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1113:日暮れの雪

未来に向けた投資……。

政治的なメッセージを発信する事もそうだが、今後やるべき事はいくつもある。

その中でも、国土管理局や周辺諸国との協力を行って未来の体制が盤石なものにするために必要なことを着々と行う事を取り決めて、来年度からフランスと同じように国家の政治部分や王族や皇族の取り決めに関する事を実行に移す。

王権政治の終焉ではなく、形を変えた延命措置ともいえるやり方だ。

これをアントワネットはどう思うか……。

資料を国土管理局の職員に渡した後、俺は廊下を歩いて自室に戻った。


大晦日ということもあり、一年の節目となる日ということもあってか、アントワネットは落ち着いた様子で本を読んでいた。

本のタイトルは『日暮れの雪』という小説である。

この小説はピエール・ショデルロという人物が描いた作品であり、後の未来で貴族の内紛や政治の内輪揉めでフランスが滅茶苦茶になってしまったら……というIFを描いているという。


ショデルロは史実でも作家としてデビューを果たしていた人物のはずだが、どうやらこの世界においても小説家として名を上げているようであった。

アントワネット曰く、スリリングな場面があって面白いと太鼓判を押していた。


「この小説はきめ細かな設定があって素晴らしいんですよ。もし、この国でこんな事が起こったら……そんな恐怖をユーモラスに交えて書いているんですよ」

「ほう……それは興味深いなぁ……ちょっと見せてもらってもいいかね?」

「ええ!ここが面白いんですよ!」


ウキウキで小説を貸してくれたアントワネットだが、実際に俺の知っている歴史ではルイ16世やアントワネットはすでにギロチン台によって首を刎ねられた後になっている。

史実に比べても長生きしている方ではあるが、この時代の人達が考えた革命というのがどういった内容なのか気になったのでページをめくって読んでみることにした。


所謂、架空のIF小説であり、物語は1850年……今から約54年後のフランスが舞台のようだ。


物語のあらすじとして、鉄と蒸気の都市を構築したパリにおいて、歯車と車輪が交差しない瞬間がない程に過密な蒸気都市となっており、人々は工業の自動化の波に押し流される形で工場などで勤務し、そこで働いて娯楽に費やす快楽主義的な生活を享受することが日常となった世界。

貴族と労働者は分断された街で暮らしており、お互いに顔を接する機会はない。


そんな世界において、無垢で世間を知らない貴族の娘エマが労働者の青年ガルと出会ったことで運命の歯車が回りだす。

階層社会が厳格化されたパリにおいて、貴族が労働者と会話することもおいそれとは出来ない状況であり、下手に話を掛けたら罰則規定まで設けているほどだ。

労働者の青年も危険を冒して労働者の街に迷い込んだエマを保護し、貴族の街に返した。

ガルが純粋に助けてくれた事にエマの父親は感動し、二人の文通を許可してやり取りをするようになる。


だが、この世界において貴族が工場などの収益で権力を持つようになり、次第に私物化していった末に警察機関は貴族に買収され、工場の労働者たちもそんな生活から逃れるように快楽に溺れて正気を保とうとしている情勢だ。


そんな中でもガルは純白無垢のエマの事に気を掛けており、その誠実さに貴族のエマは次第に恋が芽生えていく。ロマンスを感じる内容ではあるが、物語中盤で事態は一変する。


そんなエマに政略結婚の話が舞い込んでくるが、それは汚職をしている大貴族であり、その大貴族は宮廷の政治権力すらも悪用している状況であり、気に食わない人間は人種や身分問わず潰そうとしてくるのだという。


エマの父親が決めた政略結婚に反発するも、大貴族の私兵によって強引に屋敷に連れて行かれ、部屋に軟禁されてしまう。自分の身体を好き勝手に触られる前にエマは髪を斬り落としてから汚職に塗れた貴族社会とこれまでの人生に別れを告げて、自分の想いを受け止めてくれているガルとの愛の逃避行に移る……という話である。


中々にスリリングであり、退廃的な未来都市として描かれているパリの描写も素晴らしいものであった。

蒸気機関車や蒸気で動く馬を活用したパリ警察が主人公を追いかけるシーンは迫力があるし、何よりも未来のディストピアを描いたスチームパンク小説としてはかなり面白いのだ。

アントワネットがおすすめだと太鼓判を押したのも頷ける。

この小説はパリを中心に売れているらしく、出版社もあのパリ経済産業新聞が出資して作らせた新規の出版社のようだ。


「この小説は面白いね……主人公である貴族の娘が心を通わせた青年と一緒に逃避行に走るシーンが特に気合いが入っているね」

「そうですよね!それが迫力があってかっこいいと評判なんですよ!改革派の人達の間でも流行しているんですよ!」

「改革派でも流行しているのか?」

「ええ!何と言っても、この小説はもしフランスが道を間違えてしまったら、このような事になり得るかもしれないという恐怖も描いていますからね……そうならないようにするためにどうすればいいのか?という議題にも使っているのです」

「成程なぁ……小説を使って議題を考えるか……確かに、未来を描いている小説としては人間描写とか汚職の表現もよく描いているもんなぁ……」


この小説が改革派にも受け入れられている理由の一つに、汚職の問題を放置しているとどうなってしまうのかという事を問いかけているそうだ。

汚職問題は改革派でも定期的に取り上げられるネタであり、それこそ改革派の尽力によってそれまで無課税でやり通していた貴族や聖職者に対して、一定の収入があれば納税することが義務化されたことも相まって、この納税を誤魔化したりして処罰を受けた貴族は一定数存在している。


悪質性の高い例を挙げれば、複数のダミー会社を所有して多くの収入のあったものを各会社に資金を分配させ、総合収入が少ないように偽装していた事案も存在している。

その貴族は国際貿易の取引で莫大な財を築いていたものの、事態が発覚してからは追加徴税と貴族の地位を剥奪されることとなり、結果としてその事案が表沙汰になって以降は貴族社会の中では騙して納税を行おうとする輩はいなくなった。

納税の義務は重大であり、義務となったことで意識改革に繋がったのである。


今のフランスは、史実のようにフランス革命が起きてしまった時のような情勢ではなく、むしろ安定した政治体制を確立させることに成功した君主制国家といえる。

そんな中で、仮に民主主義を導入するにしても国政に関してはそれぞれのエキスパートが担い、タケノコのように無造作に党を樹立させるのではなく、議会政治を導入するにしても地方議会まで……という形を行った方がいいだろう。


いざという時には国王や皇帝が権威を発動して問題に対処する。

そして国民の象徴として極端な政治にブレーキ役として機能することが出来るようにシャルルにも伝えておこう。

こうして、アントワネットと二人で小説の話題を挙げながら新年を迎えることとなった。

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