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黒幕がいると話が急に厄介なものになる

昨日の今日ですみません、毎日の投稿時間を十二時に変更します。

神を名乗る少年によれば、イージーなはずなのだが、現状とてもではないがそうは思えない。


俺のいるダクール王国は大陸西部の最西端とされているウェスティン山脈を背にして存在する内陸の小国である。

ウェスティン山脈から流れる川により水源が豊富で穀倉地帯も多く、周辺の小国の中では上位の国力を誇る。

だが、周辺国との関係は決して良いとは言い切れず、一月程前には寝返った貴族を討伐するために、東で国境が接しているナイアス王国と戦争している。


現在は停戦し、両国間で交渉しているようだが、ダクール王国は領土こそ奪われなかったものの、裏切り者の討伐に失敗し、敗戦しているため、不利な交渉になっているらしい。

そのため、貴族たちには報奨が支払われてないのが現状だ。


さて、何故小国の中で上位の国力を誇る我が国が負けたのか、簡単な話で親愛なる国王陛下がどうしようもないバカ(愚王)だからだ。

まあ、そんなことよりも目の前の現実を直視しよう。


「…………ギリギリ黒字か。せめて戦費ぐらいは先に払ってくれないかなぁ」


俺はリリスがクライスを呼びに行っている間に執務を消化するために手を動かしていたが、財政に関する資料で手を止める。

そこには今月の収支報告が書かれており、それによれば財政は完全に赤字だった。

塩の鉱脈などの収入源があるものの、人口が少ないアルトロス男爵家では完全に稼働しているとは言えず、食料や矢玉などの消耗品を含めた戦費、戦死者や負傷者の家族に対する見舞金や生活援助に加え、アルトロス家の屋敷がある町を一回り大きな町にグレードアップする為の工事費用などが財政を圧迫していた。


資料を片手に頭を痛めていると、不意に扉がノックされる。


「クライスでございます。お呼びと聞きましたので参りました」

「入れ」

「失礼いたします」


許可を出すと執事服を着た初老の男がリリスを伴って入室してくる。

クライスはほとんど白髪になっている髪をオールドバックにした初老の男で、細身ながらも鍛えられた身体は曲がることを知らずにピンっと伸ばされていた。少なくとも、俺はこの男が背を曲げたところを見たことがない。


「リリスから聞いているかもしれないが、これを見てくれ」

「拝見いたします」


俺から手紙を丁寧に受け取ると、クライスは手紙の内容に目を走らせていく。

リリスと同じ様に眉間に皺を寄せて読んでいたが、読み終わると瞼を閉じ、息をゆっくり吐いてから手紙を俺に返した。


「なるほど……まずは、おめでとうございます」

「…………嫌味か?」


これの何処に祝うような内容があると言うのか。

祝いの言葉に顔をしかめた俺にクライスは苦笑して首を横に振った。


「いいえ、違います。アレン様がお嫌いだったというのもありますが…………実は、我々家臣の間ではアレン様の元婚約者のレビア……様は評判が悪く、どうにかして穏便に婚約破棄出来ないものかと日々頭を悩ませておりました」

「あー……分かる。逆の立場なら俺でも同じこと考えただろうしな…」

「はい、ですので他の者も喜ぶでしょう」


その弁解の内容には俺も共感出来た。何せ、初めてこの屋敷に来たレビアの最初の言葉が「みすぼらしい屋敷」であることから分かるように、レビアは失礼な言動は勿論のこと、傲慢な性格を取り繕うことすらしなかったので、アルトロス家の家臣から嫌われていた。


クライスも敬称を付けて呼ぶことに相当な嫌悪感を持っているようだ。家中に思いっ切り不和の種を蒔きそうなやつだった、そう考えてみれば確かに目出度いことかもしれない。


(あいつ、二言目にはこれだから格下の男爵家は、とか言ってたからな)

「だが、この時期に頼りやすい相手を失ったのは痛いな」

「そうでしょうか?確かにマクベス子爵家の財政には大いに余裕があると思いますが、現当主の性格からして婚約があったとしてもそう簡単に貸してくださるとは思えませんが……」

「大いに余裕がある?どうしてだ?マクベス子爵家もあの負け戦に参戦してたんだろ」


クライスの言葉に首を傾げる。聞いたところによるとナイアス王国との戦争で派兵した兵力の内、四分の一もの損害を受け、大敗している。

そんな状況で戦費が嵩まないはずはないのだが、クライスが言うには余裕があるらしい。


「参戦したと言ってもその位置取りはどちらかといえば後方よりな上に、本陣が撤退を始めてから直ぐに戦場から逃げ出したようでして……あまり深刻な被害は受けておりません。私の手の者が調べたところ、戦死者の遺族などへの支援金は十分に払われていないとのことでした」

