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1114:角

★ ☆ ★


陛下が自室に戻ったのを確認すると、私は今年の仕事を終えて帰宅することになった。

1770年から国土管理局の職員として勤続しているが、陛下の代になってからこの組織を含めて我が国の内情は大きく変わっていった。


それまでは貴族や聖職者が無税となって税金を納める立場ではなかったのを、彼らの反発を押し切って納税義務化をしたことである。これによって、税の収入は大幅に増えるようになり、また納税反対をしていた貴族の中でも脱税行為や資金洗浄をして納税を軽くしようと試みた者は爵位の剥奪や、懲役刑に処されたこともあり、大部分の貴族は自分達の事業を立ち上げたり、維持などができない場合には家や資産を売却して生計を立てる手筈を整えたのである。


陛下は以前から大貴族に対して課税は実施すべきとの立場を行っており、オルレアン公の反乱未遂事件以降、他の貴族に対しても従属か離反か迫ったほどであった。

これまでにも改革を実施しようとしていた例はあったが、前任のルイ15世陛下は色欲を重視しており、歳を取っても尚、それが衰えることなく長女の凶行が行われるまで、デュ・バリー夫人を愛妾として迎え入れていたほどだ。


それと打って変わって国王に就任した若年14歳の陛下は、大人からの入れ知恵でやったわけでもなく自主的に改革を率先して実施。

宮殿内の改革から始まり、貴族や聖職者への課税義務化、それから事業所登録を行って納税の流れなどを細かく指定して、税金の確保と使い道を庶民にも分かりやすくイラストで宣伝するようにした事だ。


陛下は仰った。


「まだパリでは男性でも識字率は半分も満たしていない、文盲の人が多い中で文字だけでは理解できない仕組みを、イラストを使って分かりやすく説明する必要がある。それに向けて予算を作り、冊子や街頭で説明をしたほうが多くの国民に理解してもらえるようになるだろう。それに、多くの人達が税金の使い道を理解することで、徴税人からの税収ではなく、自分達で納税するようになれば結果的に税金の収支が増えることに繋がるはずだ」


これまで悪名高い事で有名な徴税人に関しては、必要とされている税金よりも多くの税金を受け取っていたことが問題視されており、徴税人を廃止にする代わりに、パリなどの都市部では区画ごとに納税部署を作り、そこから住民の情報を産出して税金を納めている人に対して、しっかりと金銭の受領の証だけでなく、記録簿を付けて欠かさずに納税をした者に対して、一部の税金の免除や医療費の補助、年金制度における優遇制度などを行うことを発表したことで、これまで徴税人からの税金支払いを躊躇っていた層からの税収が一気に増えた。


私も税を取り扱う部署にいたから分かるが、陛下が改革を行う前と後では空気が違っていた。

以前は徴税人から受け取った税金の金額を数えたりしていたが、明らかに着服していると思われる事例も見つかっており、それを国土管理局の当時の局長であったハウザー氏に報告したりもした。

結果、徴税人制度を廃止にして税金を各自で納税し、納税者には医療費控除や年金制度の優遇などを大々的に打ち出したことで、前年度から一気に納税金額が35%も上がったのである。


税を確保して国の収益を黒字にした陛下が次に行った事は、王国民の意識改革と植民地として活用されていたサン=ドマング地域の開発と奴隷制の完全撤廃であった。

有色人種や混血の人が多く住んでいたサン=ドマングについて、陛下は奴隷制を廃止にする代わりに、農園などで働いている者達を『契約労働者』として従事させることにし、彼らに対しても給与を支払う事が義務化された。


そして有色人種であっても肌の色の違いなどで教育などを受けさせない事があってはならないとして、それまでフランスでは当たり前であった肌や人種の違いに対する差別なども法律で違法という形となり、本人の能力によって採用を行う【実力方式】を行い、これによってサン=ドマング出身の有色人種の人達の中から優秀な人材がパリ大学に入学したり国土管理局の職員として働いているのだ。


サン=ドマングの有色人種の多くが白人層からの不適切な言動や扱い方に苦労しており、一部の白人支配層がこれに反発をして動乱騒ぎを起こした事もあったが、結果としてそういった人物は鎮圧後に刑務所に送られて、改革派指導の下でサン=ドマングの生産品である砂糖やコーヒーをブランド化し、現地における生産品の加工や瓶詰の工場を作ることで、雇用を維持し彼らに対してもフランス本土と同じ補助を行って、格差を無くそうと努力した。


結果としてサン=ドマングの市民たちは陛下に忠誠を誓い、その団結力は凄まじいものになった。

北米連合軍による軍事侵攻が起こった際には、サン=ドマングの住民は陛下のためにと徹底抗戦を行った事でも知られている。

有色人種で構成された部隊の中には、陛下に忠誠を尽くすために防衛陣地において最期まで持ち場を離れずに死守をして全滅した部隊もいたほどだ。


彼らの忠誠心に報いる為にも、サン=ドマングの戦後復興は国家の一大プロジェクトとなって行われた。

陛下は巨額の寄附金を各所で集めており、主にハウザー氏の協力もあってユダヤ系コミュニティから莫大な資金援助を貰うことに成功。

その資金を使って戦争によって破壊されたラム酒工場や、砂糖の精製工場の復旧費用として、また余ったお金の一部は戦災孤児や戦争によって家屋を破壊された一般市民に対して住居の修復・再建費用として捻出する資金源となったのである。


彼らの働きもさることながら、陛下は有色人種のみならずユダヤ系の人達に対しても解放令を出して国内における経済活動の自由化や金融事業への参入を認可し、彼らに対しては不動産事業などにおいても利益を出した分について一定の税金を納めれば好きにしてもいいと他のフランス人と同じぐらいに制度の見直しを実施した。


これによって解放令で自由になったユダヤ系商人たちは銀行事業を含めた証券会社や保険会社など金融事業を中心に次々と新規参入を行い、貸金業に関しても上限年利を15%とし、それ以上を超える年利を取り立てることを禁じる等の制約を設けた上で、巷で蔓延っていた違法な貸金業者の摘発も大々的に執り行ったのである。


これによってユダヤ系の企業が次々と立ち上げて勢力を拡大し、経済活動においてフランスを拠点にした影響力を持つようになった。

結果、地方議会においてユダヤ系の力が増している反面、彼らへの差別的な扱いが起きないように税率に関しても政府とユダヤ系資本の双方合意の下で多く取り立てて公共事業に役立つようにしている。


陛下が執り行っている政策は、実に凄まじい。

あれを十代半ばで考えていたのであれば、我が国の将来も既に見据えていたのではないだろうか……。

であれば、陛下はきっと未来も見えているはずだ。

私のような平の職員であっても、陛下の行く末を見届けていきたいものだ……。

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