お茶会に戻って
Side グレース
最後はあえてぼやかして話したものの、結局のところは「婚約解消」の一言をきっかけに王宮を飛び出し、既成事実を作ろうとした現国王——私の夫の話をしてしまった。義理の娘二人はそれを黙って聞いていたが、やはり顔色は優れない。あのときの彼の暴走を知らぬ者はいないだろうし、二人とも「王家の血」に選ばれたのだから、心当たりはあるはずだった。
ステファンは要領がよかった。すぐに王命を取り付けてターシャを逃さぬよう囲い込み、結婚するまでの間は「血」の狂気をほとんど表に出さなかった。だからこそ、ターシャは彼の恐ろしさを肌で感じることは少なかったのだろう。対してエレーナは違った。婚約の時点から三度も大きな波乱に巻き込まれ、そのたびに逃げ場のない「王家の血」の恐怖と向き合わされた。今も彼女の顔に浮かぶ青ざめた色は、その記憶の証だ。
——義理の娘たちも、やはり私と同じ。
「王家の血」が選んだ存在。逃れられぬ宿命を背負った娘たち。
「グレース。エレーナとターシャとお茶会をしていると聞いて来たんだが。」
朗々とした声が響いた瞬間、部屋の空気が変わった。すぐにターシャとエレーナは立ち上がり、裾をつまんで優雅にカーテシーを披露する。息子たちの世代で「最も美しく、品格ある令嬢」と評された二人だ。その仕草は完璧で、今や一人は公爵夫人、一人は王太子妃という立場にふさわしい。
私と妹が若い頃にこうして並び立ったことはなかった。だからこそ、こうして仲良く肩を並べる義理の娘たちを見ると、少し羨ましい気持ちすら覚える。
「二人とも楽にしてくれ。ここでは『家族』だから気にすることはない。」
夫——国王ジェミリア様の言葉に、二人は一礼して席へ戻った。ターシャが口を開く。
「お久しぶりでございます、お義父様。」
柔らかな声音に、ジェミリア様の口元が綻ぶ。エレーナとは宮中で顔を合わせる機会が多いが、ターシャはそうではない。だからこそ、その成長ぶりを目にするたび、義父である彼は喜びを隠さない。
「ターシャ、少し見ない間にまた綺麗になったね?」
「ありがとうございます。」
控えめに微笑むターシャの頬はほんのり赤い。先ほどお茶会で交わした話の内容を思えば、彼女が輝きを増した理由は察しがついている。けれど、ここで深入りしてはならない。娘の羞恥を守るのも母の役目だ。
「グレースが楽しそうに話しているようだったから気になったのだけれども、何を話していたのだい?」
そう問いかけられた瞬間、二人の娘は同時に視線を逸らした。さすがに、夫を「婚約解消で暴走した」と暴露したなどとは言えまい。私も小さくため息をつき、代わりに答えを紡ぐ。
「昔、私が貴方を怒らせてしまった時の話をしていたのよ。」
「……ああ、ステファンが生まれた時か。」
思わぬ言葉に、義理の娘たちはそろって目を丸くする。ジェミリア様自身もその反応に「あれ、違ったか?」と首を傾げる。
「……勘違いしていた時の話の方ですわ。」
「そっちか。」
軽く笑う夫の声。しかし「ステファンが生まれた時」という言葉が娘たちの心を捉えたようだった。特にターシャは、知りたいという気持ちを隠せない。新米の王太子妃として、夫の幼少期や出生の秘話には強い関心を抱いているのだろう。
目を輝かせる娘の顔に、ジェミリア様が楽しげに笑みを深める。その笑みがあまりに柔らかく、慈愛に満ちているからこそ、私は薄ら寒さを覚えた。——あの時の「狂気」と今の「微笑み」が、同じ人物から生まれていることを、私は誰よりも知っているのだから。