「いや、負傷者は兎も角、戦死者の遺族への支援金はこの国の法律があるから払わないと駄目だろ」


ダクール王国には初代国王が定めた戦争での戦死者の遺族や負傷者への支援金の給付を貴族に義務付ける法律がある。

建国当時の戦乱の時代に農民兵の数と指揮を上げるために作られた法律だ

それを蔑ろにすれば、高位の貴族でも罪に問われる。とはいえ、抜け道がないわけではなく……。


「払いはしたと言い訳するつもりでしょう」

「……控え目に言ってもゴミですね」

「リリス、その様なことを言ってはなりません。ゴミに失礼というものです。ゴミは土に帰れば養分となり、自然の役に立つのですから」

「確かにそうですね。失言でした」

「…………」


昔から何故、クライスのような礼儀正しい人物育てて、リリスのような毒舌で慇懃無礼な人物が出来上がるのかが不思議だったが、どうやら毒舌などもクライスの陶酔によるものだったらしい。

紳士としてのクライスを尊敬していた俺としては出来れば一生知りたくなかった事実だった。


「その様などうでも良いことはさておき、もっと深刻な問題がございます」

「もっと深刻な問題?」

「はい、アレン様はマクベス子爵のバカさ加減に呆れ過ぎて、気付いておられないようですが、婚約破棄の理由が分かりません。ご存じの通り、当家は二年前程に山脈に岩塩が採れる塩の鉱脈を発見いたしました。あのまま婚約が続いていれば、マクベス子爵家は塩の利権に一枚噛めたはずです。真っ当な貴族なら、この時期に当家に恩を売っておくものです。婚約破棄などもっての他、百害あって一利なしの選択と言えるでしょうな」


「それはつまり、今回の婚約破棄がマクベス子爵にとって得と思える程の存在が黒幕に居るってことか?」

「その通りでございます」


頭痛が止まらない。アルトロス男爵家とマクベス子爵家との関係を拗らせて得をするということは、黒幕は塩の利権に一枚噛みたいか、それを自分のものにしようとする他の貴族だろう。

しかも、無駄にプライドが高いマクベス子爵が自身の風評を気にしないで従う相手となれば、間違いなく中央で力を持っている伯爵以上の大貴族だ。

つまり、うちはそんな面倒臭いどころではない相手に目をつけられているわけだ。


この状況の何処がイージーなのか、神に問いただしたいところだが残念なことにその手段がいない。


「婚姻を捻じ込んでくるってだけならいいが……最悪、関係悪化を理由にして適当に大義名分を立ててうちの領を攻めとり、中央で黒幕がそれを正当化してマクベス子爵か、その黒幕がうちの領を手に入れる算段だろうな」

「……流石に無理があるのでは?」


「王様は馬鹿だし、そもそも傀儡だからな。中央で大きな力を持ってるなら、敵対している貴族の横槍にさえ気を付けていれば何とかなるんだよ」

「裏で大貴族が糸を引いているならば、いざ戦争になった時、少なくとも相手の兵力は確実に此方よりも上でしょうな」


「ああ、だから屯田兵を使う。そうすれば兵力差は多少埋まるはずだ」

「……屯田兵ですか。確か、アレン様が東方の一部でで用いられていることを知って導入した開拓村の者に訓練をさせ半兵半農にする制度でしたな」


この屯田兵は前世とは意味が違う。前世では開拓を行う軍人だったが、アルトロス男爵家では訓練を行った農民を指す。

開拓村に入植した者たちに開墾した土地を三年間税を取らないことを条件に兵士としての訓練を定期的に受けさせている。簡単な話、農民兵の質を上げて戦争での死傷者を減らして領地の力を落としにくくするための政策だ。

導入してから間もなかったこともあって一ヵ月前の戦争には間に合わず、今も十分な練度があるとは言えないが、背に腹は変えられない。


「まあ、本業の兵士よりも練度が低いが、陣営を築いての防衛戦なら十分役に立つ」

「承知いたしました。では、そのように指示を出しますが一度他の者も呼び、対策を話し合わなくてはなりませんな。マルス様にもご報告しなければ……」

「苦労をかけるな」

「いえ、そのようなことはありません。お気になされないでください。そのお心だけで私には十分です」


苦笑して軽く頭を下げるクライスを見て自分の無力さに情けない気持ちが表情に出そうだった。まあ、これから忙しくなるのも含めてマクベス子爵のせいなんだがな。


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次話は6/1十二時に投稿します。

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