辛くとも支え合える……そう仰ったのは貴方ご自身ではありませんか!」


——確かに言った。

母を早くに失い、孤独を抱え続けた私にとって、それは願いであり祈りだった。だが、いざ自分の子に同じ未来を背負わせるかと問われれば、答えは決まっていた。


「……わかった。ただし、相手は私が選ぶ」


しばしの沈黙の後、そう答えると、彼女は肩の力を抜き、嗚咽まじりに頷いた。


「ええ……わかりました……」


その瞬間、私たちの間にあった幸福な静けさは崩れ、王としての義務と夫としての愛の狭間で揺れる日々が始まった。


やがて条件を定め、側妃探しが始まった。

血筋、家柄、気性、そして「グレースが受け入れられるかどうか」。その全てを満たす者は簡単には見つからず、幾人もの候補が上がっては消えていった。


——ようやく見つかったのは、一年後のことだった。

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